御神先生の秘蔵っ子

御神先生の秘蔵っ子

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桜井花音、ごく普通の何処にでもいる女子高生。だが彼女には崇拝する推しがいた。5歳の時に出会ったクラッシック会の貴公子に一目惚れしてしまい、それ以来彼女の推しは彼一人。 ある日偶然にも、推しのいる音楽学校の入学試験を受ける機会を得る。 そんな彼女を中心に、音楽学校を舞台にした先生と生徒の禁断の愛。 互いの想いが溢れていく時、師弟の関係が崩れていく。 彼の音だけを純粋に愛していたはずなのに、いつの間にか、「彼の音」ではなく、彼を愛してしまった時「音楽」を離れる決意を── あの日誓った「世界を二人で取りに行く!」約束に。 彼が彼女に向けた最後のメッセージとは。 再びクラッシック界至宝の天才と花音の挑戦が始まる。

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1화

一話 プロローグ

 朝ご飯を食べ終え学校に行く用意をしていたら、テレビから流れるニュースの音に立ち止まる。

『Takashi Mikami──世界を圧巻したあの御神の凱旋帰国決定!』

「御神さん、一言お願いします!」

「久しぶりの緊急帰国になりますが、暫く日本で活動されるのですか?」

「今回、御神堂での凱旋公演とのことですが、お父様の御神 幸造氏はいらっしゃる予定ですか?」

 空港ロビーに集まる報道陣のフラッシュの中、明るめの茶色い長髪が光りを浴び金色に輝く中、サングラスを外すことなく無言で人混みを掻き分けるように足早に去っていたが、記者の最後の質問に、サングラス越しにも分かるぐらい一瞬怪訝な顔を浮かべた。

 だが、言葉を発することなく出口で待つ迎えの車に、颯爽と乗り込み消えて行く。

 御神 貴志──御神グループ総帥、御神 幸造氏の嫡男として育ち、幼少期よりジュニアピアノコンクール、バイオリンコンクールを国内外で総誉にした後、15歳で単身渡米し、日本人初の世界最高峰音楽院に特別入学を認められた神童だった。

 その後、活動の拠点をヨーロッパに移し、現在は、日本が世界に誇る指揮者として活躍中であった。

 ◇

「御神? 貴志? が日本に帰って来る? うそおお!! え? いついつ?」

──ガシャン

「痛ったァ~」

 山積みになったCDケースの雪崩が落ちてきて、その中に埋まる少女がいた。

「御神先生。私は貴方の為に今日も頑張ります!」

 大事そうにCDケースを抱きしめ、テーブルに置く。

「行って来ます」

 小さな仏壇の写真に手を合わせ、花音は急いで玄関を出た。

 彼女の名は桜井花音。ごく普通の高校に通う、ごく普通の女の子が、この後、彼女の運命を180度変える出会いに遭遇するとは本人は勿論のこと、誰一人気づいていなかった。

『御神音楽学校─Мアカデミー学園春期特別奨学生募集中』

 電車の中吊り広告を花音は凝視する。

 子供の頃からの憧れの人。

 たまたま商店街の福引きで当たったクラッシックコンサートのチケット。

 生まれて初めて祖母に何度もお願いして、やっと連れて行ってもらったコンサートで衝撃を受けた。

 後頭部を誰かに殴られたような強い衝撃。

 それ以来、彼の音に虜になった私は、小遣いを貯めてはCDを購入したり、彼のことが載っている雑誌を購入したりと、私の全てをかけた推しであった。

 周りが騒ぐような彼の容姿に惚れたのではなく、彼が紡ぐ音の洪水が、甘くなったり切なくなったり、激しく揺れたり夢心地になったりと、まるで遊園地にでもいるかのような、ドキドキする興奮が私を捕らえて離さなかった。

 町の小さな音楽教室から漏れる音を聴きながら、家に帰って私は紙の鍵盤で、まるで自分も音楽家になった気分で演奏を繰り返し遊んでいた。

「受けてみたいな……」

 募集要項の最下部に小さく書かれている文字を見つめる。

『受験資格:16歳以上(高等部は普通科目あり)の男女、未経験者可。初心者可。特待生認定者は学費全額免除。楽器貸出し制度あり。防音寮完備』

「学費免除のうえ、未経験者でも受験しても良いってことよねぇ」

 音の出る本物の楽器を触った経験なんて殆どないけれど、御神音楽についてなら満点を採れる自信がある!

