Todos os capítulos de 社員旅行を潰した新人が泣いた日: Capítulo 1 - Capítulo 10

10 Capítulos

第1話

俺がこの会社を立ち上げてから、今年で6年目になる。最初の3年は、4人で狭い賃貸マンションの一室を借り、がむしゃらに働いて、ようやく会社を軌道に乗せた。その頃、俺はひとつだけ、絶対に変えないルールを決めた。「毎年、会社の純利益の50%を社員の福利厚生に回す」無料のフルーツやお菓子を用意する程度の、形だけの福利厚生じゃない。社員がちゃんと実感できる形で還元する。去年の秋の連休には、全社員に24万円の特別手当を出し、さらに3日間の有給休暇もつけた。一昨年は社員旅行でニュージーランドへ行き、スカイダイビングも楽しんだ。1人あたり86万円かかった旅費も、全部会社持ちだった。創業当初からついてきてくれた古参社員ともなると、年間の手当や福利厚生だけで、年収を上回るほどになる。その分、社員も仕事でしっかり応えてくれた。社内の雰囲気はよく、業績は毎年倍増。離職率も、同業他社に羨まれるほど低い。だから今年のゴールデンウィークはさらに奮発し、モルディブ7日間、水上ヴィラ付きの社員旅行を用意した。1人あたり40万円を補助し、長く勤めている社員なら家族も連れていけるようにしていた。航空券とホテルの予約金も、2週間前には支払いを済ませていた。ところが、先月入ったばかりのインターン、小川紗季(おがわ さき)が投稿した、たった30秒ほどのショート動画一本で、そのすべてが台無しになった。創業当初からずっと一緒にやってきた松本久美子(まつもと くみこ)が、スマホを俺の目の前に突き出した。「社長、コメント、もう5万件超えてます」俺は画面をざっと見た。【社員のこと食い物にしてる最低の社長】【ゴールデンウィークに社員旅行とか、ただの休日出勤じゃん】【社員にだって休む権利はあるでしょ。これ、労基署に通報したほうがいい】コメント欄は罵倒で埋め尽くされ、どれもこれも名指しで俺を叩くものばかりだった。紗季は動画に「ブラック企業を許すな」というタグをつけ、休みの日まで社員旅行に強制参加させられると、さも自分が被害者であるかのように訴えていた。動画だけを見れば、理不尽な会社に勇気を出して立ち向かった社員にしか見えない。その動画は、すでに300万回以上も再生されていた。オフィスを出ると、廊下にはすでに大勢の社員が集まっていた。久美
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第2話

椅子に座り直すと、スマホがまた震えた。画面を見ると、紗季がまた動画を投稿していた。カメラの前の紗季は目を赤くし、震える声で話していた。「みんな、応援してくれてありがとう。私はただ、普通に働きたいだけなんです。こんなおかしな会社のやり方で、これ以上つらい思いをする人を増やしたくありません」俺はスマホを置き、机の上ですっかり冷めたコーヒーに手を伸ばした。直後、ドアの向こうから、また誰かが机を叩いたような大きな音がした。久美子はドアのそばに立ち、何か言いたそうに俺を見ていた。俺は久美子に目を向けた。「小川の入社時の書類も出しておいてくれ」……翌日、紗季は会社を休んだ。病欠の連絡と一緒に出された診断書には、急性胃腸炎と書かれていた。ところが動画アプリを開いてみると、紗季は自宅のベッドに座ってライブ配信の真っ最中だった。後ろの壁には「職場改革」と大きく書かれた横断幕まで掛けられていた。「みんな聞いて。私、本当のことを言ったら会社に目をつけられちゃって……今日は怖くて、会社に行けなかったの」ノーメイクで薄手の白いTシャツ姿の紗季は、もともと細身なこともあって、いかにも弱々しく見えた。視聴者はすでに2万人を超え、紗季を心配するコメントがひっきりなしに流れ、投げ銭も次々と飛んでいた。「私、まだインターンなんだよ。給料だって決して高くないの。でも後悔はしてない。雇われてる側だからって……」そこで紗季はわざと声を詰まらせ、手の甲で目元をぬぐった。「こんな扱いをされていいわけじゃないから」声を詰まらせるタイミングも、その仕草も、あまりに出来すぎていた。俺は紗季にメッセージを送った。【小川、入社してまだ1か月だ。これまで会社がどんな社員旅行をしてきたか、まだ知らないだろう】【今ならまだ引き返せる。ここでやめれば、これ以上大事にはならない】既読はついたが、返事はなかった。ところが30分後、紗季の配信を覗くと、さっき送ったメッセージをそのまま読み上げていた。紗季は俺とのやり取りのスクショまで配信画面に出した。「みんな、これ見て。社長本人からこんなメッセージが来たの。『今ならまだ引き返せる』って……要するに、黙れってことでしょ?こんなの脅しと同じじゃない?」その瞬間、コメント欄が一気に
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第3話

