「奈緒、美波が急に腹痛を起こしてな。どうせお前も夜勤に入っているんだから、代わりにやってくれないか」電話越しに聞こえる兄、桜井健太(さくらい けんた)の温かい声に、私は全身をビクッと震わせた。壁の時計に目をやると、針は深夜の2時を指している。目の前で慌ただしく人が行き交うナースステーションの光景をじっと見つめ、私は自分が死に戻ったのだとようやく悟った。家の養女、義妹の桜井美波(さくらい みなみ)は、ぼんやりしている私を強く小突くと、あからさまに苛立った表情を浮かべた。「代わってくれるなら、私、もう帰るからね。本当にお腹が痛くて、家に帰って休まないと無理なの。5時になったら、忘れずに6番ベッドの患者に点滴しておいてよ」前世の私は健太の顔を立てて、美波の担当患者の点滴を代わることに同意してしまった。患者のベッドの前に着いた途端、私は違和感を覚えた。男児はほぼ全身を布団にすっぽりと覆われ、顔だけを出していたが、その顔色は月明かりの下でひどく青白かった。「この子、いくらなんでも深く眠りすぎじゃない?なんだかおかしい、診てみないと……」私は訝しんだ。電話の向こうで、美波はたちまち激昂した。「ちょっと、その子一日中騒ぎっぱなしで、やっと寝てくれたんだから!起こさないでくれる?」それでも、私はやはり不安だった。「じゃあ、親はどこ?どうして付き添いの人がいないの?」「いいから放っておいてよ。どうせ針を刺し直す必要なんてないんだから、点滴瓶を交換するだけでしょ。点滴一つでグズグズ言って、どうしてもあの子を起こさないと気が済まないわけ?」薬液のラベルを見ると、ただのエネルギー補給用のブドウ糖だったので、私はようやく安心した。しかし、この時のたった一度の油断が、私に一人の命を背負わせることになったのだ。翌日、私が交代の準備をしていると、6番ベッドの患者の家族が突然ナースステーションに乱入し、有無を言わさず私をボコボコに殴りつけた。その時初めて、6番ベッドの男の子、佐藤翔太(さとう しょうた)がアナフィラキシーショックで亡くなったこと、そして私が最後に彼に点滴をした人間であることを知らされた。だが、私が投与したのは彼が以前から点滴されていたブドウ糖であり、アレルギーなど起こるはずがなかった。事件発生後、
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