初恋が死んだと知った妻の成瀬美咲(なるせ みさき)は、新婚旅行中のクルーズ船から身を投げ、この世を去った。そのときになって、ようやく俺は知った。彼女は一度も、水沢奏太(みずさわ そうた)のことを忘れていなかったのだと。少女の頃に戻った彼女は、迷いなく俺の手を振りほどき、初恋のもとへ駆けていった。俺は二人の背中を見送って、そのまま背を向けた。それから先、俺たちの人生が交わることはなかった。ただ並んで伸びていくだけの、交わらない二本の平行線になった。十年後、海市のパーティーで俺たちは再会した。彼女はすでに社交界の新たな寵児となっていて、奏太の腕に親しげに寄り添いながら姿を見せた。俺が人を捜して会場に入ってきたのを見ると、彼女は思わず口を開いた。「どうしてそこまで私に執着するの?たとえ十年待ったとしても、私はあなたを愛したりしないわ」俺は相手にせず、隅でこっそりケーキをつまみ食いしていた息子の首根っこをつかまえた。その瞬間、彼女ははっとしたように目を赤くして、俺の手を強くつかんだ。……「わざと私を怒らせようとしてるの?あなた、言ったじゃない。この一生、愛するのは私だけだって」まさかこの人生で、もう一度美咲と再会することになるなんて、夢にも思わなかった。海市の名士たちが集う華やかなパーティーで、彼女は奏太の腕に手を添え、人々の輪の中に立っていた。笑みは優雅で気品に満ちていて、あの頃の少女の面影はもう少しも残っていなかった。周囲に集まった人たちはみな愛想笑いを浮かべ、へつらうような口調で口々に言った。「成瀬さんは本当に男勝りですね。こんな若さで県レベルのプロジェクトを勝ち取るなんて、先が楽しみです!」「お隣の方はお相手でしょうか。まさにお似合いで、見ているこっちがうらやましくなりますね」奏太は美咲を優しく見つめ、穏やかな声で言った。「俺たちは年末に結婚する予定です。お時間がありましたら、ぜひ披露宴にいらしてください」周囲からまた祝福の声が上がり、その中の誰かがふと尋ねた。「お二人、もう十年も付き合ってるって聞きましたけど、どうして今になってようやく結婚なんですか?」その疑問は、俺もちょっと気になっていた。前の人生で、美咲は奏太を愛するあまり、後を追って死んでもいいと思うほどだった。
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