All Chapters of 中絶サインで愛は冷めた。結婚式は夫への復讐劇!: Chapter 11 - Chapter 20

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第11話

しかし、男のことは、誰よりも男が分かっているものだ。潤が何を考えているのか、文雄は見抜いた。「充くんは、由理恵が君との子を妊娠し、堕ろしたことも全部知っている。それでも彼は由理恵を大切にしてくれ、二宮家から栄養食や美味しいお菓子を度々届けてくれるんだ。由理恵が痩せ細ったり、元気なく過ごすのを心配してな」そんなに頻繁に何かを送るなんて、とっくに関係ができていて、浮気をしているも同然じゃないか?潤の張りつめていた顔が、すっと険しく沈んだ。「そこまでして俺と由理恵を会わせないようにするんですか?気持ちを断たせるために、あいつにまであらぬ罪を着せるなんて……そんなことして、周りにどう思われるか、気にならないんですか?」「気になるかって?」文雄は動じることなく笑い返した。「北条家と中村家の結婚は、君たちが大学を卒業した時に決めたはずだ。なのに、君は23人もの女性と次々に関係を持ってきたよな?中には君より一回りも年上の女も、君より若い女もいた。ひどい時は付き合って3日で捨てる始末。今だって、由理恵以外の女と付き合い続けているだろう?それでよくもまあ、由理恵が浮気してるだなんて。由理恵が自分を愛してくれる男と付き合うのがそんなにいけないのか?中村家相手の裁判でも、やりたきゃとことん付き合ってやるからな」今まで好き放題やってきたつけが、重苦しい山のように潤の肩にのしかかった。由理恵を取り戻したいという決意が、一瞬にして音を立てて崩れ去る。しばらく迷った末に、怒りをぐっと飲み込み、これまで高く掲げていた頭を静かに下げた。「分かっています。これまで自分が未熟で、由理恵や北条家に傷をつけてしまったことは……ですが、俺と由理恵には積み重ねてきたものがあります。こんなに長い年月の関係は、そう簡単に……」バシャリ。生ゴミが混ざった汚水が、潤の頭から降りかかった。杏が口を覆って、わざとらしく驚き謝罪の言葉を口にする。「あら、潤くんだったのね。最近心労が重なって、目がかすんでいたみたいで。ごめんなさいね。今すぐ脱いだ服を洗わせるか、クリーニング代でも払おうか?」口ではそう言っても、体はしっかりと玄関のドアをふさいでいる。どう見ても潤を家に入れる気配はなかった。入れもしないくせに脱げと言う。明らかな侮辱じゃないか?文雄と二人で自分をこんな目
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第12話

潤は苛立ちを隠さず、本音をぶつけた。「大人しく、か。お前が本当に大人しい奴だったら、あの写真がどうして由理恵の手に渡ったんだ?」渚は唖然とした。「写真?潤、どういう意味?私のせいにしてるの?」「まだしらを切るのか?」潤は完全に堪忍袋の緒が切れた。「あの写真は、二人だけの思い出のはずだろ?どうして由理恵が持っているんだよ?俺とお前の、二人しか持っていないはずだよな?俺が渡したわけじゃないなら、お前しかいないだろ!俺は、お前のことをどうやら甘く見ていたみたいだな。口では『一緒にいられるだけで幸せ、妻の座なんて欲しくない』と言いながら、実際はどうなんだ?身の程もわきまえず、欲を出したのか?」愛している時は、渚は他の女と違って特別な存在だった。しかし、愛が冷めれば、ただの邪魔者にすぎない。潤が手のひらを返すのは早かった。渚は恐怖で青ざめた。「私はやっていない。潤、信じて。私はあなたを愛しているの。愛しているのにそんなこと……できるはずないでしょ?」しかし、潤は容赦なく電話を切った。スマホを助手席に投げ捨て、潤は荒い息を吐きながら、獣のような眼光で前方を見つめた。気持ちが落ち着くまでしばらくかかった。彼は再びスマホを手に取る。「二宮のやつに由理恵を連れて行かれた。なんとしてでも、二人を見つけ出せ」さすがは中村グループの御曹司。その名は伊達じゃない。1時間もしないうちに、友人伝てに由理恵の居場所が突き止められた。その時、潤は自宅で再びシャワーを浴び終え、体についた生ゴミの匂いを洗い流し、傷跡に薬を塗り直していた。居場所を知るやいなや、一瞬の躊躇もなく車を走らせた。そして門を開けた瞬間、潤が目にしたのは血が沸騰するほどの、凄まじい光景だった。広い庭には飾り付けがなされ、まるでお祭り騒ぎのように賑わっている。あたり一面には色鮮やかなバラが咲き誇り、そこには由理恵の巨大なパネル写真がいくつも掲げられていた。腹立たしいことに、そのいくつかは由理恵と潤のウェディングフォトを編集したものだった。眩い笑顔の由理恵が潤を見下ろし、彼をあざ笑っているように見えた。一面に広がるバラの花の海。その先には、細やかな花のつるを編み上げて作られた小さな東屋があり、その下には長いテーブルがいくつも並べられ、料理がずらりと並んでいた。
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第13話

