All Chapters of トップシークレット☆後日談 東京~神戸 新婚ラプソディ: Chapter 21 - Chapter 30

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国際観光都市・神戸 PAGE5

 かくいうわたしの家、つまり篠沢家にもそれと同じくらいの長い歴史がある。 母の七代前に当たる初代の篠沢家当主が始めた〈篠沢商会〉という企業グループが現在の〈篠沢グループ〉の前身で、初代と二代目とで今のような大財閥にまで成長させたのだそう。  つまり何が言いたいのかというと、わたしの家もこの館も建てられたのは同じくらいの時代だったということ。でもわたしの家がイギリス風の建築様式なのに対して、この館は設計したのもドイツ人だったそうで、ドイツの建築様式の特徴が出ている。 「――あ、見て見て。この建物、NHKの朝ドラの題材になったことがあるらしいよ」  わたしは入り口に建てられているパネルの文字を指さした。 「ホントですねぇ。一九七七年……っていうと、もう四十年以上前ですか」 「うん、ママが生まれる前だね。でも、朝ドラの題材にまでなっちゃうなんてスゴいよね。ウチも使ってくれないかな」  篠沢家の歴史だってけっこう深いし、第二次大戦中も国の財政をだいぶ助けていたおかげで財産没収をまぬかれたらしい。そして戦後には国の復興のために尽力していた。そういうポイントが評価されたら、もしかするかも? 「……どうですかねぇ。NHKに直接売り込みます? もしくは有名な脚本家の先生に」 「う~~ん……、それはそれで厚かましいような……」  わたしはハッキリ言って、お金に物を言わせて何かを思いどおりにするという考え方がキライだ。いくら大金を積んだところで、世の中にはどうにもならないこともいくらでもあるから。……まぁ、貢を傷付けた犯人を見つけてもらうために、調査事務所に五十万円支払ったことはあったけれど。 それなら、どうにもならないという現実を受け入れることも大事だ
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国際観光都市・神戸 PAGE6

「ブレンド一杯六百円……。マジっすか!」  ごく一般的な家庭に生まれ育った彼には、そのお値段が信じられないみたい。思わず自分の財布を取り出し、中身の心配をし始めた。 「……貢、心配しなくても払うのはわたしだから。お財布しまいなよ」 「はい……」  とはいうものの、わたしも現金の手持ちは心許ない。カードで支払うこともできるらしいけれど、貢はわたしがブラックカードを使う場面を見るたびに萎縮してしまうので、できればあまり使いたくない。 「わたしも、コンビニのATMでちょっとお金下ろしとく。たまには現金も使わないとね」  わたしたちはゆっくりと坂を下っていき、途中にあった手近なコンビニのATMで現金二十万円を引き出した。ちなみにこの北野周辺のコンビニは、街の景観によく溶け込んだ外観になっていてオシャレだ。 「――はい、これは貢の分」  わたしが半分の十万円を差し出すと、彼は目をしばたたかせた。 「えっ? ……いいんですか?」 「いいから持っときなさいって。わたしの口座のお金だって、もう夫婦の共有財産なんだもん。そのうち家族カードも作るから。遠慮しないで使って」  彼は彼なりに欲しいものがあったり、お土産を買って帰りたい人がいたりするかもしれない。だからこそ、自由に使えるお金があった方がいいのだ。 「……じゃあ、遠慮なくもらっときます」  彼はまだ遠慮がちにだけど、十万円のお小遣いを自分のシンプルな黒い長財布にしまった。 「――いらっしゃいませ」
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お互いに知らなかったこと PAGE1

