修学旅行から帰った翌日。 向日葵は朝から落ち着かなかった。 部屋の床にはお土産袋が並んでいる。 「毬おばあちゃん用」 小さく書かれた袋を持ち上げる。 中には鹿児島で買った和菓子が入っていた。 『それだけか?』 頭の中から玄太郎の声が響く。 「十分でしょ」 『そうは思わん』 「出た」 向日葵はため息をつく。 『毬は和菓子が好きだ』 『羊羮も好きだ』 『饅頭も好きだ』 『最中も好きだ』 「全部好きなだけじゃん」 『うむ』 全く悪びれない。 向日葵は呆れている。 「これ以上買ったらお小遣い無くなるよ」 『むう』 不満そうな感情が流れ込んでくる。 まるで駄々をこねる子供だった。 「それに九州の写真も見せるし」 『おお』 今度は一気に機嫌が良くなる。 『桜島も見せろよ』 『知覧もだ』 『あの青い海も見せたい』 向日葵は少しだけ表情を曇らせた。 知覧。 その名前を思い出すだけで胸が痛くなる。 だが玄太郎の感情は以前とは違っていた。 悲しみだけではない。 何かを受け入れた後の静けさがあった。 『毬は驚くだろうな』 「そうかな」 『毬が見られなかった景色だ』 その言葉に向日葵は何も言えなくなる。 玄太郎がずっと見せたかった景色も、会いたかった人も、全て止まったまま。 だからこそ今は、スマホの中の写真一枚一枚が宝物だった。 昼過ぎ。 向日葵は電車に乗り本家へ向かった。 窓の外には初夏の景色が流れていく。 『変わったな』 玄太郎が呟く。 『変わらぬものもある』 「なに?」 少し沈黙した後、 『毬だ』 向日葵は笑った。 「はいはい」 『本当だ』 照れもなく返ってくる。 向日葵は窓に映る自分の顔を見ながら思った。 八十年も同じ人を好きでいられるものなのだろうか。 自分にはまだ分からない、が羨ましいとは思った。 本家に着くと玄関の戸が開いた。 「向日葵ちゃん!」 毬おばあちゃんだった。 顔を見るなり嬉しそうに笑う。 「おかえり」 向日葵は少し照れながら答えた。 「ただいま」このたった一言だが、 玄太郎の感情が大きく揺れた。 まるで長い旅から帰ってきた人のように。 『毬……』 懐かしい声がそして愛しさ。 玄太郎の毬への想い、いや想いだけではない。 様々な
Last Updated : 2026-07-21 Read more