俺の言葉に、菜々はキッと顔を上げた。「は?聞いてなかったの?形だけって言ったじゃん!」床の破れた紙切れを見下ろしながら、おかしくてたまらなかった。涙が出そうなくらいおかしかった。菜々は黙る俺を見て、言いすぎたと思ったのか、少し声を落とした。「全部が片付いたら、籍を戻せばいいじゃない」彼女の口調は平淡で軽く、まるで天気の話でもしているみたいに。言い返す気にはなれなかった。無駄だ。小さい頃から、俺たちが何か揉めるたびに、結局はいつも私が菜々の考えに合わせなければならなかった。俺が黙っているのを見て、それを認めたのだと思ったのか、菜々はため息をついて、俺の手を引いた。そして自分の腹に押し当てる。中の命を感じろとでも言いたげに。「この子はこれから、孝志の子でもあるよ。私のことなら、なんでも受け入れるって約束したでしょ。今さら、その言葉をなかったことにするつもりなの?」俺は呆然と彼女を見つめた。菜々の言葉に、俺の心は深淵へと沈み、絶望とつらさに包まれた。菜々は左手の薬指から指輪を外し、俺の手に握らせた。「明日、修平と籍入れるから。これ、外さないと」掌の上の指輪を見つめる。俺がデザインしたものだ。あの頃、俺はどれだけの思いで作ったのだろうか……今となっては、ただただ皮肉に思えた。立ち上がって上着を手に取ると、菜々が呼び止めた。「こんな時間に、どこ行くの」俺は答えずに、ドアのほうへ足を向けた。「離婚するんだろ。お前が別の男と結婚する。同じ家にいるのは、さすがに無理だ」菜々の声が尖った。「あなたとの離婚は形だけのものと言ったでしょ?何言ってるかわかってるの?!そんなに離婚したいわけ?」彼女はイライラして部屋の中を歩き回り、自分の指を噛んでいた。俺はただ黙ってそれを見ていた。菜々は昔から不安症で、日常の細かいことから大きな決断まで、俺は決して彼女と言い争うことはせず、いつも彼女に合わせてきた。自分が我慢すればいい。損しても構わなかった。好きな相手に、そんなことで張り合ってどうする?好きだからこそ、譲るのが当然だと思ってた。でも、今回は違った。「俺が離婚したいんじゃない。お前がしたいんだ。俺がお前のその決断を尊重するよ」菜々の声がさらに荒くなる。「形だけの離婚だって何度も言ったで
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