 楽譜すらまともに読めないどころか、ジュニアの頃の御神のバイオリン演奏を聴き、おもちゃのバイオリンで毎日練習を繰り返してきた音楽が大好きな少女は、学校に行く為に乗っていた電車を降り、無我夢中で楽器店に走った。

 ◇

「もう少しだけ、値下げしてよ~おじさん」

「無理だって嬢ちゃん。これが限界だってば」

「そこを何とか! お願い! どうしてもこれが欲しいの!!」

 花音は涙目で店主にお願いする。

 価格交渉に入って一時間。中古の三万円のバイオリンを一万円にしてもらう為に、ひたすら値切る。

「分かったよ。そのかわり内緒だぞ?」

「やったーー! 流石おじさん! 大好き!!」

「もう、花音ちゃんには適わないな。毎回……」

「おじさんこのケースもつけてね?」

「………」

 値切りに値切って中古とは言え、やっと手に入れた本物のバイオリン。

 花音は宝物のように両手で抱えて公園に向かう。

 その日から花音は、何かに取り憑かれたように猛練習する。

 おもちゃのバイオリンしか触ったことがなかった彼女の先生は、勿論動画にある「御神 貴志」であった。彼を追い続けて早12年、楽譜は読めなくとも毎日何時間も聴き続けてきた音。

 彼の癖から、彼の独特の旋律全て頭に入っている。音がちゃんと出るまでに時間を要したが「初心者の為のバイオリン教室」の配信は何年も見てきた。

 CD購入時の特典として「おじさんの楽器店」で試奏させて貰うのが一番の楽しみの時だった。

 それが今日から時間制限なく自由に弾けるんだ! 

 そう思うと嬉しくて、家に帰りながらも空を飛んでいるような気持ちであっと言う間に着いていた。

 それからと言うもの学校に行くのもやめ、辺りが真っ暗になるまで毎日弾き続け、家に帰れば日課である彼のCDを繰り返し繰り返し何度も何度も聴く。

 脇目も振らず、彼の音だけを一心に愛してきた彼女にとってそれは至福の時だった。

 聴くだけで近くには行けない世界とずっと我慢してきた。

 憧れることで自分の気持ちを抑えてきた。

 やっと、その世界に踏み入れる切符を手に掴むことが出来る機会が訪れたのだ。

──ただ、彼女は一つ大事なことを見落としていた。

 彼女がずっと何年も毎日欠かさず聴き続けていた「師」の十八番であるパガニーニのCDは、御神がプロデビュー時にオリジナルスコアに書き直した物であったことを。

 残念なことに数ある名曲の中で「パガニーニ」だけは御神の手の物しか聴いていなかったのだ。

 師への強烈な愛の現れが、この後事件を起こすことになろうとは──

【特待生受験試験についての案内】

『一次試験:実技

 二次試験:面接(一次通過者のみ)

