LOGIN死んだはずの私、西園寺莉緒(さいおんじ りお)は、攻略ゲームの世界に入り込んだ。 元の世界へ戻って生き返る条件は、システムが用意した三人の男のうち、誰か一人を攻略すること。 私は彼らに合わせて攻略シナリオを組み、何度も距離を縮めようとした。 けれど彼らが選んだのは、私ではない。 この世界で誰からも愛されるヒロインだった。 疑われ、罵られ、消えてしまえばいいとでも言うような目を向けられ続けた私は、ついに攻略に失敗する。 そして、システムによって抹消された。 彼らの望みどおりに。 けれど私が本当に死んだ途端、彼らはそろって後悔し始める。 神にすがってでも、私を取り戻そうとするほどに。
View More私の葬儀の日、参列者たちは皆、涙をこらえながら私に最後の別れを告げていた。納骨が終わると、遥真、蓮也、逸人の三人は沈んだ顔のまま、酒を飲みに出ていった。私はその場にいる人たちを見渡した。けれど、夏輝の姿だけが見当たらない。最後に、会いに来てくれないのだろうか。そう思った直後、夏輝が現れた。後ろ手に縛られた眞白を連れて。そのとき、遥真たち三人がそれぞれナイフを取り出した。彼らは何も言わず、一人ずつ眞白へ向かっていく。眞白の悲鳴は、初めのうちは耳障りなほど響いていた。けれど次第に弱くなり、やがて聞こえなくなった。眞白が苦しみながら息絶えていくのを見て、私は少しだけ胸がすいた。彼らが今さら私の名前を呼び、後を追うように自ら命を絶っても、私はただ冷めた目で見ているだけだった。けれど夏輝がナイフを手にした瞬間、私はたまらず彼のもとへ駆け出した。止めたかった。このすべては、夏輝には関係ない。なのに、どうして彼まで同じ道を選ばなければならないのだろう。抱き止めようと手を伸ばす。けれど私の手は、夏輝の体をすり抜けた。その瞬間、嫌でも思い出す。私はもう、死んでいるのだ。夏輝の呼吸が途切れていく。私は何度も彼の名前を呼んだ。けれど声は届かず、涙だけが止まらなかった。【おめでとうございます。もう一人の攻略者の死亡を確認しました。攻略対象の条件も満たされました。ミッション成功と判定し、マスターを元の世界へ送還します】何が起きたのか理解する間もなく、目の前が真っ暗になった。再び目を開けると、私は病院のベッドに横たわっていた。看護師は、眞白は亡くなったが、私は搬送が早かったおかげで一命を取り留めたのだと教えてくれた。私はぼんやりと天井を見つめたまま、涙を流していた。心の中で、何度も夏輝の名前を呼ぶ。そのとき、聞き慣れた足音が近づいてきた。驚いて顔を向けると、そこに立っていたのは、よく知っているはずなのに、ひどく懐かしい人だった。その顔を見た瞬間、すべてがつながった。ずっと私のそばにいてくれた夏輝は、元の世界で私が愛していた恋人だったのだ。まだ間に合った。今度こそ、取り戻せる。
結局、私は蓮也に連れられて家へ戻った。周りに誰もいなくなると、蓮也はこらえていたものが切れたように、声を上げて泣き出した。けれど、もう私の胸は少しも痛まなかった。今さらそんなふうに泣かれても、ただの芝居にしか見えない。そのとき、逸人がやって来た。体中に痛々しい痣を残したままベッドに横たわる私を見て、逸人はその場に立ち尽くした。いつも冷静だった逸人が、このときばかりは平静を保てなくなっていた。「莉緒、起きてくれ……頼む、こんなの嘘だろ」彼は一歩ずつベッドに近づき、私の肩に手をかけた。まるでそうすれば目を覚ますとでも思っているかのように、私の体を揺さぶる。その姿を見て、夏輝は顔を背けるようにして吐き捨てた。「今さら後悔したって遅いだろ。そんな顔して、誰に見せるつもりだよ」逸人は夏輝の言葉に言い返すこともできず、ただうつむいて泣いていた。涙が、ぽたぽたと私の顔に落ちる。それを見ているだけで、吐き気がした。最後に来たのは遥真だった。遥真はまだ、私が本当に死んだとは信じていないようだった。いつもの嘘を暴くつもりで、私に手を伸ばす。けれど指先が私の腕に触れた瞬間、遥真の動きが止まった。その冷たさにようやく現実を突きつけられたのか、彼は反射的に手を引いた。そのまま呆然と立ち尽くし、何も言えなくなっていた。それを見た夏輝は、迷わず遥真を殴った。「莉緒はもう死んでるんだぞ。死んでまで、まだそんなふうに疑うのかよ。全部、お前たちが信じて守ってきた眞白のせいだ。これで気が済んだか?」三人は信じられないという顔で、ほとんど同時に否定した。無理もない。彼らにとって眞白は、いつだって守るべきか弱い女だったのだから。夏輝は冷たく笑った。「莉緒をここまで追い詰めたのは、お前たちだ。自分たちだけ無事で済むと思うなよ」そう言って、夏輝はスマホをベッドの上に放った。「これを見てもまだ眞白を信じられるなら、好きにすればいい」遥真は震える手でスマホを取った。画面に映し出されたものが何なのか、私も思わず目を向けた。動画の中で、眞白は煙草をくわえたまま、後ろにいた女子たちへ目をやった。「あの子の服、脱がせて。動画も撮っておいて」それだけで、数人の女子が私に近づいてきた。逃げる間もなく、私は床に押さ
