私は冥界で300年、せっせと働き続けた。徳を積み、「人間への転生チケット」を手に入れたと思った、その矢先――酒に酔った閻魔様が盛大にやらかした。転生先を間違えられた結果、私はまさかの畜生道送り。気づけば、財閥一家でぬくぬく暮らす、まるまる太った茶トラ猫になっていた。名前は茶々丸(ちゃちゃまる)。さすがに閻魔様も後ろめたかったのか、お詫びとして百年分の寿命を上乗せし、さらに「赤ちゃんの心の声が聞こえる能力」までサービスしてくれた。ここまで来たら文句を言っても仕方ない。猫なら猫で、全力で満喫してやろうじゃないか。そんなわけで私は、米沢家の一人娘・米沢美月(よねざわ みづき)と一緒に育ち、気づけば十数年が経った。毎日ご飯は出てくるし、昼寝はし放題。完全に勝ち組猫ライフである。今では美月は私の「終身スポンサー」。そして彼女もまた、私を家族同然に可愛がってくれていた。――そして今日。美月が無事に女の子を出産し、私はVIP分娩室の前で、海外から取り寄せた高級フリーズドライのおやつを夢中でかじっていた、その時だった。頭の中に、赤ちゃんのふにゃふにゃした声が飛び込んでくる。(やだぁ……連れて行かないで……パパが私を隠し子と入れ替えようとしてるの……!施設なんて嫌!ママと一緒にいたいよぉ……!)私は思わず咀嚼を止めた。すると間髪入れず、もう一人の赤ちゃんの声が響く。(フン、私が本物のお嬢様になったら、あの女も、あのデブ猫も真っ先に毒殺してやるんだから!)その瞬間、私はぴたりと食べるのをやめた。全身の毛が一気に逆立つ。(にゃんだと?私が目をかけて育ててきた美月お嬢様に手を出そうなんて、百年早いよ!トラの尾を踏んだらどうなるのか、今日こそ思い知らせてやる!)私は後ろ足に力を込めると、放たれた矢の勢いで分娩室へ突っ込んだ。――ドンッ!VIP分娩室のドアが勢いよく開き放たれる。床へ軽やかに着地すると、私は喉の奥で低くゴロゴロと唸りながら、部屋中をぐるりと見回した。病床にもたれているのは、私が12年間ずっと見守り続けてきた米沢家の令嬢――美月。出産を終えたばかりで顔色は青白く、苦しそうに浅い息を繰り返している。その傍らには、入り婿の夫・米沢陽介(よねざわ ようすけ)。腕の中に、生まれ
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