銀の怪盗は真夜中に覚醒する

銀の怪盗は真夜中に覚醒する

last updateHuling Na-update : 2026-10-01
By:  黒瀬 蓮In-update ngayon lang
Language: Japanese
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俺の名前は黒川紫音。 ただの高校生――のはずだった。 身に覚えのない腕時計を手にしてから、俺の日常はズレ始める。 消える記憶。 狂い始める時間。 気づけば、俺は”怪盗シルバー”として夜を駆けていた。 俺が盗むのは金じゃない。 誰かが奪われた『大事な何か』だ。 三年前の抜け落ちた記憶。 いつしか、本気を出せなくなっていた俺。 シルバーとして動き始めてから、謎が少しずつ増えていく。 消えた記憶。 解けない違和感。 隠され続けた真実。 すべてが一本の線で繋がるとき、止まっていた俺の時間も動き始める。 困ってる奴は放っておけない。 だけど、この高揚感は、嫌いじゃない。 ……面倒くせぇけどな。

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第1話 いつもの日常、忘れられた時計
三年前―― 「怪盗アルジェントが現れたぞ!」 騒がしいサイレンの音が夜の街に鳴り響く。 「いたぞ!追え!!」 ビルの影に人影が二つ。 『紫音、ちゃんとついてきているか?』 「当たり前じゃん!」 白いジャケットを翻し、少年は屋上を駆け抜ける。 「でもさぁ?悪い奴から盗まれた物を取り返してるだけなのに、なんで俺たちが追われるんだ?」 アルジェントは小さく笑う。 『世の中の道理は、正しい者の味方とは限らない』 「変な世の中」 『無駄話はさておき、帰るぞ?』 二人の怪盗は夜の闇へ消えていった。 ◇◇◇ 「なあ?なんで俺にはアルジェントみたいな二つ名がないの?」 『欲しいのか?』 「うん!だってカッケーじゃん?」 『そうか』 アルジェントは微笑む。 『十六になればお前にも二つ名がつくはずだ』 「まだ二年もあんじゃん!」 『ははは……まあ、つくかどうかはお前次第だがな?』 「ふぅん」 ◇◇◇ 「アルジェント、貴様はここで終わりだ!その愛弟子の命が惜しければ、おとなしく降伏しろ」 アルジェントは静かに目を閉じる。 『……わかった』 「ダメだ!アルジェント!!」 『逃げのびろ……!紫音、お前は……』 ――そこで、景色は途切れた。 ハッとして目が覚める。頬には涙が伝いなぜか胸がズキリと痛む。なにか大事なことが抜け落ちてるような気がする。 夢を見ていたはずなのになに一つ思い出せない。 「なんで泣いてんだ?俺」 涙を拭って、制服に着替えた。 今日もいつもの朝と同じ。 階下から母さんの声がうるさく響く。 「紫音ー、のんびりしてるみたいだけど、時間大丈夫なのー?」 「分かってるって!」 返事をし、階段をかけ降りる。 黒川紫音《くろかわしおん》。俺の名前だ。 顔を洗い、鏡を見ると少し伸びた髪の隙間から切れ長の目がのぞいている。 「あ、寝癖……」 ワックスを手に取り、跳ねた髪を手ぐしでサッと整えた。鏡の中の自分を見て、 「……まあ、こんなもんか?」と小さく呟く。 「紫音、何やってるの?」 振り返ると、母さんがニヤニヤとこちらを見ている。 「べっ別に、寝癖直してただけだし……」 声が少しうわずる。 「もぉ
last updateHuling Na-update : 2026-07-04
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第2話 偶然か、必然か
