私、水瀬紫苑(みなせ しおん)と角田海琉(つのだ かいる)は初恋の時代から泥水をすするような苦労を共にし、ついに会社の上場まで漕ぎ着けた。だが祝賀会のステージで、海琉は持ち株の半分を新しく入ったインターン生の本多莉世(ほんだ りせ)に譲り渡した。無数のフラッシュを浴びながら抱き合う二人。まるで世界中が彼らの「純愛」に感動し、涙しているかのようだった。私は静かに社員証を外し、一人その場を去った。十年という歳月の寄り添いも、たった一瞬の新鮮さには敵わない。泣き喚きも、問い詰めも、すがりつきもしない。これからは、もう二度と交わることはない。……画面に映し出された海琉と莉世の親密なツーショット写真を見つめて、私の指先はひどく冷え切っていた。ふと、今日が自分の三十二歳の誕生日だということに気がついた。午後六時、海琉からメッセージが届いていた。【チームの打ち上げがあるから、帰りは遅くなる】それきり八時間が経過しても、スマホに新たな通知が届くことはなかった。SNSのタイムラインを開くと、莉世の新しい投稿が目に飛び込んできた。写真の中の海琉はグラスを掲げ、愛おしそうに目を細めて彼女の隣に立っている。添えられたキャプションには、【会社上場のお祝い!社長のおごり】とあった。画像を拡大すると、彼の唇の端に滲んだ口紅の跡がはっきりと見えた。午後十一時、私は最後のメッセージを送っていた。【今日は私の誕生日だから、早く帰ってきてね。待ってる】画面には「既読」の文字がついたものの、ついに返信が届くことはなかった。午前三時、玄関の鍵がガチャリと開く音がした。ソファに座ったまま見ていると、海琉が千鳥足で靴を脱ぎ、強烈な酒の匂いがツンと鼻を突いた。「まだ起きてたのか?打ち上げだって言っただろ、待たなくていいのに」彼は私をちらりと見ただけで、その声に微塵の悪びれもなかった。「今日は私の誕生日よ」彼の動きがピタリと止まったが、そのまま寝室へ向かいながら言い放った。「プレゼントは渡したじゃないか」「海琉」彼は足を止め、振り返ったその顔にはあからさまな苛立ちが浮かんでいた。「なんだ?こっちは疲れてるんだ、話なら明日にしてくれない?」私はローテーブルから小さな箱を手に取った。それは今朝、彼
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