婚約者の藤村安弘(ふじむら やすひろ)は私の試着に付き添ってくれている最中、突然スマホが鳴った。洲崎詩織(すざき しおり)からの電話だ。「先輩……」それを聞いた瞬間、今日のウェディングフォトもまた台無しになると分かった。案の定、安弘は困った顔で私、松本恵美(まつもと めぐみ)を見て言った。「ねえ、詩織のほうでちょっとトラブルがあって、行ってこないと」相談じゃない。ただの通知だ。鏡に映る、たった今ドレスに着替えたばかりの自分を見つめ、私は頷いた。「行ってきて」大丈夫だ。どうせ、私の婚約者も変わることになるのだから。安弘が慌ただしく去っていく背中を見て、ドレスを抱えた店員は戸惑った様子で言った。「何があったんですか?花嫁のドレス試着より大事なことなんてあるんですか?」私は自嘲気味に笑った。大事なことなんてない。大事な人がいるのだ。洲崎、詩織。安弘のもとで働いている女性で、三か月前に入社したばかりだ。あの頃、彼はまだ私に愚痴をこぼしていた。「会社に入ってきた新しいインターン、本当にダメだよ。特に洲崎詩織ってやつ、何もできない。何でも三、四回教えないと分からないし、まったく手間ばかりかかる」私は長いことなだめ、ようやく彼の怒りを抑えた。その時の私は、この女性が、これほど頻繁に私たちの生活に入り込んでくるなんて思いもしなかった。そして、あの二人の間に特別な感情が生まれるとも思わなかった。私は目を閉じてから、店員に言った。「もう試着はいいです。今着ているドレスで大丈夫です」そしてスマホを取り出し、支払いを済ませた。店員は慌てて包装してくれた。店内で寄り添うカップルたちを見て、胸の奥に言いようのない寂しさが広がった。その時、スマホの着信音が鳴った。母親からだ。彼女に今日の出来事を話した。「じゃあ相手を換えればいいじゃない?」母親の声は落ち着いている。それは私にとって大きな支えとなった。「結婚のような大事なことなのに、安弘はまるで他人事みたいにして、全然恵美を大切にしていない。本当に結婚したら、苦労するわよ。そういえば、昔恵美と幼なじみ同士で縁談があった千代田昇(ちよだ のぼる)さん、覚えてる?恵美は気にしてなかったけど、向こうは本気よ。時間を作っ
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