翌朝――  スマホが耳元で鳴っている。  ぼんやりと手を伸ばし、音を止める。 「ん……今、何時……」  画面を見る。  7時30分――  一瞬、固まり、慌ててベッドから起き上がる。制服に袖を通し、部屋を飛び出した。  階段を駆け下りて洗面所へ向かい、顔をさっと洗う。寝ぐせを軽く整え、リビングへ向かった。 「母さん!なんで起こしてくれなかったのさ!」 「何言ってんの!お母さん、何度も起こしたんだから!」  母さんが呆れ顔で言ってくる。 「え……?」 「最低三回は起こしたわよ?」 「……マジか」 (起こされた記憶が全くない……。そんなに熟睡してたっけ?)  棚の上の腕時計に目が止まる。 「……つけていくか」  腕につける。カチッ。 「おっ!ピッタリじゃん!」 「紫音ー!遅れるわよ!」 「やべっ」  食パンをくわえ、カバンを掴む。カバンは半分開いたまま、靴を履いた。 「行ってきまーす!」 「ボタン、ちゃんと止めなさいよー」 「へーい」  軽く返事をしてから外に飛び出した。 ◇◇◇ 教室――  息を切らし、何とか席に滑り込む。 「……セーフ!!」 「ギリギリかよ!」  後ろから大地の声。 「朝は弱ぇんだよ……」  そう言って机に突っ伏す。  無意識に腕時計を見る。妙に秒針の音が耳に入る。カチッカチッ……と。 「ねむ……」   なんか妙に眠い……。  耐えきれずそのまま目を閉じる。担任の声が耳元で聞こえた気がしたけど、意識はすぐに沈んでいった。 ◇◇◇  チャイムが鳴り、大地に肩を揺すられる。 「いい加減に起きろ!昼休みだぞ?」 「……ん」  寝ぼけたまま、顔を上げる。 「もう授業終わったのか?」  佐藤信樹《さとうのぶき》、通称ノブ。  ノブが笑いながらからかってくる。 「担任が耳元で怒ってても起きなかったからな」  坊主頭で声がデカい、いつものノリだ。  山田直之《やまだなおゆき》、通称ナオ。  ナオが呆れたように言う。 「お前ほんとすげぇわ、大物だわー!あんまりにも起きねーからクラス中、爆笑だったぜ?」  ナオは相変わらず冷静。ロン毛に眼鏡。  こういう時だけオカンみたいに口うるさい。 「うるせぇな、疲れてんだよ色々」  「色々ってなんだよ、女関係か?」  ノブ
last updateHuling Na-update : 2026-07-04
Magbasa pa
第3話 友情、それから——
帰り道——  外に出ると、冷たい空気が頬に触れる。思わず肩をすくめた。 「……さむっ」 (こんな寒かったっけ?)  さっきの視線が脳裏をよぎる。一瞬だったけど、あれは確かに俺の顔だった……。  でも、漫画じゃあるまいし、そんなはずあるわけがない。ただの見間違いだ。  やっぱり疲れてんのか俺? そんなことを考えていたら、急に腹が鳴った。  思わず口から言葉が出る。 「……腹減った」  ちらっと二人を見て、俺は言った。 「なんか食わねぇ?」 「いいな!」  大地が即答する。  コンビニで肉まんを買い、三人で並んで歩く。冷たい空気の中、手の中だけが少し温かい。 「うまっ」  夢中になって食べる俺。 「あったけぇ」  肉まんではなく何かを噛み締めている嬉しそうな大地。 「美味しい」  そんな俺らに付き合う白石。 「てかさー、紫音! なんでお前の分まで俺が払うんだよっ!」 「いいじゃん!たまには」 「この金欠野郎!」 「うっせぇ! お前も変わんねぇだろ!」  俺らのやり取りを見て、白石が困ったように微笑む。 「やっぱり私も出すよ?」 「大地! 気を遣わせんなよ?」 「し、白石、遠慮すんなって!」 「大地、お前、顔赤いぞ?」 「うるせぇ!!」  白石は、クスッと笑った。 ◇◇◇  少し歩いたところで、白石が立ち止まる。 「……あの、私、こっちだから」  指さす先は、住宅街の方向。 「あ、そっか」  大地が少し慌てる。 「今日は誘ってくれてありがとう……」  白石が小さく頭を下げる。 「……また明日」  白石はそう言って少し微笑んだ。そして少し離れてから、振り返り小さく手を振った。  大地が慌てて振り返す。 「お、おう!」  そのまま白石の姿が見えなくなるまで。  少しだけ静かな空気。大地と二人で並んで歩く。大地が、そわそわと落ち着かない。 「紫音……」 「ん?」 「あのさ」  言いかけては止まり、視線が泳ぐ。その様子を見ながら、俺は小さく息を吐く。 「今日お前、部活サボっただろ? キャプテンのくせにさぁ?」  冷やかすように言う。  大地が一瞬固まる。 「さ、さぼってねぇよ! たまたま休みだっつーの!」  真っ赤な顔で何言ってんだか。揶揄うように俺は続けた。 「へー、昨日
last updateHuling Na-update : 2026-07-06
Magbasa pa
第4話 夢?消えた記憶
