All Chapters of 魔法のルージュ〜婚約者を奪われて始まる真実の愛〜: Chapter 11 - Chapter 20

47 Chapters

11話

 浮かれていると、メールを知らせる通知音が鳴った。件名には「荻原です」と書いてある。「あ、荻原さんだ。どうしたんだろ?」 メールを開くと、『先ほど差し上げたものはすべて未発表ですので、SNSに載せたり、口外したりしないでください』と書かれていた。ヒカリは『了解です』と返信する。「どんなメールでした?」「未発表だから誰にも知られるなって」「そうでしたか。時々いますからね、浮かれてSNSとかにあげちゃう人……」 金田の言うように、口外するなと言われているのに、SNSに上げて炎上してしまう芸能人が極稀にいる。もちろんヒカリはそんなことしたこともなければ、する気もないが。 ふたりで一緒に化粧品を見ていると、ドアがノックされる。金田と顔を見合わせてから返事をすると、スタッフが飲み物を持ってきた。「こちら、ノンアルコールカクテルです。お連れ様がお支払いを済ませましたので、どうぞごゆっくり」「至れり尽くせりね」「そうですね」 乾杯してからカクテルを飲む。もう蒼斗と舞花のことなど、頭から抜け落ちていた。 3日後、オフ最終日。ヒカリは友人と食事を済ませ、梅雨特有の湿った風に吹かれていた。「どうしようかな……」 女性芸能人がひとりで歩いていたら、節度のないマスコミや、違法薬物の売人に付け回されるかもしれない。ついこの前、免許取り立てのモデルが夜に運転をしていたら、マスコミが車で尾行して騒ぎになったばかりだ。 幸い、ヒカリはまだ遭遇したことないが、夜にひとりで歩いていたら、違法薬物の売人に声をかけられたと、先輩女優が言っていた。 それらを考えるとはやく帰ったほうがいいのだろうが、なんとなく、まだ帰りたくなかった。「ヒカリさん?」 名前を呼ばれ、振り返る。声をかけてきたのは海原壮介だった。「海原社長、こんばんは」「社長なんてやめてくださいよ。もしかして、おひとりですか?」「はい、そうです。友達とごはん食べてたんですけど、まだ帰りたくなくて……」「よかったら、一緒に飲みませんか? 人目が気になるなら、個室もありますよ」 壮介はお猪口を傾ける仕草をしながら言う。「でしたら、個室で」「分かりました、行きましょうか」 連れられたのはジャズが流れるバー。壮介が個室希望だと言うと、個室に案内された。「何飲みますか? このバーは、メニューにないカク
last updateLast Updated : 2026-08-10
Read more

12話

「元気ないですね、どうしたんですか?」「明日、仕事で会いたくない人がいて……」 ぽつりと言うと、カシスソーダを飲み干した。思い出しただけで悲しくなって、飲んで忘れたくなった。酒に強くないせいか、はやくも頬が熱くなってくる。「もう1杯……」「分かりました」 壮介はタブレット端末を操作する。お通しのナッツをつまんでいると、カシスソーダが運ばれてきた。それも一気に飲み干す。「飲み過ぎですよ。顔赤いですし、お酒、得意ではないんじゃないですか?」「そう、ですけど……。飲まないと、やってられないといいますか……」「僕でよかったら、話してください。口外しません」「うぅ、海原さん……」 酒で涙腺がもろくなり、涙が溢れてくる。「わた、私、幸せの四葉家族なんて言われてますけど、本当は家族とうまくいってなくて……。特に舞花のこと、本当は昔から嫌いで」「どうして嫌いなんですか?」「だってぇ! 私のもの、ぜーんぶ取るんです……! お菓子も、おもちゃも、彼氏も、ぜーんぶ」 酔いが回ってきた。ダメだと分かっているのに、涙と言葉が止まらない。「私、婚約者いたんです。今度こそ幸せになれると思ったら、結婚式当日に、舞花に、舞花に取られて……! しかも、明日、その元婚約者とドラマの撮影で会うんですよ……。私がその人の恋人で、尽くして尽くしてひたすら尽くすのに、捨てられる役で、もう、現実とほぼ一緒じゃないですか。なんで私ばっかりこんな……。う、うぅ……」「よしよし、大変でしたね」 壮介はヒカリの隣に移動し、頭を撫でてくれる。今のヒカリには、ちょっとした優しさも、涙の元になってしまう。「う、うぅ……! 海原さん……。もう1杯」「分かりました」 それからしばらく飲んでいた。何杯飲んだか覚えていないくらいに。「もう帰りましょう」「うぅ……」 1時間もすると、ヒカリは泣き疲れてうとうとしていた。酔いも回り、意識が朦朧としている。「仕方ないお姫様だ」 壮介はスマホを操作したあと、タブレット端末でクレジットカード決済を選択する。しばらくすると支払い用の端末を持った従業員が入ってくる。「すいません、タクシー呼んだので、ここで待たせてもらっていいですか?」「はい、構いませんよ」「ありがとうございます」 10分もすると、壮介のスマホにタクシーが来たと通知が来る。
last updateLast Updated : 2026-08-10
Read more

