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第3話 友情、それから——

作者: 黒瀬 蓮
last update publish date: 2026-07-06 11:46:26

帰り道——

 外に出ると、冷たい空気が頬に触れる。思わず肩をすくめた。

「……さむっ」

(こんな寒かったっけ?)

 さっきの視線が脳裏をよぎる。一瞬だったけど、あれは確かに俺の顔だった……。

 でも、漫画じゃあるまいし、そんなはずあるわけがない。ただの見間違いだ。

 やっぱり疲れてんのか俺? そんなことを考えていたら、急に腹が鳴った。

 思わず口から言葉が出る。

「……腹減った」

 ちらっと二人を見て、俺は言った。

「なんか食わねぇ?」

「いいな!」

 大地が即答する。

 コンビニで肉まんを買い、三人で並んで歩く。冷たい空気の中、手の中だけが少し温かい。

「うまっ」

 夢中になって食べる俺。

「あったけぇ」

 肉まんではなく何かを噛み締めている嬉しそうな大地。

「美味しい」

 そんな俺らに付き合う白石。

「てかさー、紫音! なんでお前の分まで俺が払うんだよっ!」

「いいじゃん!たまには」

「この金欠野郎!」

「うっせぇ! お前も変わんねぇだろ!」

 俺らのやり取りを見て、白石が困ったように微笑む。

「やっぱり私も出すよ?」

「大地! 気を遣わせんなよ?」

「し、白石、遠慮すんなって!」

「大地、お前、顔赤いぞ?」

「うるせぇ!!」

 白石は、クスッと笑った。

◇◇◇

 少し歩いたところで、白石が立ち止まる。

「……あの、私、こっちだから」

 指さす先は、住宅街の方向。

「あ、そっか」

 大地が少し慌てる。

「今日は誘ってくれてありがとう……」

 白石が小さく頭を下げる。

「……また明日」

 白石はそう言って少し微笑んだ。そして少し離れてから、振り返り小さく手を振った。

 大地が慌てて振り返す。

「お、おう!」

 そのまま白石の姿が見えなくなるまで。

 少しだけ静かな空気。大地と二人で並んで歩く。大地が、そわそわと落ち着かない。

「紫音……」

「ん?」

「あのさ」

 言いかけては止まり、視線が泳ぐ。その様子を見ながら、俺は小さく息を吐く。

「今日お前、部活サボっただろ? キャプテンのくせにさぁ?」

 冷やかすように言う。

 大地が一瞬固まる。

「さ、さぼってねぇよ! たまたま休みだっつーの!」

 真っ赤な顔で何言ってんだか。揶揄うように俺は続けた。

「へー、昨日も休みだったのに?」

 大地がさらに言葉に詰まる。

 一瞬、視線が泳いだ後、

「……う、うるせぇ!」

 大地が照れ臭そうに、こっちを向き、次の瞬間、勢いよく抱きついてきた。

「うわっ!」

 思わぬ衝撃に、身体がよろける。

「今日はありがとう……紫音!」

 ぎゅっと力がこもる。

「やめろ……!わかったから!」

 手で大地の頭を剥がす。

「離れろって! 暑苦しいから!」

 それでもしばらく大地は抱きつくのをやめなかった。俺はあきらめて親友《だいち》をじっと見つめていた。

◇◇◇

 ようやく大地が離れた後、小さく呟く。

「……白石、やっぱ可愛いよな」

「白石、白石とうるせぇな」

「わかんねぇかな? ポニーテールのあのうなじ、控えめな唇、くぅー」

「……キモいな、お前」

 横目で呆れたように大地を見る。

「うるせぇ!」

 照れ臭そうに笑う大地。

「てか、紫音!」

 大地が顔をぐっと近づけてくる。

「いつの間に白石と仲良くなってたんだよ?」

「は? そんなの、たまたまだろ」

 呆れながら呟く。

 大地が肩を落とす。

「……はぁ、俺も購買行けばよかった」

「お前、声もかけれねーのに?」

 図星をつかれ、大地が一瞬固まる。

 顔が一気に赤くなる。

「うるせぇ!」

 そう言って、視線を逸らす。

「でも……ありがと、な」

 さっきより少しだけ、落ち着いた声。

「ああ」

 ため息混じりに返す。

「てか、きっかけ作ったんだから、頑張れよな」

 ぽん、と肩を叩く。

 大地が少し見開き、「おう」と小さく頷いた。

◇◇◇

 夕食を済ませて、風呂に入る。肩まで湯船に浸かった。じんわりと身体が温まっていく。

「ふぅ……」

 ふと、腕を動かすと

 チャプン……

「……ん?」

 視線の先を見ると、腕時計が湯船に浸かっている。

「……あ」

 慌ててすぐに引き上げる。

「やべっ」

 軽く振って水を払った後、少し疑問が生まれる。

「……アレ?外さなかったっけ?」

 じっと時計を見る。

「大丈夫か」

 針は普通に動いている。

(……防水か、これ)