その声で、会場が一気に静まり返る。当事者の由理恵と充はもちろん、居合わせた多くの招待客も潤の方を向いた。中には渚の誕生日会で見た顔や、パーティーでは見かけるけれど特に付き合いのない面々もいた。彼らは全員、潤を見つめていた。その瞳には驚きだけでなく、まるで見るに堪えない汚物でも見るような、軽蔑の色さえ混じっている。潤はそんな視線に嫌気が差したが、由理恵のためを思ってなんとか耐えた。彼は長い脚で人波を抜けて由理恵に近づき、彼女の前に立つ。潤は情熱的な瞳で由理恵をまっすぐ見つめ、静かに言った。「由理恵、こいつの言うことを信じちゃダメだ。こいつはお前と大して親しくもない。俺の方がずっとお前を知っている。こいつが本当にお前のことを愛しているかなんて、分からないだろ?あんな物を贈るのだって、お前をたぶらかす手段にすぎない。もし本当にお前が欲しいなら、俺だってお前にあげられる」本来なら相手にするつもりもなかったが、由理恵はその言葉を聞いてふいっと潤に顔を向ける。由理恵が自分になびいたと勘違いした潤は、顔を輝かせた。「由理恵、本当だ。俺を許してもう一度やり直してくれるなら、俺名義のものも、それに命だって全部捧げる」潤の言葉をようやく理解した由理恵は、何とも言えない表情を浮かべて問いかけた。「そんなに惜しげもなくくれるっていうなら、どうして以前はそうしてくれなかったの?」潤はハッとして動きを止めた。「お前が欲しいって知らなかったんだ」由理恵は口角を上げた。「あなたが私に聞いてくれなかっただけでしょ?」潤は言葉を失った。しかし潤のプライドの高さが、ここで引き下がることを許さない。こんなに言われてもなお、潤は平然とした顔で言った。「今すぐ弁護士に電話して、全て手配させるよ。由理恵、こいつに返事をする前に、俺のことも待っていてほしい。俺の誠意も見てから、どっちを選ぶか決めてくれないか?」本来なら気持ちを伝えるべき場で、あろうことか物質的なものを競うような卑しい行いをしている。その様子を見て、由理恵はやはり潤という人間は救いようがないのだと悟った。根っから腐っており、更生など期待できない種類の人間だ。この男はどれほどのショックを受けようと、自分がどれほど低俗で最低なのか、潤は死ぬまで本心から理解することはないだろう。
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第14話

