婚約者の皆川貴也(みながわ たかなり)は、確実に会社の筆頭株主になれるよう、私に候補者から身を引き、手元にある5%の持ち株を譲るよう求めてきた。その代わり、事が済んだら最高の結婚式を挙げると約束してくれた。私は受け入れた。けれど翌日、彼がずっと憧れている女・小林由美(こばやし ゆみ)が、一通の株式譲渡書をSNSに載せているのを目にした。譲渡人の欄に記されているのは、間違いなく貴也の名前だ。二秒ほど呆然とした後、【プロポーズされたみたいだね。式はいつかしら】と、何気なくコメントを残した。由美はすっかり取り乱し、22階から飛び降りると騒ぎ出した。貴也は彼女をなだめるために、私にすぐさまコメントを削除し、彼女への謝罪をSNSに投稿するよう迫った。おまけに、私の給料三ヶ月分を彼女への慰謝料として差し出せという。職場の人たちはひそひそと囁き合い、私が笑いものになるのを手ぐすね引いて待っている。私は冷ややかに笑い、SNSで謝罪しただけでなく、手掛けていたプロジェクトまで自ら進んで由美に譲り渡した。貴也は私の物分かりの良さに満足したようで、嬉しそうに言った。「半月後の結婚式では、君を誰よりも幸せな花嫁にしてみせる。ご褒美に、世界一周の新婚旅行にも連れて行ってあげる」けれど彼は知らない。あの5%の株を求めた瞬間から、もうこの結婚式は存在しないのだということを。……謝罪文を投稿してから三分も経たないうちに、コメントは99件を超えた。由美からDMが届き、私を嘲笑ってきた。【洲本、あなたが私より勝ってるのは、運良く私より先に貴也に出会えたことくらい。それ以外、何一つ私には敵わないわ。私がちょっと泣きついただけで、彼はすぐにあなたに謝らせたでしょう?婚約していようがいまいが関係ない。私が嫌だと言えば、あなたたちは絶対に結婚なんてできないんだから】言い終えると、彼女は自慢げに貴也が気晴らしに連れ出してくれるという報告と共に、一枚の写真を送ってきた。それはパリ行きの航空券だ。スマホの画面を消そうとした時、通知欄に由美のコメントが表示された。【皆さん、どうか洲本部長を責めないでください。私にも至らない点がありましたので……】一分も経たないうちに、貴也がそのコメントに返信した。
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