LOGIN俺の名前は黒川紫音。 ただの高校生――のはずだった。 身に覚えのない腕時計を手にしてから、俺の日常はズレ始める。 消える記憶。 狂い始める時間。 気づけば、俺は”怪盗シルバー”として夜を駆けていた。 俺が盗むのは金じゃない。 誰かが奪われた『大事な何か』だ。 三年前の抜け落ちた記憶。 いつしか、本気を出せなくなっていた俺。 シルバーとして動き始めてから、謎が少しずつ増えていく。 消えた記憶。 解けない違和感。 隠され続けた真実。 すべてが一本の線で繋がるとき、止まっていた俺の時間も動き始める。 困ってる奴は放っておけない。 だけど、この高揚感は、嫌いじゃない。 ……面倒くせぇけどな。
View More静寂―― 全てのバスケ部員が目を奪われた。「……すげぇ」 大地が興奮気味に言う。「……えっ?ま、まぐれだよっ」 空は戸惑いながら手を横に振る。「……んー、なんつーか、綺麗なフォームだった」 そして少し照れくさそうに、「俺の親友ライバルみたいに」と呟いた。(……それって) 大地に声をかけようとしたと同時に後ろから部員が声をかけてきた。「キャプテン、ちょっと見てもらっていいですか?」「あ、ああ、今行く」 大地は申し訳なさげに「……ごめん、蒼乃、気が済むまで見てってくれよな」 そう言って立ち去る。 空は軽く頷いた後、さっきの余韻に浸るかのようにゴールポストを見つめていた。〜紫音side 〜 ふと気がつくと、身体が浮いて……はなかった。 横断歩道にいたハズなのに、ここは一体どこなんだ? 真っ白な世界。 音もない、人もいない。ただただ同じ景色が広がっている。 周りを少し見渡した後、ふと誰かの気配を感じた。 振り返るとそこには一人の男が立っていた。 白いジャケット。 黒いインナー。 黒いパンツに、白いマント。「……えっ?」 鏡かと思い、思わず自分の姿を見る。特に変わった様子はない。 いつも騒ぎ出すログチーも何も言わない。 (何かがおかしい?) てか、俺と目の前にいる男だけがいる世界……みたいな。 男の顔はよく見えないが、どこかで見たような気もする。 男がこちらを見ている。 思わず俺は男に尋ねた。「……俺は死んだ……のか?」(特にどこも痛くないけど……) 男は答えない。「……てか、お前、誰なんだ?」 男の口角がゆっくり上がる。「……銀の怪盗」「は?」 わけがわからず呆然とする。 男は続けて言う。「私は、銀の怪盗アルジェントだ……」「……アルジェント……って」 聞いたことがあるような………? 数秒考えて――「……アルジェントって、まさか――」「……」「誰だっけ……?」 男がガクッとよろける。「私は世間を騒がす伝説の怪盗、アルジェント……」「……いや、名前アピールはもういいって。よく知らねぇし」(なんか面倒くさいな、このおっさん)「……」 静かな空間に無言の時間が流れる。「ゴホン、ゴホン」 アルジェントが咳払いをする。 思わず口を押さえながら言う。「……風邪かよ
ランドセルを背負った小さな男の子が、こちらを見る。「……っ!!」 子供の腕を掴み、力任せに歩道側に引き寄せた。バイクはそのままスピードを落とすことなく真っ直ぐに向かってくる。 距離はわずかに10m。(……ダメだ、今度こそ死ぬ) ドクンッ 心臓の音だけが、やけに大きく響いた。 次の瞬間―― 目の前の景色が滲んだ。◻︎◻︎◻︎ 家の縁側、風鈴の音。 夏の香り、蝉の泣き声。 優しい声がする。『紫音、それ、そんなに気にいったのかい?』 麦茶を飲みながら笑う、じいちゃんとばあちゃん。『うん!!だってスマホだよ!色々なこと出来るんだよ!』 ばあちゃんは優しく笑いながら『ばあちゃんのお古で悪いけどねぇ』『……ううん、すっげぇ嬉しい!』『一生大事にするからね!ばあちゃん!』 昔の自分の声……。 ばあちゃんは嬉しそうに笑って俺の頭を撫でた。『優しい子だね、将来が楽しみだねぇ』『ほっほっ儂に似て、イケメンだしのぅ』『あらあら、おじいさんたら……』『ラーメン、つけ麺、儂イケメンー』『じいちゃん、それ古いよ!』 笑い声が頭に響く。(……ばあちゃんごめんな、一生大事に出来なかった) ――キキィィィィィィィィィィーッ 耳を裂くような音が、一気に現実へ引き戻した。 そのまま自分の身体が浮いた感じがした。〜空Side 〜 クラスメイト達からようやく解放された空は少し疲れて、ふうっと息を吐く。 前の席を見ると、紫音の姿はなかった。「……いない」(思いっきり目を逸らしちゃった……。変に思われたよね……)(……でも、屋上で見た姿は) 首をふるふると振る。(確かめもしないで、諦めるのは嫌!) ふと思いつく。「あっ部活なのかも?」 周りを見渡した空は、残ってるクラスメイトに声をかける。(あれ……この人、さっき紫音くんと一緒にいた人)「あの……」「ん?」「えーっと、長瀬くん?」(名札に気がつき名前を呼ぶ)「あ、そうだけど」「えっと、バスケ部ってどこで活動してるのかな?」「えっ?蒼乃さん、バスケ部興味あるの?」 大地が顔を輝かしながら、嬉しそうに尋ねる。「あ……うん、そうなんだ。下手だけどね」「そっかそっか!俺男子部のキャプテンやってるから、一緒に行く?」「……えっ?」 少しびっくりしながらも、空