かつては愛おしく思えた渚の腕も、今では拒絶したいほど忌まわしい。害虫でも払うように、潤は渚を突き飛ばした。力のあまり、渚は地面に倒れ込む。激しく体を打ちつけた渚から、痛みに満ちた声が漏れた。しかし、潤は心配もせず、そのまま渚に背を向けたのだった。渚は信じられなかった。かつて、ベッドの上で腰を抱くのでさえ「壊してしまいそうだから」と優しくしてくれた潤が、こんなにも残酷に変わってしまうなんて。渚は激痛を堪えながら床から這い上がり、潤を追いかけた。小走りでやっと追いつき、潤の前に立ちはだかったのだが、見たことのない冷酷な眼差しに見つめられる。その深い漆黒の瞳は、まるで親の仇を射抜くような憎悪に満ちており、殺気すら感じられた。怯えた渚は一歩後ずさった。「潤……どうしたの?なんでそんな目で私を見るの?少し前に不安で、寂しかったから、魔が差して、北条さんに写真を送っちゃったことは謝るよ」いかにも反省していますというような弱々しい声で、言葉を重ねる。「でもそんな何枚も送ってないから。ツーショットを1、2枚だけ。あんなプライベートな写真は……さすがに送ってないから……」「黙れ!」鋭い音と共に、平手打ちを食らった渚は、腫れ上がる顔を押さえて横に倒れた。それでも潤は、怒りが収まらず、渚の腹部を蹴りつけた。「プライベート?恥を知れ。身の程をわきまえない女に、そんな権利があると思っているのか?お前には全て与えたはずだ。立場以外は金も愛もお前の望むままだっただろ?それでも、まだ足りないのか?中村家の嫁にならないと気が済まないのか?」あまりの衝撃に、渚は血を吐き出した。そのおびただしい血の色に、渚は信じられない思いで声を絞り出した。「潤、どうして?叩くだけじゃなくて、こんな酷いことまで……」「これだけじゃ気が済まない。今すぐ殺したいほどだ」潤は冷酷に言い放つと、鋭いナイフのような瞳で渚を射抜く。「お前が俺の子を殺し、夫婦の関係を壊したんだ。お前がしたことの報いは必ず返ってくるからな。覚悟しておけ」凍りつくような殺気に触れ、渚は再び喉の奥に熱い塊を感じた。潤は足早にその場を離れた。靴底が渚の血で汚れたことさえ、何とも思っていない様子だった。捨てられた人形のように床に横たわる渚を置いて、潤の背中は遠ざかっていく。見苦しいものを捨て
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第15話

潤が会社に到着すると、会議室では既に秘書が役員たちを揃えて待ち構えていた。中村グループ、北条グループ、二宮グループは、いずれも海市で長年実権を掌握してきた老舗企業だ。互いの内情を知り尽くしており、中村グループの社長である潤は、ライバルである北条グループと二宮グループの弱点を熟知していた。由理恵には、今すぐ手を出す必要はない。充さえ引けば、彼女はいずれまた自分のもとに戻るのだから。それに、由理恵にはまだ、これから用意している「サプライズ」がいくつもある。だから潤は、矛先を二宮グループへと向けることにしたのだった。「二宮ごときが、この俺から女を奪えると思っているのか?」潤は顎を上げ、冷ややかに笑う。「あと2日だ。俺に歯向かうとどうなるか、徹底的に教えてやる」秘書は困ったように潤を見つめ、何かを言いかけたが、結局飲み込んだ。潤は中村グループに忠誠を誓う役員たちを一瞥もせず、会議室を後にすると、渚を監禁している部屋へと向かった。既に男たちによって痛めつけられた渚は、床に転がされていた。全身打撲だらけで、息も絶え絶えだ。潤がドアを開ける音を聞き、渚は必死に目を開く。「潤……」縋るような思いで潤の元へ這い寄り、すがりつこうとした。潤は逃げるでもなく、冷淡に立っていたが、渚が裾に触れた瞬間、無慈悲にも蹴り飛ばした。先程の暴力で痛む体に加え、その一撃は、渚から最後の力を奪い取った。潤の容赦のない残酷さを身に染みて悟り、渚は彼にとって自分がただの遊び相手だったことを知った。もう、玉の輿なんて夢は見ない。ただ、せめてこの場から、生きて帰りたかった。「潤、お願い。もうやめて。病院に連れてって……痛いの、本当に痛くて、もう死んじゃうよ……」潤は鼻で笑った。「俺が探してもないのに、わざわざお前の方から俺のところに来たんだろ?だったらたっぷり俺を楽しませろよ。逃げようなんて、そんな都合のいいことはさせないからな」「潤……」渚の目から苦しみの涙が溢れた。そんな渚を待ち受けていたのは、愛情の欠片もない容赦のない平手打ちだった。「いいか。お前ごときが俺の名を呼ぶな。お前の正しい立場ってものを教えてやるよ」潤の手元には、光沢のある革のベルトが握られていた。部屋のドアの鍵が閉められる。いやあああああ、という悲鳴と、それに重なる男の荒
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第16話

