”姉さん、ちょっと”奏多と朝食をとったあと、出勤の服に着替えている沙織にメッセージが届いた。メッセージの相手は、沙織の弟の順一郎だった。「どうしたの?」沙織が順一郎に電話をかけると、不機嫌な声が聞こえる。「昨日、母さんに聞いてびっくりしたよ。家に警察がきたんだって? しかも、姉さんの元夫だっていうじゃないか。何を考えてるんだよ!」「――ごめんなさい」隼人が犯したことを責められて、咄嗟に沙織は謝った。「でも、本当にあんなことをするなんて……」「そういうことをするやつと、結婚したのは姉さんだろ。実家をトラブルにまきこむなんて何を考えてるだ。姉さんは昔からそういうとこが――」くどくどと文句を言う順一郎に、沙織は話を聞きながら俯いた。昔から仲のいい姉弟ではなかった。証券会社の営業をしている弟は、結婚して子供もいる。順一郎の妻とも、相性が悪かったために、沙織は離婚の話も順一郎に軽く説明しただけだ。 「――ところで、大金があるんだって?」順一郎の口調が、つと変わった。舌なめずりするような、甘えた声に沙織は頭を抑えた。母には、何度も順一郎には話さないように言ってあったというのに、話してしまったらしい。元から、母は順一郎に甘くて、証券会社のノルマに名義を貸している。昔からお金にだらしない順一郎を信じていない沙織は、両親に話さないように念押ししていた。それでも、息子可愛さがあって話したのだろう。「百万でいいんだ、今月のノルマ厳しくてさぁ。助けてよ」「あのお金に、手を出す気はないの」「あのさあ? なにか勘違いしてない? 実家に迷惑をかけてさあ、弟が困ってるっていうのに自分だけ贅沢しようって、家族としてどうかしてるよね? 姉さんはその辺の自覚がないの?」コンコン、と玄関のドアを叩く音がする。電話が繋がらない沙織に、出勤時間になっても顔を出さないのを不思議に思った奏多が迎えにきたのだ。「ごめん、もう仕事にいかないと」「何回でも電話するからな。姉弟なんだから、助け合わないと」通話を切る最後まで、順一郎
Last Updated : 2026-08-24 Read more