 ――わたしが現金で支払いを済ませ、〝にしむら珈琲店〟を後にしたわたしたち二人は最寄りのバス停から再び〝シティループバス〟に乗り、遠回りの末に南京町に辿り着いた。  メリケンロード沿いのバス停で下車し、長安門をくぐった先には、異人館街とはまた違う異国情緒漂う町並みが続く。今度は情熱的な中国へ一瞬でワープしてきたようで、赤や黄色などの原色や、中国風の音楽が溢れかえっている。 「――さて、まずは老祥記の豚まんから攻めよっか。人気あるみたいだし、売り切れてないといいんだけど」  わたしたちが目指す〝老祥記〟は十二支像で有名な南京町広場の西側にあり、ここは元祖豚まんの専門店として全国的に知られていて、数多くのガイドブックにも載っている。また、焼き小籠包も名物らしい。 「――すみませーん! 豚まん六つと焼き小籠包二人前、お願いします」  ここはイートインもあるので、わたしたちは店内でオーダーした。お冷やを飲みながら、お店や町の雰囲気を味わう。――二人とも、お腹がペコペコだ。さっき食べたピザトーストなんか、もうどこへ入ったか分からない。  中華料理店やその食材、中国茶や雑貨を扱うお店が多く建ち並ぶこの町には、独特の活気が溢れている。店先に立ちのぼる蒸籠の湯気、漂ってくる食欲をそそるいい香り、リズミカルな発音の中国語、二胡や太鼓などの中国楽器で奏でられる音楽……。「ここは本当に日本なの?」と思ってしまう。 今日は平日なのでそれほど賑やかというほどでもないけれど、休日や春節の頃にはもっと賑わうんだろう。その頃に、また来られたらいいな。 「――お待たせしました」  店員さんが、できたてのアツアツを持ってきてくれた。豚まんは小ぶりなサイズで、一人で三つは軽く食べられそうだ。
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お互いに知らなかったこと PAGE2

「――さて、次はどこに行こう?」  スマホをバッグにしまい、シティループバスのパンフレットを広げ、行先を考えていると……。 「――なぁなぁ、そこの可愛いお姉ちゃん。ひとり?」 「オレらと一緒に茶ぁシバかへん?」  どう聞いても関西弁の若い男性二人組が、馴れ馴れしくわたしに声をかけてきた。 タイプとしては、お義兄さまによく似た感じの人たちだ。どちらも茶髪で、ヤンチャな雰囲気というかチャラチャラしているというか。 「……はい? わたし……ですか?」  「そうそう、キミや。イケてるお姉ちゃん、どっから来たん?」 「……あれ? キミ、どっかで見たような顔やな。どこやったかな……」 「あー……、えっと。東京からですけど。観光で。……あの? お二人は地元の方ですか?」  わたしには、関西弁なんてどれも同じようにしか聞こえない。だから、この二人のこともそう思ったのだけど……。 「そうそう。オレらも神戸のジモティーやで♪」 「なんでやねん、お前! オレら、尼崎の人間やんけ」 「…………はあ」  いきなり漫才のようなやり取りを始められ、わたしは首を傾げるしかない。ちなみに、尼崎市は兵庫県の南東部にある市で、大阪府との境にある。 「もう、そんな細かいことどうでもええやんー。なぁなぁ、オレらと遊ぼうやー
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お互いに知らなかったこと PAGE3

「でも、ちょっと予想外だったなぁ。まぁ、いきなり殴りかかるよりはよかったけど」  もし万が一相手にケガでもさせてしまったら、楽しい新婚旅行どころではなくなってしまう。今はもう辞めてしまったけど、彼は一応格闘技を習っていたのだ。 「さすがにそれはマズいと思いとどまったんで。というか、ナンパされたのって絢乃さんにも原因があったんじゃないですか」 「……えっ、なんか怒ってる? わたしにも」 「絢乃さんはいつも無防備すぎるんですよ! 心配しっぱなしの僕の身にもなって下さい!」 「……え?」  どうしてわたしは彼に怒られてるんだろう? 無防備ってどういう意味? わたしの頭の中は今、「?」でいっぱいだ。っていうか論点ズレてない? 「絢乃さんは誰彼構わず愛嬌振りまきすぎなんです! あなたはあざとさ抜きに可愛いんですから、男がそれに釣られてホイホイついて来るのが分からないんですか!? あと、スキだらけで狙われやすいっていうのも自覚ないですよね!?」 「……う、うん」  わたしも勢いにつられて頷いてしまったけれど、貢の熱弁がスゴすぎる。そして顔が耳まで真っ赤だ。 「ちょ、ちょっと貢! 落ち着いて!」 「…………僕は、他の誰にもあなたを取られたくないんです。自分でも信じられないんですけど、僕の中にもこんな……独占欲みたいな感情があったなんて。情けないですよね」  わたしも信じられない。この夫の中にも、そんな感情があったなんて。 そういえば、彼は昨年の秋、わたしが調査を依頼した探偵さんと浮気してい
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お互いに知らなかったこと PAGE4

