Todos los capítulos de ダメだし夫からさよならして冷酷社長に溺愛される人生を選びます: Capítulo 41 - Capítulo 50

50 Capítulos

第41話 困った話

沙織(さおり)は、午後はアイディアを練って終わった。 リノベーションといえる画期的なネタは、そうそう思いつかない。 今頃、ライバル会社の”ミライ”でも、瀬名(せな)大地を先頭に日本フレグランス・グランプリについて話し合いをしているだろう。 いつもとは違う脳を使っていたので、退勤したら憂鬱な話し合いがあるというのを、すっかり忘れていた。 ”沙織さんはイノベーション賞のほうですが? 俺は日本的フレグランス賞のほうになりました” 瀬名大地から、戸惑ったようなメッセージがくる。 ”沙織さんと、正面からイノベーション賞を取り合いたかったんですが” ”それは残念です。またなにかしらのコンテストがあったときは、戦いましょうね”そんなメッセージをやり取りしていると、塔矢(とうや)奏多(かなた)が顔を出した。 「ノーマン・ギゼルの専用香水を取りに、レイチェルとキャロルが今夜到着するようだ。時間が遅いから、明日、引き渡しになる」 「わかりました」 「……で、今日あゆかわ食堂にむかえばいいのか?」 「……うん」 社内では、なるべく敬語を心がけているが、実家の名前をだされた。 気持ちが、へこむ。 息子が娘に金をたかったと聞いたら、両親は取り乱すだろう。退勤すると、奏多の運転であゆかわ食堂に向かう。 車内の会話は、もっぱら日本フレグランス・グランプリについてだった。 今までは海外製品と張り合ってきたが、日本国内だけの戦いとなると負けられない。 ここで大量に受賞できれば、日本国内で一位というアドバンテージがとれるのだ。 「ミライの瀬名さんは、イノベーション賞には参加しないんだって」 「……そうか。じゃあ、よほどのことがない限り、イノベーション賞は沙織が授賞するな」 「まだ作品は出来てないから、焦らせないで」 苦笑する沙織は、瀬名大地の名前が出て、奏多の眉間に皺がよったことに気が付かなかった。駐車場に車を止めると、あゆかわ食堂の入り口に張り紙が張ってあることに気づく。 「本日、早めに閉めますのでご了承ください」 そっけない字は、父の字だ。 沙織と母との通話で、なにか感じ取ったのかもしれないし、沙織と話すだけなのかもしれない。 「ただいま」 「沙織、お帰りなさい!」 「奏多くん、いらっしゃい!」 ドアを開けると、にこにこした両親がいた。
last updateÚltima actualización : 2026-10-09
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第42話 順一郎と実家

「どういうことだ?」 「順一郎は、証券会社に勤めてるでしょ? 私に、お金をだせって……」 沙織(さおり)の父の表情が固くなる。 「でもどうして奏多(かなた)くんまで……」 きょどきょどと泳ぐ母の視線を、塔矢奏多は静かに受け止めた。 「沙織さんが電話に出られないで困っているところを私が代わりにでたところ、わたしにも投資しろと。言う通りにしないのは無知だと言い捨てて、切られました」 「なんてやつだ!!」 沙織の父の顔が、怒りに染まる。 母は、エプロンで自分の顔を覆った。   「そんなことをしてたなんて……」 「奏多くん、すまなかった……!! うちの愚息がとんだことを……!」 「それはいいんです。問題は……彼がまだ沙織さんのお金を目当てにしていることです」 「なんだって……!?」 父が立ち上がり、あやうくお茶をこぼしそうになる。 慌てて母が、湯呑を押さえた。 「沙織、おまえ、それで自分で稼いだお金を渡したのか……?」 「うん……」 「いくらだ?」 地を這うような父の声に、沙織は項垂れた。 「100万……でも、足らないって」 「あいつは!!」 沙織の父の顔が、また怒りで赤黒く染まる。 母は父の血圧を心配した。 沙織も、高血圧ぎみの父が心配だ。「母さん、うちの貯金から沙織に100万払いなさい。順一郎のやらかした責任を、沙織に負わせることはない」 「そ、そうね……」 ぎくしゃくと、母が笑う。 「お母さん……今回のことは、しつこい電話に負けた私が悪いから、気にしないで。それより、お母さんこそ大丈夫……?」 「どういう意味だ?」 父の目が、母に止まる。 母は、明らかに顔色が悪かった。 「奏多くんが帰ってからお父さんと話すわ。……家族の話だし……」 しどろもどろの母の様子に、父は深くため息をついた。 態度で、母が順一郎にお金を渡したことを察したらしい。「沙織、順一郎のことは親としてこっちがどうにかする。おまえはもう、順一郎と関わるな。重要な要件はこっちから伝えるから、電話はブロックしていい」 冷めたお茶を飲んで、父が結論を述べた。 怒りを通り越して、父の顔色は青白くなってきた。 屁理屈をのべて、言うことを聞かないくせに他責主義の順一郎のことは、家族でも知られている。 沙織には、もう関わるなと言ってきたことで
last updateÚltima actualización : 2026-10-12
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第43話 レイチェルの来日

