私・江角美緒(えすみ みお)の6歳の誕生日に、母の江角悦子(えすみ えつこ)が心の病だと診断された。前触れは何もなく、原因もわからなかった。その時に、主治医であり、母の友人でもある里中莉乃(さとなか りの)先生から、父の江角宗一(えすみ そういち)と兄の江角寛太(えすみ かんた)に、こう伝えた。「とにかく、できるだけ、逆なでしないようにしてあげて」その一言で、すべてが変わった。振り返れば、あのときから私の人生は終わっていたのかもしれない。……頭に、割れるような痛みが走る。目の前で、母の歪んだ顔が揺れている。「このクソ娘!またそんなスカートを!」母は発作のたびに、決まって私を「クソ娘」だの「役立たず」だのと呼んだ。実の娘に向ける目とは思えなかった。血のついた髪の束が、母の激しい動きに合わせて、ぱらぱらと床に落ちていく。「なんでわざわざスカートなんか履いて、母さんを怒らせるんだ!」兄の怒鳴り声が、鼓膜を刺す。言い返す間もなかった。ガッ——。鈍い衝撃が後頭部に走り、生温かいものが首筋を伝った。体がよろけて、床に崩れ落ちる。金属の置物が転がる音が、遠くで聞こえた。父が上着を放り投げ、母のところへ駆け寄る。その顔は強張り、声は裏返っていた。「悦子!」父の目には、床に崩れた私の姿も、頭から流れる血も映っていなかった。ただ、潤んだ母の目だけがそこにあった。母は震える指で私を指すと、さっきまでの形相を消し、痛々しい表情を浮かべた。「わざとじゃないの……さっきは、ちょっと抑えられなかっただけ」そう言って顔を覆い、すすり泣きを始める。父は不憫そうに母を抱き寄せた。それから、こちらを見もせずに何度か足で私を押しのけると、甘い声で囁く。「よしよし。お前のせいじゃない。悪いのは美緒だ。いい子だから、もう泣くな」父は母をなだめながら、私を何度も蹴った。その声も、痛みも、まとめて体に叩きつけられる。痛みには、もう慣れてしまっていた。それでも、目の前がときどき暗くなる。壁に爪を立て、なんとか体を起こそうとした。けれど爪が割れて、また床に崩れ落ちた。「父さん……兄さん……」喉の奥から、潰れた声を絞り出した。二人には、届いていない。兄はわざと私の手を踏み越え、母のそばで慰めの言葉を並べている
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