 いつもより少し早く目が覚めた。  ぼんやりと天井を見つめる。目は覚めているのに、頭が重い。眠れていたはずなのに、どこか疲れが残っている。  目をこすりながら、ゆっくりと起き上がる。昨夜のことが断片的に頭に浮かぶ。  白い影、逆に動く時計、ドアがゆっくり開く音——。  はっきりと思い出せないけど、ただの夢なんかとは思えなかった。妙に現実《リアル》すぎた。  腕時計を見る。カチ、カチ、と、何事もなかったように、普通に動いている。 「……まあ、普通だよな」  スウェットを脱ぎ、制服に着替える。  階段を降りると、リビングから味噌汁のいい香りが漂ってきた。 「おはよう」  母さんが笑顔で話しかけてくる。 「……はよー」  欠伸をしながら俺は応える。  じいちゃんは食い終わったのか、もう呑気にお茶をすすっている。   「……なあ、じいちゃん」 「どうした? 紫音」  じいちゃんが、ゆっくりと顔を上げる。 「あのさ……」  首の後ろを掻きながら尋ねる。 「昨日の夜、俺が寝たあとにもしかして、部屋に入ったりとかした?」  じいちゃんが返事する前に、母さんが、クスッと笑う。 「なにそれ? 変な夢でも見たの?」  俺は少し眉をしかめ、 「夢じゃないんだって!そう、廊下! 廊下から音がしたんだよ!」  少しムキになりながら返す。 「気のせいでしょ」  母さんは気にした様子もなく、 「ちょっと疲れてるんじゃない?」  俺は話すのをやめ、無言でトーストをかじった。  じいちゃんが、ゆっくりと口を開く。 「怖い夢でも見たのか……でもまあ、夢は夢じゃ」   穏やかな声で、いつも通りの言い方。 「そうだよな……ただの夢だよな」  モヤモヤはあるものの、俺はそれ以上考えるのをやめ、そのまま家を出た。 通学路――  朝の空気が冷たい。  家を出た瞬間、思わず肩をすくめた。 「……さむっ」  いつもの通学路を歩きながら伸びをする。見慣れた景色が並ぶ中、足早に歩いた。  時計を見ると7時58分。 (いつもより余裕だな)  視線を前に戻すと、横を通り過ぎた生徒の動きが、ほんの一瞬だけ遅れたような気がした。 「……?」  思わず立ち止まって目をこする。  だけど、さっき見た生徒には、特に変わった様子はない。  変だ
last updateHuling Na-update : 2026-07-06
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第5話 頭の中に響く声
みんなの笑い声が、遠く感じる。 大地も、ノブも、ナオも、さっきの話で、まだ盛り上がっている。 「紫音?」 大地が首を傾げながら俺を見る。 「ん?」 「お前、さっきからあんま会話に入ってこないよなぁ?」 「……そんなことねぇよ」 図星をつかれ、視線を逸らす。 ナオが続けて話しかけてくる。 「授業中、お前やっぱり寝てたよな?」 ノブが俺の顔を覗き込む。 「てか紫音、顔色悪くね?」 大地が心配そうに尋ねてくる。 「お前、腹でも壊したのか? まさか下痢とか?」 ノブが続ける。 「イケメンが下痢とか台無しだぞ」 「そこフォローしてやれよ」 ナオが少し笑いながらも、心配そうに俺を見る。 「腹なんか壊してねぇし!」 そっぽを向きながら返す。 「だよなー? お前意外と食うのに腹壊さねぇしなぁ」 大地が笑う。 「てかさ——」 ノブがニヤっとしながら言う。 「帰りゲーセン行かね?」 「いいねぇ、あ、でも塾行くまでな?」 ナオが乗る。 「俺は部活だしなぁ……紫音は?」 三人が俺を見る。 「……わりぃ、俺今日は帰るわ」 席を立つ。 「えっ? 帰んのか?」 大地が、意外そうに尋ねてくる。 「ああ……ちょっと今日は用あってさ」 「下痢がヤバいんだとさ」 ノブが茶化す。 「ちげぇから!」 大地は笑いながら、 「送ってやれねぇけど、気をつけて帰れよ?」 「お前は俺の恋人か!」 「ははっ! また明日な!」 「ん……」 三人に手を振り、俺は教室を後にした。 教室を出て、廊下を歩く。人の声が少しずつ遠ざかっていく。 ◇◇◇ 自宅—— 靴を脱ぎ、リビングに入る。 「おかえり」 母さんがいつもと同じように迎えてくる。 「……ただいま」 短く返す。 母さんが、首を傾げながら、俺に尋ねてくる。 「どうしたの? なんか元気ないわね」 「……別に」 俯きながら返事をする。 母さんは心配そうな様子で聞いてくる。 「もしかして、大地くんと喧嘩でもしたの?」 「は? してねぇし!」 咄嗟に言葉を返す。苛立ちがそのまま言葉に出てしまった。 「そう……」 母さんは少しだけ驚いた顔をして小さ