”花火大会に行きませんか?”そういう瀬名(せな)大地の誘いに、沙織(さおり)は「いいね」と返した。大地になら、色々話せそうだ。知加子と朝霧(あさぎり)司(つかさ)との文芸サークルの話は、途中で止まっている。弁護士で忙しい司のスケジュールが、なかなか合わない。最後にあった水族館以来、少しだけぎくしゃくしている。しかも、コンテストの関係で沙織のスケジュールもぎっしりだ。「はあ、疲れた……」沙織は、自室でため息をつく。これで、弟の順一郎のことを考えなくて済む。明日は、レイチェルとキャロルが香水を取りに来る日だ。受け取ったノーマン・ギゼルの反応がいいといいのだが。もし、違うと言われた場合のパターンも考えてはいる。沙織の思考は、イノベーション賞のことに移っていった。「うーん……だめだ。お風呂入って寝よう……」実家からタッパーで渡されたおかずを冷蔵庫にしまうと、沙織は風呂場に向かった。****沙織は、奏多(かなた)と出勤するとそのまま社長室に呼ばれた。秘書がコーヒーを用意している間、沙織は出来上がったオーダーメイド香水をテーブルに置く。ボトルのデザインは、デザイナーと相談して決めたシンプルなものだ。現在発売されている、ノーマン・ギゼルの役である”ブラック・ルール”のエドワード香水は、かなり装飾華美なので逆を狙ったものだ。持ち歩きしやすく、こぼれにくいことが優先で、ノーマン・ギゼルの青い瞳に合わせた空色のボトルだ。「お客様をおとうしします」秘書が、ドアをあけて深々と礼をする。高いブランドスーツを見事に着こなした奏多も、腰をあげた。「失礼します、ミスタートウヤ」『へえ、けっこういいビルじゃない』秘書然としたスーツのキャロルと、モデルらしい露出の多いレイチェルが入ってくる。奏多の秘書が、英語で好みのコーヒー
last updateÚltima actualización : 2026-10-14
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第44話 親友

「イノベーション賞……どうしようかな」締め切りは、二か月ほど。新しいタイプの香水を考えるのは好きだが、沙織(さおり)ひとりの手に塔矢(とうや)フレグランスがイノベーション賞をとれるかどうかがかかっている。他の調香師たちは、和の香水についてそれぞれ打ち合わせているが、沙織だけ別作業だ。”いま、沙織の会社の近くまで来てるんだ~”知加子からのメッセージに、沙織は慌てて返事を打った。知加子も、香水が好きだ。差し障りのない範囲で、なにか意見を聞いてみたい。”これからお昼休憩なんだけど、ちょっと会えない?””沙織がいいならいいよー”沙織は、前に朝霧司とランチした店のURLを送ると、調香ルームのチーフに声をかけた。「ちょっとランチに行ってきます。知り合いにあって、少し新作のアイディアも練ってきます」「ああ、イノベーション賞は大変だからね。お昼休憩が終わっても、もしリフレッシュできるなら急いで戻らなくてもいいよ」眼鏡のチーフは、沙織にそう請け合ってくれた。これなら、スマホで時間を睨みながら急いで話すこともない。言葉に甘えて、沙織は白衣を置いて外に出た。待ち合わせのコーヒーショップに行くと、知加子がひらひらと手を振った。最後に会ったときは、まだ高山隼人(はやと)の妻だった。離婚してから会うのは、今日が初めてだ。「久しぶり……! ああよかった、沙織が元気そうで」「知加子も……。少し……痩せた?」知加子の開けっ広げな喜びに、沙織は涙をこらえる。もっと早く会えばよかった。食事をしながら、三か月の空白を埋めるように語り合う。隼人から離婚を突きつけられた話、奏多に助けられた話、義母や愛人が乗り込んできた話。知加子も泣きそうになりながら、沙織の話を聞いてくれた。電話では、同じ話をしていたのだが、
last updateÚltima actualización : 2026-10-16
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第45話 花火大会

