私、南沢枝里(みなみさわ えり)は、昔から何かあると誰かに話したくてたまらなくなる人間だった。道端に咲いていた花。口に合わなかったコーヒー。仕事帰りに見上げた夕焼け。ふとした拍子に婚約者の神崎照也(かんざき てるや)のことを思い出したことさえ、私にとっては誰かに話したい些細な出来事だった。私はいつも、つい彼にメッセージを送ってしまっていた。照也の返事は、いつだって短くてそっけなかった。それでも必ず返ってくる。その事実だけを頼りに、この半年、結婚準備も、ウェディングドレスの試着も、式場選びも、ほとんどひとりで進めてきた。そうして、結婚式の直前までたどり着いた。彼のパソコンの中に、あのAIプログラムを見つけるまでは。結婚式の五日前だった。そのプログラムは、私が送った文章を分類し、キーワードを拾い、もっとも無難で、もっとも面倒の起きない返事を自動で作るものだった。会いたい、には「うん」つらい、には「わかった」けんか、には「騒ぐな」この半年、私の話したがりな気持ちを受け止めてくれていたのは、照也ではなかった。その隣に開かれていた別のトーク画面には、彼と別の女のやり取りがびっしりと並んでいた。おはようから、おやすみまで。今日何を食べたかから、いつか一緒に海へ行きたいという話まで。そのとき、ようやくわかった。照也の愛は、決して無口でわかりにくいものではなかった。ただ、その愛が私に向けられたことが、一度もなかっただけだ。誰にも応えてもらえないまま待ち続けることをやめる決心をした。……照也が帰ってきたのは、夜十時を過ぎてからだった。彼は玄関のドアを開け、靴を脱ぎながら言った。「まだ寝てなかったのか?」私はリビングのソファに座ったまま、彼を見つめた。「待ってたの」照也は眉をひそめた。「用があるならLINEで言えばいいだろ。わざわざ帰りを待つ必要あるか?」私は彼に尋ねた。「照也、私って、そんなに話が多い?」彼の動きが一瞬止まった。「急に何だよ」「本当のことを言って」照也は上着を椅子の背に掛け、少し面倒くさそうに息を吐いた。「まあ、そう思うときはある」私はうなずいた。「どんなとき?」「俺が仕事してるときに、どうでもいいことをい
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