 ――わたしたちはメリケンパークのバス停で降車してそこから少し歩き、一年前にも訪れた水族館「atoa神戸」にやってきた。 ここはSNS映えのする水族館として大人気で、去年はまだインスタを始める前だったわたしも去年の秋から始めたので、今回は写真を撮りまくる予定だ。 「……わぁ、貢に背景のビジョンが映り込んでる! スゴい映えてる~♪」  足元の透明アクリル床の下に鯉が泳ぐ和がモチーフのフロアーでは、背景がプロジェクションマッピングで変わるという演出がされていて、そのビジョンが人の姿に映り込む写真や動画がインスタにもよくアップされているのだ。わたしもたった今、貢をモデルにそんな写真や動画を撮影中である。 他にも、球体水槽やリクガメのお散歩、ワラビーにウミガメなども撮影して、最上階の屋上まで来た。 「――ね、見てみて♪ いいのがいっぱい撮れたよ。ほら♡」  ひととおり撮影会を終えると、二人でベンチに腰掛けてスマホに保存した写真や動画を眺めた。この屋上ではカピバラやペンギン、カワウソなど可愛い動物たちが飼育されていて、それらをモチーフにしたドリンクやスイーツが楽しめるカフェもある。 「あ、ホントですねー。でも、生き物と僕の写真とか動画が同じくらいの割合で入ってるの、なんか恥ずかしいです。まさか、これも一緒にインスタに上げたりしないですよね?」 「えっ? わたしはそのつもりだったけど。もちろん顔は映らない角度で撮ってるから大丈夫だと思うよ。でも、貢がイヤだって言うならやめとこうか?」  わたしは彼が嫌がるようなことはしたくない。彼がベッドで、わたしが怖いと思うことをしないようにしてくれているのと同じで。 「……ああ、いえ。別にどっちでもいいんですけど、あんまり目立ちたくないだけなんで」 「ふぅーん?
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お互いに知らなかったこと PAGE5

「そんな、謝らないで! むしろ、謝らなきゃいけないのはわたしの方だよ。優しい貴方に心配かけて、危ないことまでして。……あの時はホントにゴメン」 「いえ、絢乃さんはあの後ちゃんと謝って下さったじゃないですか。ですからもう、あのことは僕も気にしてませんよ」  彼は困ったような笑みを浮かべる。 あの出来事によってわたしたちの絆がより深まり、彼もわたしとの結婚を決意してくれたのだ。だから、あれはわたしにとっても忘れたくても忘れられない出来事になった。 「次は絢乃さんの番ですよ。僕にまだ話して下さってないこと、何かありませんか?」 「……え? そんなこと言われても……」  わたしは彼に隠し事なんてしてこなかったつもりだ。というか、もしあったとしても自分から小出しにして彼に打ち明けてきたし。……たとえば、彼と初めて結ばれるまでの間、自慰行為で性欲を紛らわせていたこととか。 「ないならいいです。これからは何でも話せるような関係になっていきましょうね、絢乃さん」 「うん!」  わたしたちは政略結婚じゃなく、愛し合って結ばれた。だから、愛し合う二人に隠し事なんて似合わない。 「――さてと、話はこれで終わり! 撮影会、再開するよ。まずはカピバラさんたちからね」 「はい。そろそろ日が傾いてきてますからね」  早くここを出ないと、観覧車に乗る時間がなくなってしまう。わたしたちはベンチから立ち上がり、可愛い動物たちの撮影を始めたのだった。    * * * *  「atoa神戸」からハーバーラン
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お互いに知らなかったこと PAGE6