後ろからの視線を何となく感じながらも、振り返らず机に突っ伏していた午後の授業。 いつも以上に何も頭に入ってこない。(アイツ、思いっきり目を逸らした、よな?)「……かわ!」「……黒川!」 先生に名前を呼ばれて、ハッとして立ち上がる。「……あ、俺っすか?」「お前……、ちゃんと授業聞いてたのか?」 少し蔑むような目で俺を見る日本史担当の山﨑。(聞いてない、全く)「……多分?」「……もういい、座れ」 頭を掻きながら、ハハッと苦笑いする。 ナオが呆れてこちらを見ながら、口を動かしている。(……バーカ!って、なんだよ) 教室の中も笑い声で少しざわつく。「……Zakiyama… Want me to rip every last hair out by the roots?」(……ザキヤマめ、髪を毛根から全て抜いてやろうか) 思わず小声で悪態をつく。「黒川、何か言ったか?」 あくびをしながら「何も?」と返した。 後ろでナオが爆笑していた。 俺はその後珍しく真面目に授業を聞いた。 放課後―― チラッと後ろを見る。 相変わらず、クラスメイトに囲まれてる空。「紫音、帰るのか?」 大地が声をかけてくる。「……ああ、お前は部活だろ?」「おう、寂しいのか?」「……んなわけあるかっ」 カバンを持ち、大地に手を振ってから教室を出る。「……スマホ、修理しないとな」 校門を出て、携帯ショップに向かった。◻︎◻︎◻︎ docoda店頭―― 店頭で修理の依頼を申込む。「……黒川様、ご名義はどちら様でしょうか?」「名義……?多分、黒川孝之?」「ご関係は?」「……父ですけど」(……色々面倒くせぇな) そんなこんなのやり取りをしながら、店員と話す。俺のスマホを預かった店員が申し訳なさそうに言ってくる。「あの……黒川様の機種なんですが」「……?」 店員が、タブレットをこちらに向ける。「少し古い型でして、部品交換が難しい状態なんです」「……は?」 思わず間抜けな声が出た。「データ移行して、本体の交換をご検討いただいた方が良いかと……」(マジかよ……)「ちなみに、修理費用は……」「画面交換だけでも、こちらになります」 表示された金額を見て、思わず顔が引きつった。「……高っ」「申し訳ございません……」 店
ホームルームが終わり、担任が教室から出ていった直後―― 空の周りは、一瞬で人だかりが出来る。「ねぇねぇ蒼乃さんってどこから来たの?」「彼氏いるの?」「モデルとかやってた?」(……すげぇな) 何となく、その場にいるのが気まずくなって席を立つ。「……紫音、どこ行くんだ?」 ナオが尋ねてくる、「……便所」「そう言ってサボる気だろ?」(……するどい) ナオの視線を無視して、教室を出る。 廊下はまだ朝の空気が残っていて、少しひんやりしていた。(やっぱサボるか……) 俺は屋上に向かうことにした。屋上―― 屋上の給水塔で、俺はいつの間にか眠っていた。 誰かの視線を感じて、目を覚ます。太陽の逆光で、顔が見えない――(……蒼乃?) 慌てて起き上がる。「ここにいたんだ?」「……佐伯か?」(……違った) 佐伯は、柔らかく微笑みながら言う。「横に座っても……?」「……あ、ああ」 佐伯が横に座る。 腕が触れる距離。(なんか、近くね?) 佐伯は俺をまっすぐ見つめながら呟いた。「……あのね?」「ん?」「ちゃんとお礼が言いたくて……」「……別に、何も」 思わず視線を逸らす。「……軽蔑されるかもだけどね」 佐伯は少しずつ自分のことを語り出した。 年齢を偽ってガールズバーで働いていた事。 男に卑猥な写真を撮られて脅されていた事。 なぜか、店が訴えられて、データが消えた事。 バイトを辞めた事――。 無言のまま、俺は隣で聞いていた。「……助けてくれたのは、黒川くんでしょ?」 佐伯がまっすぐ見つめながら聞いてくる。「……俺は、何も」「……そう?」「でもね、私……」「黒川くんに助けてもらった気がするの」 そして少し照れくさそうに佐伯が言う。「想うのは自由だよね?」「ん?まあ……自由なんじゃね?」 言葉の意図がわからないまま返事する。「ちなみに、俺じゃないからな?」「佐伯がさ、困ってんのを見てた奴がいたんじゃね?」「……プッ」「……なんだよ?」「ううん、なんでもない」 佐伯はまっすぐ俺を見つめながら微笑んだ。「おかしな奴……」◻︎◻︎◻︎「……さて、と。じゃあ私、そろそろ戻るね」「あ、ああ」 佐伯が立ち上がる。「……?」「ん?どうした?」「……今、誰か来たような?」「気のせい