「いやぁ、素敵ですね。似合ってます」瀬名(せな)大地は、沙織(さおり)を見るなりベタ褒めした。今日は休日で、花火を見る約束をしている。二日前に、大地から浴衣一式が届き、良かったらときつけの予約までされていたのだ。明るい色の椿の柄は、色の白い沙織の顔を引き立てていた。「椿の花言葉がよく似合います」にこりと、そんなことを言う。椿の柄の意味は、発展、永遠の美を現すと沙織が知るのは、その後のことになる。「なんか、浴衣や着付けまで色々ありがとう……」「いえいえ、見たいのは俺だったんで、勝手に手配までしちゃって」着付けの際に、髪の毛も綺麗にまとめてもらっている。和風の可愛いかんざしが、椿の色とリンクしていた。それを、一歩引いた位置から大地はしみじみと眺めている。どこか恥ずかしくて、沙織はそっとうなじに手を触れた。「俺はこれで和の香水のイメージがむくむくと沸いてきましたよ」「瀬名さんなら、絶対イノベーション賞のほうだと思ってたんですけど」花火開始まで、あと2時間ほどある。沙織は、大地に誘われるままオープンテラスのビアガーデンに入った。夏の終わりの夜風が吹くテラスで、二人は揃ってクラフトビールを頼んだ。珍しく、おとうしが二種あって、里芋の煮っ転がしときんぴらが出される。フルーティーなビールを口に運ぶと、ラガーとは違う味が口の中に広がった。「イノベーション賞、正直俺も絶対そっちだと思ってたんですよ」里芋をほうばって、大地はクラフトビールのグラスを空にした。「でも、上から日本的香水のほうに指示されちゃいまして。イノベーション賞のほうは、新人たちに任せろってね。俺は沙織さんがイノベーション賞に選ばれたのを直接聞きましたけど、社長も別ルートでそれ知ってね。だったら、確実に日本的香水に俺を任せるって」「え……誰からもれたんでしょう……」ラガーより飲みやすい飲み口のクラフトビールを、沙織は半分開けた。
last updateÚltima actualización : 2026-10-19
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第46話 情報の流出

心配していたオリジナル香水は、ノーマン・ギゼルから「大変気に入った」という返事が返ってきた。これで、心置きなく日本フレグランス・グランプリに集中できる。沙織(さおり)は、一本で朝につけるほのかな香水、ミドルが強い中央香水、振ることで夜用に変わる香水の試作に明け暮れていた。デザイン部とも相談して、上下に真ん中と混ざるボトルも頼んだ。「チュベローズは甘すぎるよね……うーん、やっぱり系統としてはユニセックスかな……」メイン香水と、朝夜香水のそれぞれで完成する香りを楽しく考えていると、他の調香師たちもおのおの自分の調香を始めている。ゴールデンノーズとして世界的に有名な沙織に負けないよう、自分の名前が入った香水作りの熱気が漂っていた。****「参ったな……」奏多(かなた)が太いため息をついた。沙織以外の全員のスマートフォンを、調べた。しかし、園村(そのむら)エリカと連絡を取っている人物はわからなかった。情報漏れということでスマホをチェックしたが、その場でデータがなかったらどうにもできない。奏多が行ったのは、次の事柄だ。会議資料の閲覧履歴を確認。社内共有フォルダのアクセスログを確認。社内メール・業務チャットの送受信記録を、会社の規程に基づいて確認。機密資料を誰がダウンロード・コピー・印刷したか確認。USBメモリや外部ストレージへのコピー履歴を確認。会議資料を誰が誰に渡したか聞き取り。園村エリカの直属上司・同僚・関係部署への事情聴取。ライバル会社側に流出した情報と、社内でアクセスできた人物を照合。以下の作業を秘書と一緒に行ったが、何の情報も得られなかった。園村エリカは、以前のやらかしは社内に知られており、事務がたの人間も要件以外で話しかけない。ぽつんと一人行動をしていて、誰かと接触する気配はなかった。会社で出来ることは、もうない。不正なアクセスなどは何もなかった。
last updateÚltima actualización : 2026-10-21
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第47話 癒し

