浮かれていると、メールを知らせる通知音が鳴った。件名には「荻原です」と書いてある。「あ、荻原さんだ。どうしたんだろ?」 メールを開くと、『先ほど差し上げたものはすべて未発表ですので、SNSに載せたり、口外したりしないでください』と書かれていた。ヒカリは『了解です』と返信する。「どんなメールでした?」「未発表だから誰にも知られるなって」「そうでしたか。時々いますからね、浮かれてSNSとかにあげちゃう人……」 金田の言うように、口外するなと言われているのに、SNSに上げて炎上してしまう芸能人が極稀にいる。もちろんヒカリはそんなことしたこともなければ、する気もないが。 ふたりで一緒に化粧品を見ていると、ドアがノックされる。金田と顔を見合わせてから返事をすると、スタッフが飲み物を持ってきた。「こちら、ノンアルコールカクテルです。お連れ様がお支払いを済ませましたので、どうぞごゆっくり」「至れり尽くせりね」「そうですね」 乾杯してからカクテルを飲む。もう蒼斗と舞花のことなど、頭から抜け落ちていた。 3日後、オフ最終日。ヒカリは友人と食事を済ませ、梅雨特有の湿った風に吹かれていた。「どうしようかな……」 女性芸能人がひとりで歩いていたら、節度のないマスコミや、違法薬物の売人に付け回されるかもしれない。ついこの前、免許取り立てのモデルが夜に運転をしていたら、マスコミが車で尾行して騒ぎになったばかりだ。 幸い、ヒカリはまだ遭遇したことないが、夜にひとりで歩いていたら、違法薬物の売人に声をかけられたと、先輩女優が言っていた。 それらを考えるとはやく帰ったほうがいいのだろうが、なんとなく、まだ帰りたくなかった。「ヒカリさん?」 名前を呼ばれ、振り返る。声をかけてきたのは海原壮介だった。「海原社長、こんばんは」「社長なんてやめてくださいよ。もしかして、おひとりですか?」「はい、そうです。友達とごはん食べてたんですけど、まだ帰りたくなくて……」「よかったら、一緒に飲みませんか? 人目が気になるなら、個室もありますよ」 壮介はお猪口を傾ける仕草をしながら言う。「でしたら、個室で」「分かりました、行きましょうか」 連れられたのはジャズが流れるバー。壮介が個室希望だと言うと、個室に案内された。「何飲みますか? このバーは、メニューにないカク
Última actualización : 2026-08-10 Leer más