新緑の息吹感じさせる匂いが、爽やかな風通り抜け香っていたのが、気づけばショパンと紫陽花のかほりに変わっていた。 曇天続く中、珍しく今日は青空に黄色い太陽が笑っていた。「桜井、バイオリン持った? 貴志、何時の飛行機って?」「大丈夫です~~17時半に空港到着予定とは言ってましたが……直接会場に行くって」「一応、天野先生にスタンバイはお願いしておくから。大丈夫きっと間に合うから!」「天野先生もピアノ科の子達の面倒で申し訳ないです……」 早いもので「夜宴」も今日でついに最終日を迎えていた。 みんな凄い演奏で驚いた! と言うのが正直な感想だ。 リハーサルなどで何度か他の人の演奏を耳にする機会はあったが、本番は練習と違って、あまりに出来映えの良さに圧倒された。 よく「舞台には魔物が棲んでいる」と言われるが、その魔物が女神になってくれるように私は祈った。「大丈夫。もしもの時は最悪俺が伴奏者務めるから、だから今は自分のことだけに集中してね?」 高科先生…… お父さんがいたら? こんな感じなんだろうか? お母さんがいたら? 三歳の時に母が亡くなった。でも私には母と一緒に過ごした記憶が殆どない。 病院へ祖母に連れて行かれても、看護師さんと外で遊んでいた記憶しか…… そしてある日突然、祖母と住んでいた家に黒い服を着た人達がたくさん来た。 みんな私を見て、泣きながらお菓子を沢山くれた。「可哀相にねぇ」「どうするんだろうね可哀相」 その時、聞こえた「可哀相」って言葉の意味は、当時の私には理解出来なかったが「可哀相」が「楽しい」ことをさす言葉ではない。と言うことだけは分かっていた。 今の私は「可哀相な子」ではなく「世界一幸せな子」になったと思っている。 神によって、こんなにも素晴らしい音楽を奏でる機会を与えて頂き、そしてこんなにも素晴らしい仲間に出会えた。「先生。見ててくださいね」 曲に合わせて今日は花のピアスを用意したが、先生に貰った金のピアスに手を添えた。 片側だけ二個目の穴をあの後、開けた。 舞台に立つ際の私の大事なお守り。「桜井さん、先に髪だけやって良い? 会場だとバタバタするから。化粧はどうする?」「すいません、ご迷惑をお掛けします」「あ、恭子さんメークは私達が手伝いますよ? 15時から桜井さんもメーク室に来てくれたら?」
Read more