健太は営業部に入って4年目になる古株だった。一昨年のニュージーランド旅行にも参加し、去年の特別手当も受け取っている。会社から受けられる福利厚生も、毎回きっちり利用してきた。俺はそのページをスクショして久美子に送った。【鈴木の直近3日分の社内システムのアクセスログを確認してくれ】……騒ぎは3日目に入り、とうとう収拾がつかなくなっていた。午前9時、スマホが鳴った。相手は、3年前から取引を続けているうちの最大の取引先の社長だった。電話に出ると、相手はいきなり本題に入った。「唐沢社長、率直に申し上げます。うちでは取引先の風評リスクも確認しているんですが、今回の件は社内でもかなり問題になっていまして。次の四半期の発注は、いったん見送らせてください。状況が落ち着いてから、改めてお話しできればと思います。私の一存で決められる話ではありません。取締役会からも説明を求められているので」通話が切れた直後の電子音が、静まり返ったオフィスにやけに大きく響いた。1億6000万円。次の四半期の売上の4割を占める取引が、たった30秒ほどの動画一本で吹き飛びかけていた。スマホを握る手に、無意識に力が入った。胸の奥に重いものが沈んでいくようだった。まだ頭の整理もつかないうちに、久美子が勢いよく入ってきた。「社長、鈴木が社内で変な動きをしてます」一瞬驚いたが、健太のことを考えると、そこまで意外でもなかった。「休憩スペースに入社したばかりの若手を何人か集めて、何か話してたんです。たまたま通りかかったんですけど、社長の今回の対応はひどすぎるとか、小川さんは一人で会社に立ち向かってるんだから、みんなで助けるべきだとか……そんなことを言ってました。それに、小川さんのことを『紗季ちゃん』って呼んでたんです。入ってまだ1か月なのに、ずいぶん親しそうでした」俺は椅子の背にもたれ、黙って聞いていた。健太のことはよく知っていた。要領がよく、社内で誰かと揉めることもほとんどなかった。社員旅行の宴会では真っ先に酒を注いで回り、集合写真ではさっと中央に入り込む。福利厚生の案内が出れば、申し込みも誰より早かった。そんな健太が今になって紗季の肩を持ち、若手まで巻き込んでいる。どうにも引っかかった。久美子がタブレットを差し出
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第4話

