結婚式が始まるまで、あと10分。私、神谷寧々(かみや ねね)のスマホに、思わず目を背けたくなるような写真が届いた。写真には、目が落ちくぼみ、骨と皮ばかりに痩せこけた女が、犬のように床に這いつくばっていた。その女を、婚約者の黒川直人(くろかわ なおと)が冷たく見下ろしていた。その顔には、露骨な嫌悪が浮かんでいた。悪質ないたずらだと思い、その番号をブロックしようとしたところへ、続けて二通のメッセージが届いた。【結婚式から逃げて。今すぐここを出て、絶対に黒川直人と結婚しないで!】【写真の女は、10年後のあなたよ!】一瞬、胸がざわめいた。けれど、すぐに我に返り、画面を見て鼻で笑った。もうすぐ式が始まるというのに、誰がこんな子どもじみた真似をしているのだろう。私は短く打ち返した。【合成が下手すぎるんだけど。あなた、いったい誰?】すぐに返信が届いた。【私はあなたよ】【信じられない?今、直人が着ているスーツの左胸の内ポケットに、清香からもらった飾りのない指輪が入ってる。胸に触れる位置よ】【それから、清香のブライズメイドドレスのファスナーが壊れて、直人が更衣室で自分の手で縫ってあげた】【右手の親指と人差し指の間には、針で刺したばかりの跡が残ってる】カチャリ。控室のドアが開いた。オーダーメイドの白いタキシードを着た直人が入ってきた。端正で涼しげな顔立ちに、金縁の眼鏡。知的で穏やかなその姿は、誰が見ても誠実で愛情深い男に映っただろう。「寧々、準備できた?」直人は優しく目を細め、私のもとへ歩いてきた。私は何も言わずに立ち上がり、両腕を広げて彼に抱きついた。直人は一瞬戸惑ったが、すぐに小さく笑い、私の背中へ腕を回した。「もうすぐ俺の妻になるのに、まだそんなに甘えたいの?」私は彼の左胸に頬を寄せた。薄い生地越しに、硬い輪の感触がはっきり伝わってきた。内ポケットの中だ。指輪の形だった。それだけではなかった。襟元から、かすかに香水が匂った。森川清香(もりかわ さやか)がいつも愛用している香りだった。私は勢いよく彼を突き放し、その右手をつかんだ。親指と人差し指の間には、赤い点がくっきりと残っている。本当に、針で刺したばかりの跡だった。全身の血が、一
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