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第6話 目の前の変な奴
俺は無言のままそいつを見つめる。 「どうしたの? 顔、怖いよ?」 不思議そうに俺を見ている。 頭をガシガシ掻きながら俺は答える。 「起きた? 何言ってんだお前。朝からしっかり起きてるし!」 首を傾げながらそいつは続ける。 「何言ってるの? 相変わらずバカだなぁ」 「な、バカとはなんだ! 初対面の奴に言われたくねぇし!」 夢にしては妙にリアルだ。感覚もあるし……。 ただ目の前のコイツは……どう説明するんだ? 手のひらサイズの黒紫の小さな体。羽根のような耳に、矢印みたいな尻尾。丸い目が、こちらをじっと見ている。 俺は無意識に手を伸ばしそいつを抱き上げ、指先でそっと触れてみた。 (やわらけぇ……) 顔が少し綻ぶ。 そのままなぞると、小さな体がぴくっと揺れた。 「ちょっ! くすぐったいよ!」 「……っ!?」 我に返り、反射的に手を離すと、そいつは部屋の絨毯にぽとっと落ちた。 「きゅー……」 足元で、小さく丸まったそれを見て、俺は呟いた。 「本物だったのか?」 慌てて俺は膝をつき、それに向かって手を差し伸べた。 「……わりぃ」 俺がそう言った後、そいつはニヤリと笑った。そして、もぞもぞと俺の身体を登り始めた。 「ん? お前何してんだ?」 俺は、訝しげにそいつを見つめる。 肩まで登ってきたそいつは、横で頬を膨らましながら言った。 「落とすなんてひどいよ、ご主人!」 そう言って、俺の肩を短い手で叩いている。 「謝っただろ!」 「だから軽すぎるんだってー! 『わりぃ』の一言で済まさないでよ! ご主人っ」 さらに力強く叩いてくる。 「や、やめろ! やめろって! 落としたのは確かに悪かったけど、ご主人って誰のことだよ?」 「えー? そこー?」 呆れたような顔で俺を見る。 「そんな目で見んなよ! 腹立つわ」 そいつはボソボソと話し出す。 「そんなの……キミに決まってるじゃないか」 「……お、俺? 俺が主人だって?」 俺は目を見開き、そいつに尋ねる。 「てか、まずお前が何なんだよ?」 そいつが、期待に満ちた目で咳払いをし、目の前にある机に飛び移った。 「よくぞ聞いてくれた! オレは、ログチー! キミの相棒さ!」 その瞬間
last updateHuling Na-update : 2026-07-06
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第7話 白い影の正体
 時刻は午前二時。いわゆる丑三時《うしみつどき》だ。  ベッドから起き上がり、そっと一階に降りた。もちろん家族は既に寝ている。静かなキッチンで冷蔵庫を開ける音が妙に響く。  コップに水を注ぎ、それを一気に飲み干した。 「うっ……冷て」  一気飲みしたせいか、下腹部からギュルッと音が鳴る。 「……さて、寝るか」  音を極力立てないよう階段を登り、部屋に戻った。  ベッドに横になる。目を閉じても眠気が全く来ない。腹もなんだか落ち着かない。  さっきの出来事を思い出す。  心臓がドクンと弾む。余計に目が冴えてきた。 「……はぁ」  小さく息を吐き、天井を見つめる。身体を横に向けると腕時計が目に止まる。  ベッドから起き上がり、腕時計を掴む。 「ったく、わけわかんねぇ」  苛立ちを抑えるように首の後ろを掻く。 「ご主人、眠れないの?」  時計からログチーの声が聞こえたけど、俺は無言のまま、時計を戻した。 「ねぇ、聞いてる? ご主人?」  少し苛立ちながら、言葉を返す。 「……いい加減、その呼び方やめてくんね?」 「ん?」 「ご主人ってやつ」 「なんでー?」 「なんか、むず痒い」 「ふうん」 「じゃあ、シルバー?」 「なんでそうなる?」  呆れ顔でツッコむ。 「じゃあ、どうしたらいいのさー?」  