俺は席を立ち、久美子に声をかけた。「明日の午後3時、大会議室で全体会議を開く。小川も含め、全員出席で頼む。社内チャットには、ゴールデンウィーク前の最後の全体会議で、労基署への対応について説明することと、確認書への署名があるから全員出席だと書いてくれ。文面はなるべく柔らかめにな」久美子は少し迷ったあと、俺を見た。「小川さん、来ますかね?」俺は防犯カメラの映像を閉じた。口元がわずかに緩んだ。来るに決まっている。今の紗季が、社員の前で俺をやり込める絶好の機会を逃すはずがない。……ゴールデンウィーク前日の午後3時。時計の針が3時を指したところで、大会議室のドアが開いた。先頭で入ってきたのは紗季だった。片手にスマホを掲げ、自分を映しながら、そのまま配信を続けていた。画面にはコメントや通知が次々と浮かんでいた。紗季は薄くメイクをしており、その後ろには、健太が声をかけて集めた若手社員4人もついてきていた。紗季はカメラに向かって、落ち着いた声で話した。「みんな、今会社にいます。社長に呼ばれて、これから社員みんなで会議です。このあと何を言われるかわからないけど、私は逃げないし、黙るつもりもありません」視聴者数は3万人台だったのが、みるみる5万人近くまで増えていった。画面もあっという間にコメントで埋まっていった。【紗季ちゃん負けるな】【ブラック社長に言いたいこと全部言ってやれ】【みんながついてるからね】紗季は俺の正面に座ると、スマホをテーブルに立てかけ、カメラをまっすぐ俺に向けた。「社長、始める前に、私から少しお話ししてもいいですか?」俺が頷くと、紗季はそのまま切り出した。「まず、休みの日の社員旅行を事実上強制していたことを認めて、社員みんなにきちんと謝ってください。それから、今回のことで精神的にもかなり傷つきました。慰謝料も払ってください。あと、この場のやり取りは最初から最後まで全部配信します。途中で止めさせたり、あとから都合の悪いところだけ消させたりしないでください」【よく言った】【そのくらい言って当然でしょ】【言いたいこと全部言っちゃえ】健太は会議室の後ろ、壁際の席で腕を組み、面白そうに成り行きを眺めていた。俺がちらりと目をやると、健太はすぐに視線を
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第5話

コメント欄の流れが、一瞬止まった。次の瞬間、堰を切ったようにコメントが一気に流れ出した。【え、ちょっと待って。モルディブで水上ヴィラ、しかもビジネスクラスってマジ?】【一人40万円も出るの?それで「強制参加させられた」って言ってたの?】【いや、これ普通に福利厚生よすぎでしょ。むしろ行きたいんだけど】【これ見たら、さすがに印象変わるわ。労基に通報するような話だったの?】コメントはますます速く流れ、さっきまで紗季を応援していた人たちまで、次々と疑問をぶつけ始めた。カメラがテーブルの上を映すと、並べられた契約書の原本は、金額も日付も社印もはっきり確認できた。紗季は目に見えて動揺した。最初は信じられないという顔をしていたが、すぐに焦りがにじみ、最後には顔からすっかり血の気が引いた。「そ、そんなの……ありえない」その声には、もうさっきまでの余裕がなかった。「こんなの、私を騙すために用意したんでしょ――」俺は銀行振込の承認書を一枚手に取った。「契約書も支払いの記録も、全部偽造だって言うのか?明日、労基署が確認に来ても、同じことを言えるのか?」紗季は何か言いかけたが、そのまま黙り込んだ。コメント欄には、今度は紗季を責める声が次々と流れ始めた。【え、会社の人たち、この子のせいでモルディブ行けなくなったってこと?】【同僚だったらそりゃ怒るでしょ。楽しみにしてた人もいたはずだし】【机叩いてたの、強制参加に怒ってたんじゃなくて、旅行が中止になったからだったのか。そりゃキレるわ】【3日間ずっと社長叩いてたけど、完全に話が逆だったじゃん。こっちが乗せられてたのか】紗季の手が震え始めた。慌ててテーブルの上のスマホに手を伸ばしたが、指がうまく動かず、何度やっても配信を切れなかった。そのとき、後ろで椅子を引く音がして、健太が立ち上がった。心配そうな顔を作り、なだめるように両手を前に出しながらこちらへ歩いてきて、そのまま紗季と俺の間に入った。「社長、ちょっと落ち着きましょう」そう言いながら、健太は配信カメラにちらりと目を向け、自分が映っているのを確認してから俺に向き直った。「ちょっとした行き違いですよ。小川さんはまだ入ったばかりで、これまでの社員旅行がどんなものか知らなかったんです。せっかくの
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第6話