「ちょっと、頭を撫でてもらっていいか?」 塔矢(とうや)奏多(かなた)が帰宅する前に、沙織(さおり)は夕飯を作り終えていた。 傷ついた本音を隠し、なんでもないように装う。 それは、高山(たかやま)隼人(はやと)と結婚していたときには、よくあることだった。 そうやってなんでもない顔していた沙織に、帰宅するなり塔矢奏多がいきなり切り出した言葉。 沙織は、きょとんとして奏多の長身を見上げた。180センチ越えの奏多の頭は、普通にしていれば手が届かない。 奏多は高級スーツを脱ぎもせずに、ソファーにごろりと転がる。 そうして、子供のように手招きした。 先ほど順一郎から傷つけられたささくれが、初めてみる奏多の甘えモードに癒された。 ソファーに沙織が座ると、奏多の頭が膝にのる。 「……疲れた。園村エリカの件は長引きそうだ」 「お疲れ様」 そっと奏多の髪に触れると、黒髪を撫でる。 奏多は心地よさそうに、目を閉じた。 「沙織のお陰だな。知らないままだったら、今後のデータも危ういところだ」 しゃくだが、瀬名にも感謝だ――と奏多の低くて甘い声がこぼす。 相当に疲れているらしい。「沙織も疲れてるんだろう?」 「え?」 「表情が固い。なにか隠している顔だ」 沙織に膝枕されながら、奏多が沙織の髪に触れる。 奏多は、弟の順一郎のことを知っている。なにしろ実家までついてきてくれたのだ。 「順一郎が新しい番号でかけてきてね……」 「なに?」 「私の考えが浅いから、あることないこと両親に吹き込んだんだとか、離婚しただけで親に迷惑かけてるのに、また実家に迷惑をかけるのか……って」 「あいつは、真生のバカみたいだな。どっちが親に迷惑をかけてるんだ? 姉と母親から何百万も持って行って、自分は迷惑をかけてないと?」 奏多のため息が、沙織の手に触れた。 「新しい番号はブロックしたか?」 「うん……」 「何億持ってるかも、話してないな?」 「うん、それはお母さんたちにも話してないし」 「じゃあ、転送機能をつけて、俺のほうにかかるようにしよう」 奏多の言葉に、沙織は撫でる手を止めた。 ただでさえ、奏多は今疲れている。 そこに、沙織の個人的な重しまで乗せられない。 「ダメだよ、奏多はただでさえ疲れてるのに、会社のことでもないことで迷惑かけられないよ
last updateÚltima actualización : 2026-10-23
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第48話 ドレスの悩み

日本フレグランス・グランプリの前には、塔矢(とうや)奏多(かなた)の誕生日パーティーがある。沙織(さおり)は、そろそろ自分の衣装をどうにかしようと思い始めていた。パーティーはそのへんのお店でやるのではなく、豪華客船で海にクルーズしながらの立食パーティーだという。招かれているのは、いずれも大企業の社長やCEO、その妻子。あとは、付き合いのある企業と奏多の友人であって、沙織の場違い感が凄い。沙織も、奏多の”友人”枠だろうから、派手すぎず地味過ぎない恰好にしなくては。短い休憩時間、パソコンでブランド店のホームページを覗く。沙織が探す、しっかりしていて派手すぎないが地味すぎないというのはなかなか難しい。知加子(ちかこ)の結婚式に着て出たカクテルドレスにしようか……。帰ったら袖を通してみよう、と決めたところで、ドレスは高山隼人(はやと)の家に置き去りなことを思い出した。身一つで出ていけ、と言われてなにもかもを置いて来た。部屋着や私服は、しっかり高級なものを奏多がプレゼントしてくれたが、奏多の誕生日に助けてもらうわけにはいかない。あまり日がないが、知加子を誘って服を身にいこうか。なんだかんだ言って、奏多は家賃を受け取ってくれないため、昇級した沙織の今の給料ではそれなりのものが買えるはずだ。知加子に連絡を入れながら、沙織はパソコンを閉じた。これから、また気合をいれて調香だ。絶対に、成功してみせる。****「ねえ、今日は情報ないの?」園村(そのむら)エリカは、シャワーを浴びてバスローブを着ると、男に寄りかかる。「ないね、今は社長が一人で仕事してるから、会議以来新しい情報は入ってこないな」男――塔矢フレグランスの重役は、するりとエリカの胸元の手をさしこむ。「それより、もう一回――」「帰らなくていいの? 奥さんが気にしてるって言ってたくせに」「そういや、そうだったな」残念そうに手を引っ込めた男は、財布から数
last updateÚltima actualización : 2026-10-26
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第49話 ドレスの悩み②