「――あ、ここがちょうどテッペンかな。……わぁ、見て! 夕日がキレイだよ」  「わぁ、ホントだ。絢乃さん、写真撮って里歩さんたちに送って差し上げましょう」 「うん、いいね。そうしよう」  わたしはさっそくバッグからスマホを取り出して、夕日の写真を何枚か撮影した。メッセージアプリで里歩と唯ちゃんにコメント付きで送信し、インスタにも投稿した。 「お義兄さまにも送っていい?」 「それなら僕から送るんで、後でその写真、僕のスマホに転送して下さい」 「…………分かった」  彼のこのセリフもきっと、嫉妬深さから出たのだと思う。まぁ、わたしも一度は冗談で浮気を唆されたことがあったので、彼にあまり強くは出られないのだけれど。 というかこれ、わたしにとって彼への唯一の隠し事だった。  やがて、ゴンドラはゆっくりと下降し始めて――。 「……絢乃さん、ここなら人の目もないですし。キスしてもいいですか?」 「うん、いいよ」  わたしは夕日を背にして目を閉じ、彼の唇を受け止めた。昨夜、行為の時にねっとりとした濃密なキスも味わったけれど、こういう純粋な唇を重ねるだけのキスもいいものだなぁと思う。特に今は、夕日を背に受けたロケーションだけにロマンチックだ。  最初は彼から、そして一度唇を離してからはわたしからキスをする。別のゴンドラから見えているかもしれないけれど、そんなこと関係なかった。 「…………もうすぐ地上に戻っちゃうね」 
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さよなら、神戸 PAGE1

 ――ホテルに戻ったのは夜の七時。 「――絢乃さん。今日は夕食どうします?」  部屋に戻るとすぐ、その話になった。 今日は神戸の街で美味しいものをいっぱい食べてきたので、二人ともあまりお腹は空いていない。 「あんまりお腹空いてないから、今日はルームサービスで軽く済ませようか。 ――あ、わたしはビーフカレーね。あと、デザートにチーズケーキとカフェラテも」  自分の希望を言ってから、貢にメニュー表を手渡した。 「じゃあ、僕も同じでいいか。オーダーしときますね」  彼が内線電話に向かうのを目で追いながら、わたしはバッグからスマホを取り出して開いた。可愛いネコのキャラクターが画面上で、「着信がありました。」とフキダシで告げている。 「着信って誰から? ……あ、里歩からだ」  わたしはすぐに折り返した。メッセージアプリの返信はすぐにもらったけれど、あの時彼女は講義中だったからすぐに落ちたんだっけ。 「――あ、里歩。電話もらってたみたいだけど、気づかなくてゴメンね? わたしたち、今宿泊先のホテルに戻ったところだったから」 『いいよいいよ。旅行、楽しんでるみたいで何より。インスタ見たよ。貢さんがプロジェクションマッピングに融け込んでる写真、キレイだったね。あと可愛い動物の写真と動画もいっぱいあったよね』 「ありがと。あれ、水族館で撮ったの。そこで里歩と唯ちゃんにお土産も買ったんだよ。楽しみにしててね」 『マジ? サンキューね。あの後唯ちゃんにも確認取ったけど、やっぱりお土産はお菓子と可愛いものがいいって言ってた。四日後もらえるの楽しみにしてるよ』 「うん。――里歩、昨日はわざわざ大学休んでまで出席し
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さよなら、神戸 PAGE2

『――あ、ところでさ。四日後にランチするお店なんだけど。唯ちゃんと相談して、アンタも気に入りそうなお店、何軒かリストアップしとくから。明日か明後日くらいにラインで送るわ。それで、アンタが「ここがいいな」ってとこ、返事ちょうだい』 「うん、分かった。じゃあ、連絡待ってるね。バイバ~イ」  通話が終わると、何だか妙な脱力感に襲われた。わたしだけでなく、貢までもが毒気を抜かれたようにぐったりしている。何か変な感じ。 「「……………………」」  里歩ってばもう、新婚カップルを冷やかすのはほどほどにしてほしい。わたしたち、そんなにイチャイチャしてるのかな? いや、してる……かも。 「…………ねぇ、ルームサービスってどれくらいで運んできてくれるって?」  ちょっと脈絡のないごまかし方をしてしまったけれど、貢はちゃんと答えてくれた。 「料理は十五分後に持ってきてくれるそうです。デザートと飲み物はその後に。特にカフェラテは冷めたら美味しくないですからね」 「そっか、ありがと」  わたしは半袖の淡いブルーのカットソーの上に羽織っていた薄手のカーディガンを脱ぎ、キレイに丸めてソファーの上に置いた。そのまま背もたれに身を預け、ウーンと伸びをする。 「今日はいっぱい歩き回って疲れたぁ……。もう脚がパンパン!」  履いていた靴がフラットパンプスでよかった。ハイヒールなんか履いていたら、わたしの脚はきっともっと疲労困憊だったと思う。 「よかったら、マッサージし
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