「何を考えてるの?」羽織ものが由理恵の肩にふわりとかかり、夜風を遮った。由理恵が振り返ると、充の穏やかな笑顔と目が合った。胸が締め付けられるほど愛おしい。「あなたのことを考えてたの。あんなに前から私を想い続けてくれたなんて、私はどれだけ幸せ者なんだろうって」「そんなこと言わないでよ。君は素晴らしい人だ。君が自分自身の価値に気づいていないだけだよ」充は笑いながら、由理恵の指先に触れ、そのまま手を引いて邸宅へと案内した。「まだ体調が万全じゃないから、さっきのパーティー料理は控えた方がいい。温かい雑炊を作っておいたんだ。少しだけでも食べられる?」今日は色々なことがありすぎて、由理恵は食欲がなかったが、充が自ら作ってくれたというのなら、食べないわけにはいかない。充の歩みに合わせ、二人で邸宅の中へ入っていった。中へ入ると、由理恵はダイニングテーブルへ促された。「そこで待ってて。雑炊を持ってくるから」由理恵が待っていると、充がお盆を持って戻ってきた。お盆の上には、雑炊、温かいお茶と果物が載っていた。一つひとつを丁寧に用意してくれたのが一目でわかる。由理恵は嬉しそうに言った。「私のためにこんなに用意してくれて、本当にありがとう」充は照れくさそうに頭をかいた。「少しずつ食べてみて。特にこの雑炊とリンゴは体にいいって、ネットに書いてあったから。それに、君は細すぎるから、ちゃんと栄養を摂って健康になってもらわないと」自分はそんなに細いだろうか?細いというほどではないのだが、充はひと月前の中絶手術のせいで自分が弱っていると頑なに思い込んでいるようだった。だけど、中絶のことを言わずに、ただ栄養をつけるようにと言っているそんな不器用な優しさが愛おしかった。由理恵は食欲があまりなかったが、充の気持ちを受け取り、できる限り食べ物を口に運んだ。満腹になった由理恵は、食後の散歩にと充を裏庭へと誘った。柔らかな月明かりの下、二人は並んで歩きながら、子供時代の思い出を断片的に語り合った。雰囲気に身を任せて充が話し始め、由理恵は初めて二人の間に積み重なっていた共通の思い出に気づく。充が由理恵に心を寄せるきっかけは15歳の時だったらしい。充は高校受験に失敗し、家に帰る勇気がないまま、外をふらふらしていたら、熱を出してしまった。そこに、たまた
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第17話

その夜は、とても優しくロマンチックだった。翌日、潤からの攻撃が本格化し、充は多忙を極めた。それは、最初から想定していた展開だった。だから慌てることもなく、充はただ静かに成り行きを見守り、状況を見極めていた。やがて潤の攻勢はどんどん激しくなり、ついには中村グループの流動資金のほとんどを二宮グループへの攻撃につぎ込むまでになる。その瞬間だった。充が、一気に気を引き締める。突然の引きにより、中村グループの資金は大きく拘束された。それだけでなく、それまで中村グループから仕掛けられていたあらゆる攻勢を、充は自らの手段を総動員して、寸分の狂いもなくそっくり叩き返した。わずか1日の間に、勢いに乗っていた中村グループは莫大な損失を被った。多額の現金を拘束されたばかりか、潤が穴埋めしなければならない巨額の赤字が生じた。だが、その穴を埋める金はもうない。潤はすでに、その資金を充との勝負に注ぎ込んでしまっていたのだから。焦った潤は、あちこちに資金援助を求めて回る。だが、つい先日問題を起こしたばかりで、その上、相手は北条家や勢いのある二宮家。これまでうまい汁を吸おうと近づいてきただけの連中が、そんな状況で手を貸すはずもなかった。結局、まとまった資金は調達できず、潤は手元の資産を急いで売り払い、この難局を切り抜けるしかなかった。充はずっと潤を見張っていた。だから、潤が資産売却を考えた矢先、まだ契約も成立していないときに、あるニュース記事を出させる。つい昨日まで天上人だった潤が、資産売却に追い込まれているというニュースが、あっという間に海市中に広まった。これまでの人生を優雅に過ごし、プライドの塊だった潤には、到底耐えられない現実だった。それでも、生き残るためには一度頭を下げるしかない。彼は売却価格をどんどん下げた。恥を忍び、ようやく買い手がついた。潤はやる気に満ちて各種証明書を抱え、現場へ駆けつける。心中では、この窮地を脱したら充を必ず破滅させてやると怒りを燃やしながら。ところが、ようやく到着したカフェで待ち構えていたのは、どうしようもなく憎たらしい、充の顔だった。「買い手は俺だ。驚いたか?もう無駄な抵抗はやめろ。今の状況でお前に金を払う物好きなやつなんていないんだよ。誰もが関わりたがらないし、お前の人柄そのものが嫌われているんだから
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第18話

