いつもの朝。 母さんの声が朝からうるさく響く。 「紫音ー、のんびりしてるみたいだけど、時間大丈夫なのー?」 「分かってるって!」 寝起きのまま、制服に袖を通し、階段をかけ降りる。 黒川紫音《くろかわしおん》俺の名前だ。 洗面所で顔を洗う。鏡を見ると、少し伸びた髪の隙間から切れ長の目がのぞいている。 「あ、寝癖……」 ワックスを手に取り、跳ねた髪を手ぐしでサッと整えた。鏡の中の自分を見て、 「…まあ、こんなもんか…?」と小さく呟く。 「紫音、何やってるの?」 振り返ると、母さんがニヤニヤとこちらを見ている。 「……べっ別に、寝癖直してただけだし」 声が少しうわずる。 「もぉ…色気付いちゃって…」 手を口に当て、母さんは何だか嬉しそうにしている。 「は?違ぇし?」 「はいはい…」 母さんが小さく笑う。 「ほら、これ…」 弁当をぐいっと身体に押し付けられる。 「時間ないんでしょ?」 「あー、やっべ!」 慌ててカバンに弁当を突っ込み、食パンを口にくわえる。 ふと目の前の棚を見る。見覚えがあるようなないような黒い腕時計。少し気になりつつ玄関で靴を履き、家のドアを開けた。 「行ってきます!」 「いってらっしゃい!」 ◻︎◻︎◻︎ 授業はいつも通り退屈で、気づけば放課後になっていた。終業のチャイムが校内に響く。 「はぁぁ、やっと終わったー!」 (まあ、ほぼ寝てたけども…) 椅子に座ったまま、大きく伸びをする。 「紫音ー」 声の方へ振り返ると、見慣れた顔が満面の笑みでこちらを見ている。 「……大地、顔がうるせぇ!」 机に肘をついたまま軽口を叩く。 「顔がうるせぇとか、何だよ!こんなに爽やかな親友に向かって!」 「……自分で爽やかって言う奴の顔が見たいな」 「おう、どんどん見ろよー」 いつものたわいもないやり取り。 珍しく部活が休みらしく、久々に一緒に帰る。 爽やかと自分で名乗る親友《バカ》は、長瀬大地《ながせだいち》。幼馴染だ。 まあ自分で自称するだけあって、清潔感があり、さらさらの茶髪、笑顔を絶やさないコイツはそう言っても間違いではないけれど。 二人で教室を出て、並んで歩く。 「なぁ紫音、ちょっと寄ってかな
Last Updated : 2026-07-04 Read more