塔矢(とうや)奏多(かなた)は、鳴った電話に素早く出た。転送されてきた番号は、沙織(さおり)の弟の鮎川順一郎のものだ。沙織との夕食は済み、沙織は自室に戻っている。奏多は、飲みかけのブランデーを置くと電話を聞く。「姉さんだろ! お父さんたちに言ったことを撤回してよ! 母さんが預けた300万もかえせって言われて困ってるんだ。不足分はいったん姉さんに補填してもらって、次の資金をくれればうまいこと当てるからさ。物分かりがわるい姉さんでも、そのくらいはわかるだろ」奏多は、顔をしかめた。順一郎の物言いは、いつも上から目線で沙織を悪くいう。自分はあくまで善意の理解者のごとく振るまい、自分がしでかした損失については棚上げだ。鮎川(あゆかわ)家の両親はしっかりしているのに、どこで踏み間違ってこうなったのだろう。あえて返事をしない奏多は、サブのスマートフォンで順一郎の罵声を録音した。いつ、何に役にたつかわからないが、なにかに使えるかもしれない。沙織の身の安全をとるためには、何事も慎重なほうがいい。「こちらは、塔矢奏多だ。君の電話を沙織につなげる気はない。二度と電話をかけてこないで欲しい」「――また塔矢さんですか。これはきょうだいの電話ですよ、赤の他人のあなたがでしゃばってくる意味がわかりません。姉さんをだしてください」順一郎の声は、一転してさぐるようなものになった。やはり、奏多が想像した通り、強い言葉は女性に向けられても男には弱い気がする。ましてや、世間的には奏多が成功者で、順一郎は実家と姉にたかっている状態だ。「訴えますよ」「ほう? やりたいならどうぞ。こちらも反撃はする」果たして弁護士代は払えるのか、と問うと電話はいきなり切れた。「やれやれ……」沙織の周囲は、なかなか平穏にならない。しかし、こうして電話を転送したことで、守れるものがある。優しい沙織の心に、いらない傷を負わせなくて本当に良かった。奏多は、このうざったい電話がきたことを、沙織にばか正直に伝え
last updateÚltima actualización : 2026-10-28
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第50話 20万のワンピース

「はぁ……疲れた」「お疲れ様です、少し休憩しませんか?」「でも、もうすぐ店が閉まるから……」沙織(さおり)と、朝霧(あさぎり)司(つかさ)は、ジャネルの店からくたくたになって出てきた。ルイ・ボトンのあと、ジャネルとはしごして、未だこれだという服に巡り合えていない。沙織は、見ているだけの司が飽きないかどうか、心配だった。休憩なしで、ブラダの店に入るとどことなく閉店の準備をしているように感じる。「すみません、時間ぎりぎりに入ってきて……! 今日以外に時間がとれなくて」「お客様がいらっしゃる限り、営業時間ですよ。なにをお探しですか?」平身低頭する沙織に、店員が明るく笑う。にぎやかしだと思われなくて良かった。バッグだけは奏多にプレゼントされたブランドだが、沙織の今日の服はブランドものではない。それでも、横できっちり高級品を纏っている司がいることで、しっかり接客されている気がする。希望の金額のものを店員が探し始めたが、沙織は時計をちらちらと確認する。ここでダメだったら、香水巡りをする時間を削らないとダメだ。香水めぐりは、なかなかハードなのだ。貰ったムエットを入れるビニールふくろ。中身がわかるように油性ペン。肌に置いた香水を拭きとるアルコール除菌シート。ムエットを束ねる入れ物。鼻休めのコーヒー豆。あれこれと、バッグがかさばるし、腕を出しやすい服でなるべく香りが映らない服装になる。「では、こちらでご試着を」沙織は、クリームベージュのものを避けた。コンテストと誕生日パーティーなら問題ないかもしれないが、万が一誰かに結婚式に呼ばれたときに使いにくい。残ったのは、黒のワンピースだ。天下のブラダでは20万でドレスは買えない。しかし、この先に使うにもドレッシーなワンピースのほうが使いやすいだろう。シンプルだと思った服は、袖を通すとやはり華やかだった。10億の財産はあま
last updateÚltima actualización : 2026-10-30
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