「ま、いっか」

 気にせず、もう一度湯船に浸かった。

 目を閉じると、ふと、大地の顔が浮かぶ。

「……あいつ、ほんとわかりやすいな」

 自然と、口元が緩んだ。

◇◇◇

自室——

 風呂から上がり、部屋に戻る。ベッドに腰を下ろし、腕時計を見る。

 軽く時計を振るが、針は普通に動いている。

「大丈夫か……」

 そのままベッドに倒れ込む。

 コンコン。ノック音。

「紫音」

 じいちゃんの声。

「みかん、食うかの」

 ドアが開く。

「もう寝るからいらねぇ」

「まあまあ」

 勝手に入ってくる。

 手には、みかん。

「甘いみかんじゃぞ」

「いや、だから……」

 皮をむきながら、普通に横に座るじいちゃん。

「てか、ここで食うなよ!」

「はっは」

 笑いながら、みかんを口に運ぶ。

 じいちゃんがほんの一瞬だけ目を細め、こちらを見た。

 視線の先には腕時計。

「……あ、この時計さ」

 軽く腕を上げる。

「じいちゃんがくれたやつだったよな?」

「……ん?そうじゃったかなぁ」

 俺は話を続けた。

「さっき風呂入った時さ、外すの忘れてて」

 軽く笑う。

「これ、防水?」

 ほんのわずかに、空気が止まる。

「……どうじゃろうな」

 じいちゃんが、少しだけ視線を逸らす。

「……ん?」

 俺は眉をひそめる。

「どうしたんだ?じいちゃん」

「いや」

 何事もなかったように、みかんを口に運ぶ。

「そういえば、紫音」

「最近、身体の不調はないかの?」

「は?」

「別に、何もねぇけど」

 じいちゃんが、じっと見る。少しだけ長い視線で。俺は思わず視線を逸らした。

「じいちゃんこそ寒いし縁側とかにいすぎだろ!風邪ひくから気をつけろよな」

「はっは」

 軽く笑ってから、じいちゃんは立ち上がる。

「じゃあ、そろそろ寝るかのぅ」

「肌も荒れるしのぅ」

「てか、乙女かよ!」

「はっは」

 ドアへ向かう。

「おやすみ、紫音」

「おう、おやすみ」

 ドアが閉まり、部屋の中が静かになる。

 ベッドの脇にみかんの皮。

「……ったく、捨ててけよ!」

 小さく呟きながら、拾ってゴミ箱に捨てる。

 ベッドに腰を下ろし、軽く肩を回す。

「……ねむ」

 小さく呟く。なんか最近異様に眠い。

 そのまま、ベッドに倒れ込む。

 枕に顔を埋めて、そのまま目を閉じた。意識がゆっくりと沈み、眠りに落ちていった。

深夜――

 ふと、目が覚める。

「……ん」

 妙に静かだ……。音がない? いつもなら窓に当たる風の音がうるさいのに、今は家鳴りすらない。

 ふとベッド脇に置いた腕時計を見る。

「……っ!」

 秒針が……、逆回りに動いてる!?

「……は?」

 眉をひそめる。

 時計の音だけが妙にうるさい。

 カチ、カチ、と、まるで時間が戻るみたいに。

「なんだよ、これ……」

 コツ……

 廊下から小さな足音。

 誰かがこちらに向けて歩いてきている。

「……じいちゃん?」

 小さく呟く。

 でも、どこか、何かがおかしい。

 現実感が薄い。まるで夢の中みたいに。

 コツ、コツ……。

 ゆっくり、近づいてくる。

 足音が止まる。ドアの前で――。

「……」

 息をひそめる。

 カチャ……。

 ドアノブが、わずかに動き、ゆっくりと開く。

 暗闇の向こう。

 白い影。その手首に、銀の光。

 思考が追いつかない。

「夢……なのか?」

 暗闇の中、その銀だけが異様に鮮明だった。そのまま俺の意識がふっと途切れた――。

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