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第3話

Author: ちょうどいい
私たち家族3人は揃って黒い喪服に身を包んでいた。

紅葉おばさんは葬儀場のあちこちで床にへたり込み、すっかり声が枯れ果てるまで泣き叫んでいた。

私はそばに行って慰めたかったけれど、紅葉おばさんは私を視界に入れただけで、今にも首を絞めかかってきそうなほど強い憎悪の目を向けてくる。

仕方なく、私は部屋の隅に縮こまりながら、ただ黙って行き交う大人たちの姿をじっと見つめていることしかできなかった。

今日は、随分と人が多くて賑やかだな――

弔問に訪れるのは、見知った顔のおじさんやおばさんばかり。お父さんと紅葉おばさんの結婚式に参列して、満面の笑みで拍手を送っていた人たちだ。

そして、かつてお父さんと本当のお母さんが離婚するかしないかで修羅場になるたびに、あーだこーだと口を出してきていた大人たちでもある。

事あるごとに集まってくるのは、決まって同じ顔ぶれの連中だった。

「紅葉さん、あまり思い詰めないで。湊斗くんのことは本当に不慮の事故だったのよ。

妙ちゃんはずっとあなたのこと、本当のお母さんみたいに慕っているじゃない。湊斗くんが亡くなったからって、その悲しみをあの子にぶつけるのは間違っているわ」

声をかけているのは、またしても香織おばさんだった。同じ病院で働く同僚であり、隣に住んでいるということもあって、紅葉おばさんの良き相談相手になっているのだ。

だが紅葉おばさんは、うつろな目で祭壇を見つめながら、ただうわごとを繰り返していた。

「私の湊斗……あの子、よく笑うようになって……ついこの間、やっと寝返りを打てるようになったばっかりだったのに……っ」

そこまで言うと、紅葉おばさんは激しくむせび泣き、そのまま床に崩れ落ちて気を失ってしまった。

お父さんが慌てて彼女を抱きかかえ、休ませるために奥の控室へと連れて行く。

ガランとした葬儀場に、私だけが取り残された。大勢の黒服の大人たちの中で、ポツンと立ち尽くす私の姿は酷く浮いて見えた。

「可哀想にねえ。あの方、前の奥さんの事件のせいで一度流産してるじゃない?あのとき身体にも相当ダメージがあったみたいだし、今回身ごもったのだって奇跡みたいなものだったのに。……産むのだって、随分と難産で苦労したっていう話よ」

「でも、まだ娘さんがいるじゃない。病院でもよくあの子の話をしてたわよ。本当の娘のように可愛がってるって」

「そうは言っても、あれは前の奥さんが残した子でしょう?結局、血が繋がっていないんだから、どれだけ尽くしたって……ねえ」

「聞いた話なんだけど……今回あの赤ちゃんが亡くなったの、あの娘さんが絡んでるんじゃないかって……」

私は昔から、耳がいい。

大人たちの無責任なひそひそ話が、まるで拡声器を通したように大音量となって、耳の奥にこびりついて離れない。

私は、さっきまで紅葉おばさんがへたり込んでいた焼香台の前に歩み寄った。

そして、お香を一つ、また一つとつまんでは香炉に落とした。

その時から、背中にずっと焼け付くような視線を感じていた。

ふと振り返ると、祭壇の奥にある控室の扉の隙間から、壁に寄りかかった紅葉おばさんが氷のように冷たい目で私を睨みつけていたのだ。

その呪詛のような視線の意味を思い知ることになったのは、深夜になってからだった。

ガチャン!

自室のドアが乱暴に開かれたかと思うと、紅葉おばさんが狂ったように飛び込んできた。

「あんたよ!あんたがわざと湊斗を殺したのよ!」

紅葉おばさんの両手が、私の首を恐ろしい力で締め上げた。

私はもがきながら、必死に紅葉おばさんの腕を押し返そうとする。

だめだ。

力が、入らない。

意識がプツリと途切れかけたその瞬間、首に食い込んでいた万力がふっと解けた。

間一髪のところでお父さんが駆けつけ、紅葉おばさんを力ずくで引き剥がしたのだ。

私たちが住んでいるのは病院の職員用マンションだ。深夜にこれだけ叫び声を上げれば、当然周囲の住民も目を覚ます。

もともと広くないリビングに、香織おばさんをはじめとするご近所の大人たちが大勢なだれ込んできて、部屋は息が詰まりそうになった。

「紅葉さん、辛いのは痛いほどわかるわ。でも、あれはただの痛ましい事故なのよ」

「そうよ、紅葉さん。あなた、妙ちゃんのことあんなに可愛がってたじゃない。あの子が湊斗くんを害するわけないわ」

「紅葉さん、精神科の三上先生のところへ行きましょう。最近ずっと気が立っていたのは知っているわ。明日、私が付き添うから……ね?」

おばさんたちが口々に慰めの言葉をかける。

けれど、紅葉おばさんは私から絶対に目を離さなかった。

その目は血走り、不気味に赤く充血している。

当然だ。

紅葉おばさんは直感で悟り、確信しているのだ。

私には、今回の「事故」を引き起こすだけの、十分すぎる動機があるのだと。

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