拗ねた様子でログチーが尋ねてくる。  俺は少し考えた後、ため息をついた。 「……もう、好きに呼べよ」 「うん! シルバー! やっぱりこっちのがしっくりくるよね」  嬉しそうな声が返ってくる。  ベッドに寝転び、天井を見つめたまま、俺はログチーに尋ねた。 「……で?」 「ん?」 「さっきの話の続きだよ、一体覚醒ってなんなんだよ!」 「んー? やっぱり気になる?」  ログチーが冷やかすように聞いてくる。 「は? 当たり前だろ?」 「映画でもあるまいし! 覚醒しましたよーって雑な説明されて、『はい、納得』って言う奴がどこにいる?」 「シルバー、落ち着きなよ、夜中だよ?」 「うるせぇ!!」  ドスドスドス……。 「ん? なんだ?」  部屋の外から足音が近づいてくる。部屋の前で音が止まったと思うといきなり部屋のドアが開いた。 「えっ? 母さん……?」  母さんの目が鋭くすわっている。 「何時だと思
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第8話 謎のカード
「なんで笑ってるの? シルバー」  肩の上からログチーが尋ねてくる。 「は? 笑ってねぇし!」 「ほんとに素直じゃないんだから……」  ログチーが呆れた様子で俺を見る。  視線を横に向けると、背中側で何かが揺れた。 「……ん?」  思わず、眉をしかめる。 「なんだこれ……マント?」  手でマントを掴む。 「正装にはやっぱりマントがないとね!」  ログチーが、けらけらと笑う。 「さらに盛るな!」  ログチーを軽く叩く。  身体を動かすたびマントが揺れ、銀のチェーンがかすかに鳴った。 「……はぁ」  額に手をやり、やれやれと小さく息を吐く。 (コスプレ感半端ねぇな)  いったん服装のことは諦め、ログチーに尋ねる。 「なぁ」 「どうしたのシルバー?」 「さっきのやつ」 「さっきのやつ?」 「うん……。さっき過去に戻ったじゃん? あれって……一体どれぐらい戻れるんだ?」 「んー」  ログチーは、手を口元に当てながら答える。 「そうだねぇ、今のシルバーだと三日くらいかなぁ」 「今の……俺?」  ログチーは、にやっと笑う。 「だってまだ覚醒したばっかじゃん」  そう言った後、ログチーの声のトーンが落ちた。 「これからどうなるかは、キミ次第だから……上手く言えないけどさ」 「俺次第……」  無意識に手に力が入る。 「……じゃあ例えば、能力次第ではもっと過去に……三年前とかに戻ることもできるのか?」    ログチーが、きょとんとした顔でこっちを見る。 「三年前?」 「……出来るのかっ?」  自分でも驚くほど声が強張っていた。  思わず、ログチーを力強く掴む。 「むぎゅっ」 「ちょっ——!」 「あ、わりぃ」  すぐに手を離す。  ログチーは、一瞬だけ真顔になり答えた。 「……それは、無理だよ。さすがにそこまでは戻れない」 「まあ……そうだよな」  ため息混じりに呟いた。  ログチーが軽く首を傾げながら尋ねてくる。 「三年前に何かあるの?」 「記憶……」 「記憶?」 「あ、いや、ただ聞いてみただけだ」 「ふーん?」  どこか納得していない声。  俺は、ログチーの言葉を遮って尋ねた。 「さっきのやつ……もう一回やってみたいんだけど、いいか?」 「えっ?」  ログチーの顔が
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第9話 そこにあるはずのないもの
 スマホのアラームがうるさく鳴り響いている。 「うっ……」  睡眠不足のせいなのか、それとも能力の代償なのか、身体がものすごく気だるい。    布団からモゾモゾと手を伸ばし、アラームを手探りで止める。    時刻は六時五十五分。 「ふわぁ……ねっむ!」  ベッドでそのまま横になりながら、天井を見つめる。昨夜のことがまだ鮮明に頭の中に残っている。  黒いカード、触れたときの熱、そして鼓動のような感触。 「さすがに夢じゃないよな?」  小さく呟く。  上体を起こした時、ベッドの下を見ると黒いカードがそこに落ちていた。  ゾワッ。  急に背筋が凍りつくような感覚。そっと手を伸ばし、カードを手に取ってみる。  