2ページ目に映ったのは、データの持ち出し履歴だった。大口取引先3社の最低提示価格を含む見積書や契約関連のデータで、会社の営業に関わる重要な情報ばかりだった。ファイルは合わせて47MBあり、すべて健太のアカウントから書き出されたあと、そのまま社外のメールアドレスへ送られていた。「送信先のドメインを見てみろ。青嶺商事のものだ」俺は画面を指した。3ページ目には、健太と紗季のメッセージのやり取りが映し出された。日付は、紗季があの動画を投稿する2日前だった。【紗季ちゃん、俺が言ったとおりに撮ればいいよ。言うことはこっちで考えてあるから】【心配しなくていいって。こういう会社の社員旅行なんて、休みの日に何もない山奥へ連れていかれるようなもんだから。俺、もう4年もいるんだぞ?】【動画は絶対伸びるって。うまくいけば案件だって来るようになるし。そのときは俺がきっかけ作ったこと、忘れるなよ】最後のメッセージまで映し出されると、会議室はしんと静まり返った。スクリーンを見ていた40人余りの視線が、そのまま健太へ集まった。健太は唾を飲み込み、少し間を置いてから口を開いた。「いや……違います。別に、そんなつもりじゃ……」「じゃあ、どういうつもりだった?」「いや、それは……冗談で言っただけで――」俺は久美子から別の資料を受け取り、何枚かめくった。「だったら、こっちは?」資料を開いたまま健太に見せた。「先月だけで2回、青嶺商事の営業部長と会ってるよな。しかも、そのときの写真を自分で載せてる。向かいに座ってる男の上着には青嶺商事のロゴまで入ってるけど……何を話してたんだ?」健太は黙り込んだ。その横で、紗季は画面に映ったメッセージを見たまま、しばらく動かなかった。やがてゆっくり健太のほうを向いた。「……私に嘘ついてたの?」声が震えていた。「社員旅行なんて何もない山奥に連れていかれるだけで、こんな会社ろくなところじゃない、動画を出せばみんなのためになるって……そう言ったよね?」言葉を重ねるうちに、紗季の口調も次第に強くなっていった。「全部、最初から嘘だったの?」健太は紗季の勢いに押されるように、一歩下がった。「おい、ちょっと待て。話せば――」「ふざけないで!」紗季は椅子から立ち上がるなり健太につかみ
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第7話

「社長、私たちは何も知らなかったんです。鈴木さんから、小川さんは会社にひどい扱いを受けてるって聞いて……ただ、助けようと思っただけで――」「助けるって、何をするつもりだった?」「その……ちゃんと会社に対応してもらおうと……」「入社して3か月だったな。会社が契約してるジム、使ったことあるか?」彼は一瞬言葉に詰まってから、「あります」と答えた。「利用料は?」「かかってません」「昼食代も会社持ちだよな?」「……はい」「この前の決算賞与、いくら出た?」彼は黙った。隣にいた女性社員が、小さな声で「……16万円です」と答えた。「入って3か月のお前たちにも、16万円出してる。それでも、小川が会社にひどい扱いを受けてるって話を、そのまま信じたのか?」若手たちは、誰も口を開かなかった。そのとき、紗季が和彦の手を振りほどき、よろめきながら会議テーブルの前まで駆け寄った。「社長、私が悪かったです」その勢いのまま床に膝をつき、鈍い音がした。「社員旅行があんなに豪華だなんて、本当に知らなかったんです。鈴木さんからは、休みの日に何もない山奥まで連れていかれるって聞いてて……配信でもらったお金も、全部返すから……お願いです。もう許してください」コメント欄には、紗季に同情する声も出始めた。【この子も利用されてたんじゃない?もう十分でしょ】だが、それ以上に厳しいコメントが続いた。【いや、デマ流したときは散々好き勝手やってたじゃん】【何も確認せずに動画上げたのは自分でしょ。利用されてたからって、それで済む話じゃないでしょ】和彦がポケットに手を入れたまま歩み寄り、膝をついた紗季を見下ろしたあと、周りの若手たちにも目を向けた。「今さら泣いたって遅いだろ。会社をここまでめちゃくちゃにしといて、さっきまであれだけ堂々としてたじゃないか」和彦は黙って座っていた古参社員たちを見回し、営業部の藤井美香(ふじい みか)に声をかけた。「藤井さん、一昨年のニュージーランドのこと、こいつらに話してやってくださいよ」美香は立ち上がった。目元はまだ赤かったが、声は落ち着いていた。「一昨年の社員旅行はニュージーランドでした。みんなでスカイダイビングもして、一人80万円くらいかかりましたけど、費用は全部会社が出してくれま
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第8話

