夫の霧島景一(きりしま けいいち)のそばには、常にフランス語通訳の女性・水野玲奈(みずの れいな)が付き添っている。酷い時には、出張の際、二人が同じホテルの同じ部屋に泊まることすらあった。妻である私・霧島静香(きりしま しずか)は、当然その関係が気になって仕方がなかった。だが景一は、面倒そうに言い訳をした。「水野の仕事は、常に俺のそばにいることなんだ。何を勝手に疑ってるんだ?君が疑いすぎなんだよ。だから何でも怪しく見えるんだ」自分でも、考えすぎなのかもしれないと思った。けれどある日、玲奈が私の目の前で、フランス語で景一にこう言った。「ねえ、今夜もあのおばさんに付き合うつもり?」景一は、軽く笑って答えた。「まさか、そんなわけないだろ。適当に言い訳を作って、今夜は君と過ごすよ」そのとき二人は、私がフランス語を理解できないと思い込んでいた。……私がリビングを通りかかったとき、玲奈がふと顔を上げ、こちらを見た。それから彼女は、甘い声で笑った。「静香さんが淹れてくれたお茶、とっても美味しかったですよ」景一は、隣のソファで仕事をしている。わざわざ書斎に入らないのは、誤解されたくないからだ。以前、私が彼とこの件について口論になったことがある。男と女が二人きりで書斎にこもるのに、どうしてわざわざ鍵をかける必要があるのか、と。すると景一は、ひどく不機嫌そうに言った。「仕事してるだけだろ。そうやって邪推して騒ぎ立てるのはやめてくれ。理不尽にも程がある」あの件があって以来、彼が玲奈を家に連れてくるときは、ほとんどリビングで過ごすようになった。やましいことなど何もないと、そう示したかったのだろう。私はそれ以上、何も言わなかった。できるだけ二人の仕事の邪魔をしないようにしていた。どうせ、私に手伝えることなんてないのだから。「ほんと、静香さんって目障りなんだよね」私が振り向いたすきに、玲奈が白い目でフランス語でそう吐き捨てた。ついさっきまで、お茶がおいしいと褒めていた女が、まるで別人みたいに顔を変えた。彼女は景一に甘えるように身を寄せると、猫なで声で言った。「本当にリビングで仕事しなきゃダメなの? 静香さんってすごく邪魔で、何もできないじゃない」景一は鼻で笑って、
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