私、新村妙(にいむら たえ)の本当のお母さんが、紅葉(もみじ)おばさんを刃物で刺して刑務所に入れられた。その一件があってから、毎日午後三時になるとベッドの上でお父さんの泰成(たいせい)と「激しい寝技の練習」に熱を出していた紅葉おばさんが、私の新しいお母さんになった。親戚や近所の大人たちはみんな、口を揃えて彼女を「本当によくできた奥さんだ」「前妻の子供にもあれだけ愛情を注いですばらしい」と褒めちぎる。まるでテレビで特集でも組まれるような、誰もが涙する「理想の継母」だ。私も、ずっとそう信じて疑わなかった。だから、あの人が「窓からお空に向かって飛んでいけば、天国にいる本当のお母さんに会えるのよ」と私に教えてくれたとき。私はその言葉を信じて、あの人が産んだばかりの弟の湊斗(みなと)をしっかりと腕に抱きしめ、二人で一緒に窓から「天国」へと飛び立った――……それは週末の朝のことだったと記憶している。最近、紅葉おばさんは産後の体調不良で胃の調子が悪く、しきりに口の中が気持ち悪いとこぼしていた。だから私は朝早くから、おばさんのために商店街のパン屋へ塩レモンパンを買いに出かけることにした。いざ出かけようとした矢先、ベビーベッドの中で弟の湊斗が目を覚ました。あーあーと可愛らしい声を上げてぐずり始めたので、熟睡している大人の邪魔になってはいけないと思い、湊斗をそっと抱き上げて自分の部屋のベッドへ移した。時計の針は、ちょうど午前7時を指していたと思う。お目当てのパン屋は、うちのマンションの東口を出てすぐの場所にある。いつもなら週末の朝なんて閑散としているのに、その日に限って、マンションの入り口付近まで続くほどの大行列ができていた。ようやく私の番が回ってきたときには、ちょうどお目当てのパンが売り切れていて、次の焼き上がりまで30分も待たされる羽目になった。「週末の朝っぱらから、パン屋にそんな大行列ができていたって?」二人の警察官のうち、若い方の小林刑事が、いぶかしげに眉をひそめてこちらを見下ろした。私は当時の記憶を少しだけたぐり寄せ、静かに答えた。「お父さんが言っていたんです。マンションの隣にあった古い商業施設を取り壊す工事が始まって、最近は朝早くから大勢の作業員さんたちが集まってきているんだって。学校帰りにあの建物のそばで
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