  課題曲:G線上のアリア、新世界より、カプリース24番

 ※楽譜持ち込み可』

「やっぱり御神 貴志といえばパガニーニよねえ。うんこれにしよう!」

 課題曲の中で難易度が明らかに異なるものを、入学試験でわざわざ選ぶ者は、相当自信があるか、自分を過大評価しているか、彼女のように「ド素人」かのどれかである。

 この日を境に、彼女は最難関曲の練習に没頭する毎日が始まった。

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一話 プロローグ
 朝ご飯を食べ終え学校に行く用意をしていたら、テレビから流れるニュースの音に立ち止まる。『Takashi Mikami──世界を圧巻したあの御神の凱旋帰国決定!』「御神さん、一言お願いします!」「久しぶりの緊急帰国になりますが、暫く日本で活動されるのですか?」「今回、御神堂での凱旋公演とのことですが、お父様の御神 幸造氏はいらっしゃる予定ですか?」 空港ロビーに集まる報道陣のフラッシュの中、明るめの茶色い長髪が光りを浴び金色に輝く中、サングラスを外すことなく無言で人混みを掻き分けるように足早に去っていたが、記者の最後の質問に、サングラス越しにも分かるぐらい一瞬怪訝な顔を浮かべた。 だが、言葉を発することなく出口で待つ迎えの車に、颯爽と乗り込み消えて行く。 御神 貴志──御神グループ総帥、御神 幸造氏の嫡男として育ち、幼少期よりジュニアピアノコンクール、バイオリンコンクールを国内外で総誉にした後、15歳で単身渡米し、日本人初の世界最高峰音楽院に特別入学を認められた神童だった。 その後、活動の拠点をヨーロッパに移し、現在は、日本が世界に誇る指揮者として活躍中であった。 ◇「御神? 貴志? が日本に帰って来る? うそおお!! え? いついつ?」──ガシャン「痛ったァ~」 山積みになったCDケースの雪崩が落ちてきて、その中に埋まる少女がいた。「御神先生。私は貴方の為に今日も頑張ります!」 大事そうにCDケースを抱きしめ、テーブルに置く。「行って来ます」 小さな仏壇の写真に手を合わせ、花音は急いで玄関を出た。 彼女の名は桜井花音。ごく普通の高校に通う、ごく普通の女の子が、この後、彼女の運命を180度変える出会いに遭遇するとは本人は勿論のこと、誰一人気づいていなかった。『御神音楽学校─Мアカデミー学園春期特別奨学生募集中』 電車の中吊り広告を花音は凝視する。 子供の頃からの憧れの人。 たまたま商店街の福引きで当たったクラッシックコンサートのチケット。 生まれて初めて祖母に何度もお願いして、やっと連れて行ってもらったコンサートで衝撃を受けた。 後頭部を誰かに殴られたような強い衝撃。 それ以来、彼の音に虜になった私は、小遣いを貯めてはCDを購入したり、彼のことが載っている雑誌を購入したりと、私の全てをかけた推しであった。 周りが
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二話 神降臨
夢にまで見た日がついに目の前に建っている。門に掛けられている看板に頬ずりしながら撫でる。「御神様~~あ~~ん素敵!」 周りの人に変な目で見られようが関係ない。そんなことはもう慣れっこである。『御神音楽学校─Mアカデミー学園』「夢かも~~~あ! 急がないと!」 ──『御神音楽学校』三年間で普通高等学校同等の卒業資格が与えられる。留年制度はなく単位不備の者は即退学となる。「声楽コース、弦楽器または管楽器コース」の二種のうち選択受験。 音楽学校を卒業した者で成績優秀者はMアカデミーへの進学を許可される。 アカデミーの生徒は、プロデビューを目標とする者を対象に、御神財団より海外留学の斡旋や、資金などの援助を受けることが出来る。 ──『弦楽器コース試験会場』「桜井花音です。お願いします」「42番ね。この札を胸につけて控え室で待つように」「不吉な番号ね……にしても。今日で二日目よねえ。何人応募してるんだろう……5人一緒に弾くのね……」 次々と受験者が呼ばれていく。思っていたより進むのが随分と早い。5人一緒でも短めしか弾かないってことかしら? もう直ぐ順番だわ。 緊張の為かハンカチで何度も手汗を拭く。 あと8人? え? あれ? 順番抜かされた? あ、同じ曲を選択している人でグループを組まされているからね。 同時演奏ってことは、一緒に弾く人と合わせる感じが良いのかしら? ──ザワザワ「え?」「え? 何で?」「嘘? 本物?」「何で日本に?」「え? 御神 貴志?」 私は、思わず声がする方向に振り向く。 嘘!? 御神様!! え!? えええッ? 本物?! 歩いている! 動いている! 本物だ! 私、息してる? 生きてる? サングラスをしていても、何度も夢にまで見た御姿を、私が見間違えることはない。 紛れもなく「御神 貴志」本人である。 彼の身長、体重、足のサイズに至るまで(公表プロフィールではあるが)知り尽くしている。間違いなく彼である。 周りのザワつきに一切気にかけることはなく、サングラスをしたまま颯爽と歩き去って行かれた神は、無言で「試験会場」へ入って行った。 え? 嘘? 御神様の前で弾けるの?? 御神様が聴いてくれるの?! 今日で死んでも良いです! 冥土の土産に宝物にします! ◇「珍しいわね。貴方が
