そのとき、システムが戻ってきたことを知らせる音がした。上位システムへの報告が承認された。これから私を抹消する、とシステムは告げた。私はシステムに、ほんの少しだけ待ってほしいと頼んだ。夏輝と、ちゃんと別れを済ませたかった。幸い、システムはその願いを聞き入れてくれた。夏輝も何かを察したのだろう。私の手を握り、泣き出しそうな声で言った。「莉緒、君がもう生きたくないんだってことは分かってる。俺は、その気持ちを尊重するよ」胸の奥が熱くなった。私の気持ちを、ここまで分かってくれた人は初めてだった。私は安心させるように、そっと夏輝を抱きしめた。彼の体からは、かすかにラベンダーの香りがした。何年も経ったのに、その香りは少しも変わっていなかった。「最後の時間を一緒にいてくれて、ありがとう」死を前にしているせいか、やけに感傷的になっていた。人生の最後にそばにいてくれたのが、攻略を始めて半年もしないうちに諦めた夏輝だったなんて、思いもしなかった。私たちは、ずっと胸の奥にしまっていたことをたくさん話した。夏輝は、私が離れてから、ほかの女の子とは付き合わなかったと言った。その後も陰で私のことを気にかけていたらしい。だから、私が精神科病院に入れられたことも知っていた。耳元で、システムのカウントダウンが響く。私は手を伸ばし、夏輝の髪をそっと撫でた。ふと、聞いてみたくなった。「こんなに優しくしてくれるのは、私のことを好きになったから?」夏輝は認めることも、否定することもしなかった。ただ静かに、こう言った。「できることなら、この世界のヒロインはお前であってほしかった」私は何も答えなかった。システムのカウントダウンが終わる中、私はゆっくりと夏輝の腕の中に倒れ込んだ。彼がずっとこらえていた涙が、ぽたぽたと私の顔に落ちてくる。その涙を感じた瞬間、ようやく分かった。夏輝は本当に私を想ってくれていたのだ。けれどそれなら、どうしてあの頃は眞白のそばにばかりいたのだろう。このまま何もかも終わるのだと思った。けれど次の瞬間、意識だけがふわりと体から離れていく感覚があった。何が起きたのか分からず呆然としていると、頭の中にシステムの声が響いた。【マスター。あなたには、まだこの世界に未練が残っている
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