伝統を重んじる名家、秋月家には、娘が嫁ぐ際に両親が心を込めて真珠の花嫁輿を作るという習わしがある。その輿に飾られる真珠は、両親が自らの手で拾い集めたものだ。真珠の数が多いほど、娘はより深い愛情を受けて育った証となり、嫁ぎ先でも大切にされると信じられている。私・秋月穂香(あきづき ほのか)の花嫁輿も完成してから6年が経つ。しかし、これまでに19回も決まりかけた結婚式を、義理の妹の秋月莉乃(あきづき りの)は何かしらの理屈をつけて阻んできた。そして今回の結婚式当日、私はまた彼女に部屋に閉じ込められてしまった。窓を割って脱出し、傷だらけのまま式場に辿り着いたときには、すでに挙式は始まっていた。私のためにあつらえたはずの花嫁輿には莉乃が乗っていた。兄は自ら輿を担ぎ、私の婚約者である神谷涼太(かみや りょうた)のもとへ、ゆっくりと進んでいた。両親が涙ぐみながら、涼太に彼らの娘をどうか幸せにしてやってほしい、と願っている。私に気づいた親友は、入り口で私の行く手を阻み、こう言い放った。「この入れ替わり作戦は、私たちみんなで計画したことなんだよ。莉乃さんは重い病気を患っているの。彼女が最期を迎える前に、せめてもの夢を叶えてあげたいのよ。少しは思いやりを持てないの?」兄が足早に近づいてきて、私を脅した。「父さんと母さんが言っているぞ。今回、おとなしくしていれば、十分な持参金を持たせる。莉乃と同じように大切に扱うから、騒ぎ立てるな。さもなければ、この秋月家から出て行け。もう二度と敷居をまたぐことはできないと思え」私はぎゅっと拳を握りしめ、彼らの前で絶対に泣くまいと、必死に涙をこらえた。彼らは知らないはずだ。実は、私を育ててくれた義理の両親がすでに、莫大な持参金を用意してくれていたことを。実の両親がくれるはずだった家族の絆など、もういらない。……兄が差し出した診断書に目をやる。病院名は読み取れず、隅っこには怪しげな偽造印が押されている。これで莉乃の病気は何度目なのかしら。去年の胃がんに、おととしの骨がん。さらに遡れば、心臓病に白血病、うつ病まであったはずだ。私ですら一目で偽物だとわかる書類を、両親が見抜けないはずがないのに。会場に鳴り響く音楽が、私の耳と心臓を激しく痛めつけた。今、私の隣にいる親友が着てい
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