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三話 8分間のドラマ
──神が大きく溜息を吐いた後、御神様が私の顔を見て笑った。 神が笑った姿を生で見れた! ヤバイ倒れそうです!「天野。ピアノ科初等部に一人追加。譜読み中心に基礎を一から教えてやってくれ」「え? バイオリン科でなくてですか? 御神先生?」「そっちは俺がやる」 審査委員席に座っていた天野を含め、そこにいた全員が驚きの表情を隠せなかった。 世界中を飛び回っている超売れっ子指揮者が、一介の音楽学校の生徒を教える? しかもド素人を。 確かに先程の演奏には驚かされたが、弓使いは無茶苦茶。姿勢も酷い。逆によくアレでパガニーニを再現出来たこと自体が不思議なぐらいだ。 有り得ないだろ。そんなの。 皆が半信半疑で聞いていた。「え? 御神様が? どう言う意味?」「あーーこれか申し込み書。お前これ記入しろ」「え? え?? 合格ですか? 私??」「1ヶ月以内に楽譜通り弾けるようにしろ。話しはそれからだ一ヶ月して無理なら即刻退学だ。その間の学費や寮費は俺が払う」「え? 一ヶ月?」「お前ここの保護者の欄、未記入だが親は?」 御神様が私の応募用紙を見ながら、少し怪訝な顔をした。 父は産まれた時から居なかった。母も三歳で亡くなり、それからは祖母と暮らしていたが、その祖母も昨年亡くなったので保護者と言える者はもう居なかった。「両親は亡くなっていて、育ての親の祖母も昨年他界しました。それだと駄目でしょうか?」「………」 先程までのざわついた部屋が静かになった。「え?」 御神様が、自分の胸ポケットから万年筆を出され、おもむろに保護者の欄にサラサラと書き始めた。 保護者名を消して、保証人と書き換え「御神 貴志」と何とご自身の名前を自ら書いたのだ。「由紀、これで問題ないだろ? あとのことは任せる。必要な物は全て揃えてやってくれ」「え? はぁ……仕方ないわね。桜井 花音さん? 学長の御神 由紀です。後で学長室にいらっしゃい。そこで入学手続きをしましょう」「あ、宜しくお願いします?」 酔狂もいいところだわ…… また今までの子たちみたいに潰れてしまわなければいいのだけれど…… 由紀は、弟の顔を不安そうな目で見た。「あの? ツィゴネルって??」 さっき確か言ったような?「あん? サラサーテのツィゴネルワイゼン知らないのか?」「いえ。それは……分かります
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四話 天国への階段
──静まり返る部屋の中、何事もなかったかのように御神様が言い放つ。「高科、ツィゴネルワイゼンで春コンに一人追加だ。一ヶ月でこの通りに完成させろ。出来なければ退学だ」「え? 彼女を? いきなり?  しかも最高難易度だよ?」 高科は驚いた顔で、彼女と御神の顔を交互で見る。「春コン?」 何ですか? それ?  一ヶ月で先程の神と同じ演奏? いや絶対無理でしょう? ド素人凡人ですよ?「高科こいつ譜読み出来ない。持ち方から姿勢、ボーイング全ての基礎を二週間で叩き込め。楽譜通り正確に仕上げた後に、今のを再現させろ」「は?」「え?」 部屋の皆が静まり返った。「毎日レッスン風景を動画で俺に送ること。あとでカリキュラムを高科に送る。それまで貸しておいてやるよ」「え? えええ?」 ──トントントン「御神先生、お時間がもう。早く!」 少し若い気の良い感じの男性が、急ぎながら部屋に入って来た。「待たせとけよ。あ、俺の名刺。それと明後日の席一枚」「無理ですよ完売ですし。無茶言わないで下さいって」 男は泣きそうな顔をしながら一生懸命、小さくなって謝っている。「あけろ。あ、財布貸して」「へ? え?」 突然、御神様はその男性の鞄を開け、中から財布を取り出した。「とりあえずはこれで。足りなければ由紀に請求しろ。他は高科に何でも相談するといい」 え? ええええ? 足りなければってそれ…… 三十枚ぐらい? が束になった、一万円札の束を渡された。「え? こんなに? 頂けません」「誰がタダでやると言った? 1ヶ月でモノにならなければ全額回収する」「ぇ?」「先生。もう本当にお時間が、リハ始まってしまいますって!」 名刺の裏にサラサラと数字を書いて手渡された。「連絡先だ。登録したら必ず処分しとけ。あとは高科の言う通りにしろ。高科あとは頼んだぞ? 後でメニュー送るから」「え? は? ええええええ?」 あまりもの突然の内容に拒否することすら忘れていた黒髪長身の男は、口をポカンと開けたままだった。「帰国するまで高科教室に入れる。レッスン室は俺の部屋使うように。別メニュー組むから枠だけ確保してくれ」 え? 俺が面倒みるの? 開いた口がふさがらないとはこのことだろう。「あ! あの、御神様。お願いがあります!!」「あ? まだ何かあるのか?」 眉間に
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