茉知の書く字は、いつも美しかった。よくある女性らしい丸みを帯びた可愛らしい字ではなく、幼い頃から書道を嗜んでいた彼女の筆跡は鋭く、力強く、紙の繊維の奥深くにまで刻み込まれるようだった。その研ぎ澄まされた文字が、今は将吾の心臓に、一画一画、深々と鋭利な刃のように突き刺さってくる。「記憶なんて失っていなかった」「それぞれの道を行く」「もう二度と会うことはない」……これほどまでに平易で短い言葉たちが、いざこうして並べられると、息が止まるほどに重く、苦しいのだろうか。茉知はすべてをわかっていたのだ。自分が騙され、無惨に傷つけられていることを理解しながら、それでも何も言わずに、ずっと自分を気遣い続けてくれていた。それなのに、自分は記憶を失った茉知など簡単に騙し通せると思い上がり、あろうことか彼女の目の前で、歌穂と見せつけるようにイチャついていたのだ。2人で過ごしてきた記憶が、走馬灯のように脳裏に次々と蘇ってくる。一緒にスキーへ行った日、山を登った日、誕生日ケーキを作った日。会議の資料をまとめた夜。近所のスーパーで買い物をし、肩を並べて夕飯を作った穏やかな夕暮れ。何の変哲もない、ありふれた日常のひとコマ。それを完全に失ってしまって初めて、あれがどれほど得難い日々だったのかを、骨の髄まで思い知らされる。自分は、いったい何をしていただろう。この世で一番救いようのない愚か者は、他の誰でもない、自分自身だ。将吾は硬く握り締めた拳を、自らの頬へ向けて思い切り叩きつけた。激しい痛みが広がる。それでも何も感じていないかのように、もう一度、また一度と、狂ったように自分自身を殴り続けた。切れた口の端から、どす黒い血がゆっくりと伝い落ちた。前髪の影に表情を隠されたまま、その凄惨な顔を、一筋の透明な涙が滑り落ちていった。秘書はずっとドアの前に立ち、将吾が平静を失い、やがて狂ったように手近なものを片っ端から床に叩きつけるのを見ていた。そして彼は、肩を震わせながら顔を覆った。いつも冷淡で情の薄い将吾が、まさかこの瞬間、子供のように後悔に泣き崩れるとは思ってもみなかった。秘書は小さく息を吐き、無惨に散らかった床にそっとしゃがみ込むと、黙々と破片を片付け始めた。怯えて顔を出した使用人や執事も、あまりの光景に声一つ出すことができず、台
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