何の変哲もない、ただのカード。  昨日のような熱はない。 「……だよな」  軽く息を吐き、カードを机の上に置いた。  ――本当に、ただのカードなんだろうか。  考えを振り払うように立ち上がり、制服に着替えて部屋を出た。 ◇◇◇ 「おはよう」  キッチンから母さんの声。 「……はよ」  席に座りながら、ふと違和感に気づく。いつも聞こえるはずの湯飲みの音がしない。 「あれ? ……じいちゃんは?」  母さんが振り返る。 「珍しく寝てるのよ。いつも早いのにねー」  軽い調子で母さんは答えた。 「……まだ寝てるのか、めずらし……」  少し考えてから、立ち上がる。  廊下に出て、じいちゃんの部屋の前で足を止めた。 「……じいちゃん?」  返事はない。  ドアを少しだけ開ける。布団の中で、じいちゃんは静かに寝息をたてている。 「……寝てるだけだよな」  一瞬、声をかけて起こそうかと思ったけどやっぱりやめた。静かにドアを閉め、そのまま家を出た。 ◇◇◇ 通学路——  朝の空気が冷たい。歩きながら何げなくポケットに手を入れる。何も入っていないポケット。  そう思っていたら、指先に何かが触れた。 「ん?」  取り出すとそこにはさっきの黒いカード。一瞬思考が止まる。 「は? なんでここに?」  机に置いたはずだ。確かに置いた。  カードをじっと見つめる。  何の変哲もないただのカード。  次の瞬間、苛立ちが込み上げてくる。 「クソッ、わけわかんねー!」  思わず吐き捨てるように呟く。 「ログ
last updateHuling Na-update : 2026-07-06
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第10話 意図しない変身
 教室を出て足早に歩き出す。  廊下には昼休みの賑やかな声が響いている。  階段を下り、昇降口を抜け、まっすぐ校門に向かって歩いていく。周りに人がいないか確認しながら校門を出た。  通学路を少し逸れたところで、 「ちょっと君……」と、後ろから声をかけられる。  振り返ると知らない男が不審そうな目で俺を見ていた。 「キミ、学校は?」  そう聞かれ、言葉に詰まる。サボって外に出たなんてとてもじゃないけど言えない。黙っている俺を見て男は更に尋ねてくる。 「今はまだ授業中じゃないのか?」  疑うような目で俺を見る。 (このオッサン……警察か? どうする?) 「……ゴホッゴホッ、ちょっと体調が悪くて……ゴホッゴホッ、帰るとこなんすよ」  わざとらしく咳こみながら答えた。 「そ、そうか、大丈夫かい?」  男が心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。 「ゴホッゴホッ、うつるといけないんで……ははっ、さ、さいなら!」  そう言って俺は踵を返す。 「ちょ、待ちなさい!」  男が俺を呼び止めるのも聞かず、その場から逃げ出すように走り出した。  心臓の鼓動が早くなる。曲がり角を曲がり、そのまままっすぐ全力で走る。 「はぁっはぁっ」 (寝不足の身体にはキチィー) 「……ログチー!」  走りながら、腕時計に向かって小声で叫ぶ。 「あれ? ログチーどうした?」  返事はない。 「おいって……!」 「……んー?」  間の抜けた声。 「おはよー……シルバー」 「おはよーじゃねぇよ! 二度寝すんな!」 (俺だって眠いんだよ!) 「てか、今それどころじゃねぇんだよ!」  少し苛立ち気味に説明する。 「撒いたと思うけど、追われてたんだよ!」 「んー? 鬼ごっこー?」  寝ぼけた間抜けな声。 「お前な……」  その時、急にガクッと視界が揺れた。 「……っ?」  身体に違和感。ふと自分を見ると、白いジャケットに翻るマント、腰元で銀のチェーンが揺れている。 「は?」  驚いて走っている足が止まりかける。 「はああああああ? なんでまたコスプレ姿になってんだよー!!!」  周囲の視線が、一気に集まってくる。 「待て待て待て待て! なんだよこの状況」  青ざめながら走る俺。  周りからザワザワと声が聞こえてくる。 「え、なに
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