そのとき、システムが戻ってきたことを知らせる音がした。上位システムへの報告が承認された。これから私を抹消する、とシステムは告げた。私はシステムに、ほんの少しだけ待ってほしいと頼んだ。夏輝と、ちゃんと別れを済ませたかった。幸い、システムはその願いを聞き入れてくれた。夏輝も何かを察したのだろう。私の手を握り、泣き出しそうな声で言った。「莉緒、君がもう生きたくないんだってことは分かってる。俺は、その気持ちを尊重するよ」胸の奥が熱くなった。私の気持ちを、ここまで分かってくれた人は初めてだった。私は安心させるように、そっと夏輝を抱きしめた。彼の体からは、かすかにラベンダーの香りがした。何年も経ったのに、その香りは少しも変わっていなかった。「最後の時間を一緒にいてくれて、ありがとう」死を前にしているせいか、やけに感傷的になっていた。人生の最後にそばにいてくれたのが、攻略を始めて半年もしないうちに諦めた夏輝だったなんて、思いもしなかった。私たちは、ずっと胸の奥にしまっていたことをたくさん話した。夏輝は、私が離れてから、ほかの女の子とは付き合わなかったと言った。その後も陰で私のことを気にかけていたらしい。だから、私が精神科病院に入れられたことも知っていた。耳元で、システムのカウントダウンが響く。私は手を伸ばし、夏輝の髪をそっと撫でた。ふと、聞いてみたくなった。「こんなに優しくしてくれるのは、私のことを好きになったから?」夏輝は認めることも、否定することもしなかった。ただ静かに、こう言った。「できることなら、この世界のヒロインはお前であってほしかった」私は何も答えなかった。システムのカウントダウンが終わる中、私はゆっくりと夏輝の腕の中に倒れ込んだ。彼がずっとこらえていた涙が、ぽたぽたと私の顔に落ちてくる。その涙を感じた瞬間、ようやく分かった。夏輝は本当に私を想ってくれていたのだ。けれどそれなら、どうしてあの頃は眞白のそばにばかりいたのだろう。このまま何もかも終わるのだと思った。けれど次の瞬間、意識だけがふわりと体から離れていく感覚があった。何が起きたのか分からず呆然としていると、頭の中にシステムの声が響いた。【マスター。あなたには、まだこの世界に未練が残っている
そう思った瞬間、胸の奥にどす黒い感情が広がった。「いじめられていたあなたを助けたのに、最後に返ってくるのがこれなの?」眞白は鼻で笑うと、私の髪をつかんで引き寄せた。「私が望んであなたに助けてもらったとでも思ってるの?生まれが違えば、私はもっと上に行けた。あなたたちに見下ろされる側じゃなくて、見下ろす側に立てたのよ」そういうことだったのか。私のしたことは、彼女にとって救いでも何でもなかった。むしろ、彼女の邪魔をしただけだったのだ。けれど私は、彼女の生まれを理由に憎んだことなど一度もない。父の隠し子として現れた彼女に思うところがなかったとは言わない。それでも、私を死に追いやっていい理由になどなるはずがなかった。「そんなに嫌だったなら、最初から突き放してくれればよかったのに。私は、あなたが誰の子かなんてことで恨んだことはない。母にも、あなたまで責めるのは違うって言った。学校に通えるようにしたのだって、私なりに助けたつもりだった。それなのに、どうして私が恨まれなきゃいけないの?」けれど眞白は、私の言葉など聞いていなかった。勝ち誇った顔で、私は一生ここから出られないのだと、一方的に言い続けた。悔しいけれど、彼女の思いどおりだった。私はこの場所で同じ日を繰り返し、次に何をすればいいのかも分からなくなっていた。それから何日が過ぎたのかも分からない。気づけば、考えることさえおっくうになっていた。そんなとき、どこか見覚えのある青年が看護師に席を外させた。彼は部屋の扉を開けると、私を連れ出し、そのままここから逃がしてくれた。長く閉じ込められていたせいか、外に出てもすぐには現実感が戻らなかった。私はようやく、目の前にいる男が神崎夏輝(かんざき なつき)だと気づいた。彼と知り合ったのは、大学に入ってからだった。当時の私は、夏輝が女慣れしていて、恋人もよく変わるタイプだと聞いていた。なら攻略しやすいだろうと思い、攻略対象に選んだ。あの頃の私は、弱くて守ってあげたくなるような女の子を演じて、夏輝に近づいた。けれど実際に向き合ってみると、彼は思っていたよりずっと手強かった。彼はいつも眞白を優先し、私との約束も平気ですっぽかした。だから私は途中で彼を諦め、遥真を選んだ。こうして久しぶりに彼を見ると、あの頃のことがず