由理恵は、潤のことを待つ気などさらさらなかった。数日間の奮闘を経てようやく一件落着し、潤の惨めな姿を目の当たりにして、由理恵の気分は最高だった。だから、充からの海外旅行の誘いも、迷わず快諾する。帰国してからこの10日間、いろいろありすぎて精神的に疲れていたし、国外に出て気分転換しつつ潤を避けるのは丁度よかった。「お父さん、お母さん、行ってくるね。中村グループなんて気にしないでいいから。体調には気をつけて」両親にそう言った後、由理恵は中村家が来る前に簡単な荷物をまとめ、充と一緒に飛行機で海外へと旅立った。十数時間のフライトを経て、飛行機はA国の空港に着陸した。北条家の令嬢である由理恵は、これまで数え切れないほど海外で休暇を過ごしてきたので、飛行機を降りる時も特段の感慨はない。それに、国外での休暇といっても、市内のショッピングモールに出かけるのと大差なく、ただ環境が変わる程度にしか思っていなかった。しかし、空港の外で待つ高級車が自分好みの仕様であったり、宿泊先のリゾートホテルや旅行コンシェルジュまで、すべてが自分の理想通りだと気づき、由理恵は、充がいかに緻密に準備を整えてきたのかを感じた。女性であれば、これほどまでに気が利く心遣いに愛を感じないはずがない。由理恵も例外ではなかった。胸に広がっていた感動は、さらに深くなり、はっきりとしたときめきへと変わっていった。ぱっと目を輝かせると、彼女は自分からそっと手を伸ばし、隣にいる充の手をきゅっと握る。「ありがとう。こんなにいろいろ計画してくれて」充の体が一瞬震えたが、突き放すことはなく、恐る恐る由理恵の肩に腕を回した。由理恵も充を拒むことはなく、そのまま彼に身を預けた。充の鼓動は激しく跳ね上がり、さらに強く由理恵を抱きしめた。由理恵は充の腕の中に収まり、顔にかかる黒髪の隙間から、幸福に満ちた甘い笑顔を向けた。元々、充にとって由理恵は特別な存在だった。だから、その笑顔に心奪われ、リゾートホテルに着いた後も高揚感は冷めなかった。夜通し寝付けず、翌朝目が覚めると充の目にはクマができていた。しかし、目の前のリゾートドレスに身を包んだ、由理恵は元気はつらつだった。由理恵はそんな充の様子に気づいて、声をかける。「もしかして昨夜は慣れない場所であまり眠れなかった?朝ごは
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第19話

