大きくなったお腹を抱えて入院の準備をしていると、ふとテーブルの上に一枚の書き置きがあることに気がついた。【妻へ。僕は時空を越える。心配するな、また会おう】手にしていたバッグが滑り落ち、ドサッと床に転がった。またしても彼は、黙って姿を消したのだ。もうすぐ出産を控えた妻を置き去りにして。結婚してからの三年間、彼が家を空ける口実は、回を重ねるごとにくだらなくなっていく。スマホの位置情報で確認すると、彼は今、海外にいるようだった。きっとまた、林美桜(はやし みお)と旅行に出かけたのだろう。三年間連れ添った情も、結局のところ、彼が心に秘めている女には到底敵わないのだ。こみ上げる怒りで胸が張り裂けそうになったその時、突然、下腹部に激しい痛みが走った。両足の間に、生温かいものが伝い落ちるのを感じる。私はお腹を押さえて苦悶し、そのまま床へ崩れ落ちた。そして、遠のく意識の中で必死に救急車を呼んだ。ぼんやりとした意識の中、何度も激しい陣痛の波が押し寄せ、全身から容赦なく冷や汗が吹き出す。下半身から生温かい血が絶え間なく溢れ出し、体温が徐々に奪われていくのを感じた。搬送中の医師が声を荒らげた。「まずい、大量出血の兆候があります。至急ICUへ」視界がだんだんと霞んでいく中、看護師が私の手を強く握りしめて叫んだ。「ご家族は!?すぐに手術をする必要があるので、同意書のサインをお願いします!」私は唇から血が滲むほど強く噛みしめると、かすれゆく声で絞り出すように答えた。「私……一人です」「これから出産なのに、ご主人は?」私は震える唇を開いた。目尻から一筋の涙がこぼれ落ちる。「……死にました」看護師の瞳に一瞬だけ哀れみの色が浮かんだが、すぐに優しい声で励ましてくれた。「大丈夫ですよ。母体の安全を最優先にしますからね」この三年間、ひたすら冷酷で無情だったあの男は、私の中ではもうすでに死んだも同然だった。手術室へ運び込まれる直前、手元のスマホが短く震えた。海外での素行調査を頼んでいた探偵から、夫である早瀬蓮(はやせ れん)の最新の写真が送られてきたのだ。写真の中の彼は美桜の肩を抱き寄せ、二人はノルウェーの夜空に広がるオーロラをうっとりと見上げていた。かつて彼は、「新婚旅行ではノルウェーへオーロラを見に行こう」と私
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