大晦日の夜、婚約者の神楽蓮(かぐら れん)は、私と年越しを過ごすために帰ってこなかった。届いたのは、冷凍年越しそばが一袋だけ。メッセージも、たった一言。【よいお年を】電話を切ったばかりの私は、すぐにインスタで彼の秘書・白石沙耶(しらいし さや)が投稿した写真を目にした。テーブルいっぱいに並んだ豪華なご馳走。添えられた文は――【誰かさんが地元の味を食べさせたいって、一日中キッチンに立ってくれた。ありがとう、大好き】私は画面を見つめた。写真の隅に、男の手が映り込んでいる。見間違えるはずがない。蓮の手だった。手首には、去年、私が節約してやっと買った腕時計。料理はどれも美味しそうで、丁寧に作られていた。魚の照り焼き、ガーリックシュリンプ、湯気の立つクラムチャウダー。画面越しなのに、湯気の匂いまで漂ってくる気がした。それに比べて、私の目の前にあるのは冷凍そば。袋にはまだ白い霜が張り付いている。湯が沸き、私はそばを鍋に入れた。けれど火加減を間違えたのか、麺はうまくほぐれず、ところどころ固まったまま鍋の中で絡み合っていく。つゆも薄く、出汁の味がほとんどしなかった。私は箸で無理やり麺を持ち上げ、そのまま口に運んだ。麺は芯が残っていてぼそぼそしていて、冷凍特有の粉っぽさまで残っていた。まともに味なんてしない。その瞬間、胃の奥がぐっとせり上がってきた。私は慌ててトイレに駆け込み、吐いた。最後には胃液しか出なかった。スマホが震える。また沙耶の投稿だった。今度は動画。夜空いっぱいに広がる花火。蓮は沙耶の隣に立ち、目を閉じて両手を合わせ、願い事をしている。周囲には大勢の人。沙耶の親戚たちだとすぐ分かった。誰かが囃し立てる。「蓮くん、本当にいい人ねぇ。沙耶ちゃんとお似合いじゃない!」「ほんとほんと。で、いつめでたい報告を聞かせてくれるの?」蓮は横目で沙耶を見て、優しく笑った。そして、風で乱れた彼女の髪をそっと直す。動画はそこで終わった。私はスマホを強く握り締める。――これが、彼の言う「残業」。私はふらつく足取りでダイニングに戻った。キッチンには、今日一日かけて準備した食材がそのまま残っている。洗っておいた野菜。下ごしらえまで済ま
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