充は一瞬ぽかんとしたが、意味を理解すると顔を赤くして、由理恵を見上げた。由理恵の口からそんな提案が出るなんて、充は夢にも思わなかったのだろう。「そんなに見ないでよ」見つめられると、由理恵は恥ずかしかった。「どうしてそんなに急ぐのかって、驚いた?でも、あなたとの結婚は、ちゃんと考えて出した結論なの。前の恋愛で失敗したからこそ、何が自分に合うかは分かるんだ。あなたは式の準備も手伝ってくれたし、潤の攻撃からも守ってくれた。私の両親もあなたのことを信頼している。それに旅行って、二人の相性を試すのに最高でしょ?こうして一緒にいて揉めることもないし、ずっと楽しく過ごせてる。もう、十分すぎると思わない?」由理恵の一語一句には、充への偽りない信頼と結婚への覚悟が詰まっていた。充は思慮深く、由理恵を全力で支えようとしていたが、決して愚かではない。由理恵が望むなら、型にはまる必要なんてないはずだ。同棲して愛を育む、それだって悪くないだろう?「分かった」充は即座にうなずいた。ただし、彼には譲れない条件があった。「ただ俺も男だからさ。告白もプロポーズも、俺から言いたいんだ。歳をとってから、『あんな雑なプロポーズじゃ嫌だった』なんて言われちゃ敵わないからね」当たり前のように、未来のことを想像してくれているのが、由理恵の心をきゅっと締め付ける。由理恵は、顔が熱くなるのを感じた。充のあの誠実そうな面構えに、自分はまんまと騙されていたのかもしれない。こちらがまだほんの少し気持ちを見せただけなのに、どうしてあっという間に主導権を握って、まるで獲物を狙うみたいになっているのだろうか。不覚にも、その強引さが少し嬉しくもあった。由理恵はくすっと笑って、コーヒーを一口すする。しかし、カップを置いたその時、リゾート地では絶対に聞くはずのなかった、忘れもしないあの声が耳に届いた。「やっと見つけたよ、由理恵」由理恵は眉間にしわを寄せ、振り返った。案の定、そこに立っていたのは潤だった。会わないうちに、随分とくたびれている。「なんでここにいるの?」由理恵の表情がさっと冷めた。潤は縋るように両手を広げた。「お前がいなくて、初めて大切さに気づいたんだ。ありとあらゆる手を使ってお前の行方を探したよ。お前がこの国にいると聞いて、すぐに駆けつけたん
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第20話

「婚約者」という響きが、潤の耳を貫く。潤はカッと目を見開き、その場に呆然と立ち尽くした。「何が婚約者だ?俺を騙そうとしてるんだろ?由理恵、冗談だろ?あれだけ長く付き合ってきたのに、俺を急に捨てるなんて。こんなにすぐ変われるはずがない…」「潤」由理恵は冷ややかな声で彼を遮った。信じられないといった潤の瞳を見据え、一言ずつ、感情を込めることなく言った。「すぐに変わるものなの。心がわりなんて、あっという間。それに、充にはその価値があるし、私は充のためなら全てを投げ打てる。だって、1秒でも遅れたら、他の女に奪われてしまうかもしれないでしょ?」由理恵の想いは、もうとっくに受け止めていた。結婚することも、彼女がそれを望んでいることも分かっていた。それでも、潤の前で、こんなふうにまっすぐ気持ちを伝えたその瞬間、充の胸には、言葉にできないほどの幸福が込み上げていた。体中が何か熱いもので満たされるのを感じ、充は懸命に抑えようとしたが、結局頬の筋肉が緩んでしまった。笑みを浮かべたまま、由理恵のそばに歩み寄る。「由理恵、心配しなくていい。俺は誰かさんとは違う。一途な愛を誓えるし、人としての一線を決して越えない。外野のくだらないことに振り回されて、他の女と関係を持つなんて絶対にありえないから。俺の心の中で、君はいつだって一番で、愛する人なんだ。結婚しても、しなくても、いつだって君のそばに寄り添うよ」そう言いながら、充は手を伸ばして由理恵の手を握った。右手から急いで外した指輪を、由理恵の白くほっそりした指にゆっくりとはめる。「自分がつけていたものだから、サイズも何もかも合っていなくてごめん。でも、何年も、ずっとこの指輪が君の身代わりだったんだ。この思いに免じて、結婚してくれないかな?色々落ち着いたら、君に一番似合う世界に一つだけの指輪を俺が作るし、二人だけの静かな、結婚式を必ず挙げるから。どうかな?」充は、「二人だけの」という部分を特に強く強調した。その一言が、潤の怒りの火に油を注いだ。「由理恵!」潤は叫ぶように言った。「今まで俺と一緒にいた中で、何か一つでも不自由させたか?全部、最高のものを用意してきただろ?結婚式だってそうだ、どれも一番いいものを選んで、金に糸目はつけなかった!」由理恵は潤を冷ややかな目で見つめる。「いつも私にくれていたプレゼン
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