「俺を追及したいなら、好きにしてください。でも、あの取引の代金はもう入ってきませんよ。俺からの置き土産ってことで」その一言で、会議室が静まり返った。久美子の顔も険しくなり、近くで誰かが息を呑む音まで聞こえた。配信のコメントも、ほんの一瞬だけ途切れた。【こいつ開き直りすぎだろ】【6000万の取引横取りしといて、よくそんなこと言えるな】俺はしばらく健太を見つめたあと、ふっと笑った。健太は一瞬、面食らったような顔をした。「……何がおかしいんですか?」「和彦、最後の資料を出してくれ」和彦がパソコンを操作すると、スクリーンに映ったのは、健太がさっき6000万円を超える取引だと言っていた相手の信用調査資料だった。4月下旬から支払いが滞り、先週には債権者から仮差押えも申し立てられていた。代表ともすでに連絡がつかなくなっていた。さらに別の資料には、姿を消す3日前、会社の口座から大半の資金が動かされていた記録もあった。健太の顔から、さっきまでの余裕が消えた。「もう分かっただろ。仕入先への未払いは14億円以上。それなのに逃げる直前まで、払う気もないままあちこちへ発注して、商品だけ受け取ってた」俺はそのまま続けた。「お前が持ち出した見積データと顧客情報は、2週間前に俺がわざと目につくところへ置いておいた。その資料を青嶺商事に持ち込んで、見返りでももらうつもりだったんだろ?」健太は何も答えなかった。「だが、お前が持っていったのは、もうまともに代金を払える状態じゃない取引先の情報だ。青嶺商事はお前が渡した価格をもとに、その取引先と話をまとめて、商品まで納めた」俺は少し間を置いて、健太を見た。「商品はもう納めてる。でも、代金は入ってこない。青嶺商事がどれだけ損するか分かるか?そのとき、向こうが真っ先に誰のところへ来ると思う?」健太は力が抜けたように椅子へへたり込み、その勢いで椅子が後ろへ滑って壁にぶつかった。「じゃあ……あの資料、最初から偽物だったんですか?」「偽物じゃない。見積もりの数字は全部本物だ」俺はスクリーンに映った資料へ目を向けた。「ただ、その取引先はもう代金を払える状態じゃなかった。それだけだ」会議室では誰も声を出せないままだったが、配信のコメント欄にはすぐに新しい書き込みが流れ始めた。
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第9話

