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第3話

Auteur: 白凪
私が従うと、直人は鼻で笑った。

「最初からそうやって素直にしていれば、怒鳴られずに済んだのにな」

清香はすぐに、履いていた古いハイヒールを脱ぎ、私の足元へ蹴り寄せた。

「寧々、悪いけど私のを履いて。少し靴ずれするかもしれないけど、裸足で出るよりはましでしょう?」

私は床に転がった、表面の剥げた古い靴を黙って見下ろした。

甲の部分には、目立つ傷までついている。

すべては反撃を成功させるためだ。

今は耐えるしかない。

私は吐き気をこらえながら、ひと回り大きいその靴に足を入れ、立ち上がった。

靴底は硬く、足の裏に食い込んで痛かった。

直人は満足そうにスーツを整えた。

「行くぞ、花嫁さん」

控室を出ると、会場へ続く長い廊下が伸びていた。

直人は前を歩きながら、鳴った電話に出た。

私が完全に屈したと思ったのか、私に聞かれることすら気にしていなかった。

「ああ、国税局のほうは話をつけたか?

あとで大型スクリーンに映像が流れたら、同時に告発状を送れ。

明日の取引開始と同時に、神谷グループの株を一斉に空売りしろ」

すぐ後ろにいた私には、その内容が一言一句はっきり聞こえた。

神谷家は、都内財界でも指折りの資産家だ。

事業は全国に広がっている。

黒川家は数年前に破産している。直人が神谷グループに入れたのも、私との縁があったからだ。

父は彼を実の息子同然にかわいがり、目をかけてきた。

取締役会で立場を築けるようにと、父は会社の中核事業まで任せていた。

今の直人の暮らしは、何から何まで神谷家の金で成り立っていた。

それなのに陰では外部の人間と手を組み、会社を潰し、父の命まで奪おうとしていた。

電話を終えると、直人はスタッフに呼ばれ、進行の最終確認へ向かった。

廊下には、私と清香だけが残された。

直人の姿が見えなくなった途端、清香はもう取り繕おうともしなかった。

腕を組み、勝ち誇った顔で私を見た。

「寧々、全部分かったところで何になるの?

結局あなたは、私のぼろ靴を履いて、おとなしく直人と結婚するしかないでしょう?

直人はもう、あなたのことなんて見るだけでうんざりしてる。あなたはただの、利用されてることにも気づかない金持ちのお嬢様よ」

勝ち誇った浮気相手の顔を前に、私は込み上げる怒りを必死に抑えた。

冷たい目で清香を見返す。

「利用される金持ちのほうが、人の残り物にすがる女よりはましよ。直人があなたを愛してる?冗談でしょう。神谷家の金をまだ奪いきってないから、都合よくそばに置かれてるだけよ」

図星を突かれた清香の顔が、一瞬で険しくなった。

「強がらないで!今日が終われば、神谷家は完全に潰れる。そのときも、同じように偉そうにしていられるかしら?直人が言ってたわ。そうなったら、あなたを地下室に閉じ込めて、犬みたいに飼うって」

清香は一歩近づき、わざと声を落とした。

「あなたの骨髄、弟にちょうど合うの。役立たずのあなたにも、使い道くらいはあったみたいね。そのうち、何か食べさせてって、私の足元で泣いてすがることになるわ」

そんな非道なことを平然と言う清香に、怒りを通り越して笑いが込み上げた。

「そう。じゃあ、どうなるか見ていましょう」

私は背を向け、それ以上は相手にしなかった。

手の中で、スマホが激しく震え続けている。

10年後の私からだった。

【聞いたでしょう?これがあの二人の本性よ】

【早く会場の管理画面にログインして!もう時間がない!】

【あのとき父さんは、この結婚式で流された偽の証拠を見て心臓発作を起こし、その場で亡くなった】

【今日こそ、この恨みを晴らして!】

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