ヴァルミア王国へ向かう馬車は、フランキスの街道を南西へ進んでいた。 窓の外に広がる景色は、少しずつ変わっていく。 王都近郊の整えられた道を抜けると、緩やかな丘陵が続き、やがて遠くに青灰色の山並みが見え始めた。 あの山の向こうが、ヴァルミア。 ワイバーンの国。 ルシアは膝の上に開いた資料へ目を落とした。 昨夜から何度も読み返した記録だ。 ――山岳待機、七時間。 ――夜間気温、著しく低下。 ――翌朝、緊急出撃。 ――帰還後、右翼を下げ、飛行不能。 ――翼膜裂傷、治癒術にて閉鎖。 ――三日後、再発。 文字だけなら、ただの報告書だ。 けれど今のルシアには、その裏にあるものが気になって仕方がなかった。 冷えた岩場。 湿った風。 動けないまま待たされる体。 重い肉餌。 温まらない翼。 それでも命令で空へ上がるワイバーン。 まだ見てもいないのに、苦しみの輪郭だけが紙面の向こうで揺れている気がした。 「酔った?」 向かい側からマグダレナが声をかける。 白衣ではなく、今日は移動用の濃紺の外套を羽織っている。いつもの軍服めいた服装と相まって、医療施設長というより前線指揮官のようだった。 「いえ、大丈夫です」 「ならいいわ。顔が険しいから、資料に噛まれたのかと思った」 隣に座っていたノーマンが、記録板を抱えたまま真顔で頷いた。 「資料は噛みます。特に急ぎで集められた資料は、誤字と抜けで精神をガブリと……あ、施設長の視線が痛いのでここまでにしておきます」 「賢明ね」 「生存判断です」 ルシアは思わず目を瞬いた。 そのやり取りを見ていたアルベルトが、低く笑う。 今回はアルベルトも同行している。 フランキス第一王子として、同盟国ヴァルミアとの調整役を担うためだという。 「緊張しすぎなくていい。ヴァルミア側も、こちらを責めるために呼んだわけではない」 「はい」 「ただし、かなり焦ってはいるだろうね。山岳国にとって、ワイバーンは空の足だ。飛べない個体が増えれば、砦も村も孤立する」 ルシアは資料を閉じた。 「……ペガサスより、生活への影響が大きいのですか」 「地形によるわ」 マグダレナが答える。 「フランキスではペガサスもヒッポグリフもドレイクも使う。で
최신 업데이트 : 2026-07-28 더 보기