配信はまだ続いていたが、誰も止めようとはしなかった。後ろの隅では、若手4人が身を寄せ合ったまま、誰も口を開かなかった。俺はもうそちらには目を向けず、中央に座る古参社員たちを見た。久美子と和彦をはじめ、美香や直樹、それに各部署で長く働いてきた社員たちが並んでいた。この3日間、彼らはネットには一度も書き込まず、騒ぎに便乗して俺を責めることもなかった。ただ普段どおり仕事をして、時々久美子に俺の様子を聞いていた。思わず口元が緩んだ。笑ったのは、この3日で初めてだった。「みんな、これで一つ片づいた」美香は目を潤ませ、和彦は鼻をすすって、何でもないふりで顔をそらした。「でも、俺たちの休みはこれからだ」俺はスーツの内ポケットから、さっきとは別の封筒を取り出した。「労基署から確認が入った以上、会社行事としての社員旅行はいったん中止にした。そこはもう決めたことだ。ただ、俺が個人的にみんなを旅行に招くなら話は別だ」封筒から書類を取り出し、テーブルの上に広げた。「旅行の期間は特別休暇にする。行き先も予定どおりモルディブだ。7日間、ビジネスクラスに水上ヴィラ。補助金も予定していた額より16万円増やして俺が出す。家族も一緒でいい。ホテルには昨夜もう一度確認を取ったし、航空券の変更も済んでる」久美子が驚いた顔で俺を見た。「社長……いつの間に、ここまで?」「この3日間、俺が何もしてなかったとでも思ったか?」久美子の目から涙がこぼれた。「ニュージーランドのときも、それ以前の旅行のときも、ずっと一緒に会社を支えてくれたのはみんなだ。せっかく楽しみにしてたんだ。ここで金を惜しむつもりはない」和彦もとうとうこらえきれず、嬉しそうに笑った。「ただし――」俺はみんなを見回した。「今回参加するのは、今回の騒ぎに関わっていなかった社員と、その家族だけだ」そう言って、俺は後ろの数人を一度だけ見た。その言葉が最後の追い打ちになったのか、紗季の表情がまた強張った。涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げ、目の前で喜び合う社員たちを、ただ黙って見つめていた。古参社員たちは次々と席を立ち、あちこちで歓声が上がった。美香も直樹のそばで嬉しそうに声を上げ、和彦はもう妻に電話をかけていて、その大声は会議室の外まで聞こえそうだった。
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第10話

「社長……お願いします。配信で入った分も全部返します。ちゃんと謝ります。だから、これ以上は……」俺はテーブルに置いてあった書類を手に取り、紗季の前で開いた。「これは警察に提出した告訴状の控えだ」次の書類を見せた。「こっちは法務がまとめた損害額の試算だ。今回の件で会社に出た損害は、今後の影響まで含めて6000万円を超えてる」さらに別の書類を取り出した。「それから、裁判所から届いた呼出状だ。いつ出ることになってるか、自分で見ろ」書類を差し出すと、紗季は震える手で受け取った。「みんなのためだって言ってたよな。だったら、なんで嘘までついてこんな騒ぎにした?おかげで俺だけじゃなく、会社のみんなまで散々振り回された」紗季はうつむいたまま何も言えず、手元の書類に涙を落とした。会議室を出る直前、健太はスクリーンを振り返った。配信のコメントはまだ流れ続けていた。【もうこれ自業自得でしょ】【これクビだけじゃ終わらなくない?】【小川さんも騙されてたとはいえ、あの動画出したのは本人だからな】視聴者はもう、紗季が会議室に入ってきたときの4倍まで増えていた。それでも、2人をかばうコメントはほとんど流れてこなかった。2人は警察官に付き添われ、そのまま会議室を出ていった。廊下は静まり返り、靴音だけが遠ざかっていった。紗季が和彦のそばを通りかかったとき、和彦が声をかけた。「次からは、うまい話を簡単に信じるなよ」紗季は顔を上げず、そのまま歩いていった。扉が閉まり、2人の姿が見えなくなると、会議室に張りつめていた空気もようやく緩んだ。俺はその場を離れ、窓際へ向かった。会社の前には白い貸切バスが1台、エンジンをかけたまま待っていた。運転手はドアの横でスマホを見ていた。1階へ下りると、社員たちはもう荷物を持って集まっていた。大きなスーツケースを引く人もいれば、リュック姿の人もいる。久美子はキャリーケースを引きながら、家族に電話で出発を知らせていた。「お前ら、荷物いつ持ってきたんだ?」「先週ですよ」和彦が笑いながらサングラスを差し出した。「みんな行く気満々で待ってたんです。いつでも出られるように準備してましたよ」俺はそのサングラスをかけ、和彦と一緒に外へ出た。外に出ると、昼の日差しがまぶしかった。さ
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