「柊さん。保護動物の救助活動は世界中を飛び回ることになります。家に帰る機会も少なくなるから、家族の理解が必要不可欠ですが、問題はありませんか?」柊初音(ひいらぎ はつね)は一瞬言葉に詰まり、静かに答えた。「私には、家族がいません」会議室が、一瞬静まり返った。「それなら……恋人の理解は得られているのですか?」初音は少し沈黙し、脳裏に神崎蒼介(かんざき そうすけ)の冷ややかで気品のある顔を思い浮かべ、首を振った。「いません」面接官たちは目配せをし合い、最後に笑顔で手を差し出した。「そういうことなら、歓迎します。七日後に出発です。最初の赴任先は南の果てにある大陸になります」初音は頷いて礼を言い、面接会場のビルを出た。向かいの商店街にある巨大な街頭ビジョンでは、西園寺夏帆(さいおんじ かほ)の告白動画が繰り返し流れていた。「蒼介、大好きだよ!」画面の中の女性は華やかで自己主張が強く、満面の笑みを浮かべていた。通りすがりの人々は次々と足を止め、感嘆の声を漏らしていた。「西園寺グループのご令嬢と神崎社長、本当にお似合いね!」初音は人ごみの外に立ち、突然、涙が出そうになるほど日差しが眩しいと感じた。確かにお似合いだ。高校すら中退した孤児の自分なんかより、ずっと。……初音はゆっくりと目を閉じると、気がつけば十六歳のあの凍えるような冬の夜に戻ったかのような錯覚に陥っていた。それが、彼女と蒼介の初めての出会いだった。あの時、彼女は深夜のコンビニのアルバイトを終えたばかりの帰り道で、遠くの橋の上に一人の少年が立っているのを見かけた。彼は本当に綺麗な顔立ちをしていて、月明かりに照らされた横顔すら驚くほど美しかった。しかし次の瞬間、彼は凍てつく川へと身を投じたのだ。彼女は何も考えず、後を追うように川へ飛び込んだ。川の水は無数の針のように骨まで突き刺さったが、彼女は彼の服の裾を死に物狂いで掴み、必死に岸へと泳いだ。彼が神崎蒼介という名前だと知ったのは、後になってからだった。両親が交通事故で亡くなった後、親戚に遺産を不当に奪われ、家から追い出されたという。かつて周囲からちやほやされていたエリートの少年は、全てを失って自ら命を絶とうとしたのだ。彼女は彼を自分の家に連れ帰った。わずか四畳半の狭いア
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