13話

 朝7時、スマホのけたたましいアラームで目が覚める。「うぅ……」 ヒカリは音のする方へ手を伸ばし、アラームを切ると布団をかぶる。 寝起きはあまりいいとは言えない。今日の撮影も、10時過ぎに現場入りすればいいので、家から出るのは余裕を持って9時前だ。常人ならもう少し寝ても余裕ができるが、アラームを3回は聞かないと起きられないヒカリは、2分刻みでアラームをセットしている。「起きないの?」「んー……」「起きなってば。撮影あるんですよね?」「さつ、えい……。撮影!」 撮影という言葉で飛び起きた。「起こしてくれてありがとう、って、ええっ!?」 自分を起こしたのは、海原壮介だった。彼は昨日と同じ服を着て、ヒカリの顔を覗き込んでいる。「な、な……。これは、いったい……」 ヒカリは必死に記憶を手繰り寄せる。昨晩彼と偶然会い、一緒に飲んだことまでは覚えている。「昨日酔いつぶれてたから送ろうと思ったんですけど、ヒカリさんの住所知らなかったので、ホテルに連れてきました」「ほ、ホテ……!?」 彼は自分のファンだと言っていた。それに男女でホテルといったら、そういう想像をしてしまうもので……。(私、まさか酔った勢いで海原さんと!?)「あ、安心してください! 僕がしたことと言えば、靴を脱がせたことと、メイク落としくらいで、その、えっちなこととか、全然してないので! それに僕、隣の部屋で寝てたので……!」 壮介は赤くなっていくヒカリを見て、慌てて言う。「そ、そうなんですね、なんか、色々ごめんなさい」 今度は別の意味で赤くなる頬を抑えながら、曖昧に微笑む。「いえ……。あ、朝ごはん、一応コンビニで買ってあるんですけど、何がいいですか? 適当に色々買ってみたんですけど。あ、オレンジジュースとしじみ汁は念の為飲んでくださいね。二日酔いしてないといいんですけど」 壮介は大きなコンビニ袋を出しながら言う。「なにからなにまで、ありがとうございます……」「いえいえ、シャワーでも浴びてきたらどうですか? 目が覚めると思いますよ」「はい、そうします」 室内を見回すと、かなり広い。1番近くのドアを開けると、もうひとつ部屋がある。きっと壮介はこちらで寝たのだろう。 脱衣所で鏡を見ると、肌の調子は思ったよりいい。メイク落としだけでなく、保湿もしてくれたのかもしれない。
last updateLast Updated : 2026-08-10
Read more

14話

「ノンアル!? わ、私、ノンアルで、よ、酔って……!?」 ヒカリは思わず目を丸くして壮介を見る。彼が嘘をついているようには見えない。「最初の2杯はアルコール入でしたし、プラシーボ効果っていうんですか? お酒だと思って飲んだら酔うことがあるそうですよ」「そ、そうなんですね……」 そう言われても、恥ずかしいものは恥ずかしい。たった2杯のカクテルと、ノンアルコールカクテルで記憶がなくなるくらい酔うだなんて、黒歴史確定だ。「あの、私なんか言ってましたか?」「色々言ってましたね。とりあえず、ごはんにしません? お仕事あるんでしょう?」 壮介は電気ポットでしじみ汁にお湯を入れながら言う。「そうだ、撮影……!」 時計を見ると7時半前。この時間に目が覚めているのは、ヒカリにとって奇跡だ。「何食べますか? サラダも一応買ってありますけど。あ、それとも女優さんはコンビニのごはんなんて食べませんかね?」「いえ、食べますよ。ありがとうございます。そうだ、お金……」 バッグから財布を出そうとすると、壮介が制止した。「気にしないでください」「でも……。バーもホテルも払ってないですし……」「僕としては、憧れのヒカリさんと一緒にお酒を飲めただけで幸せですし、一緒に朝食食べれるんですから、むしろ払い足りないくらいですよ」「払い足りないって……」 壮介の発言に苦笑する。くすぐったいが、ファンの熱量を直接感じることができるのは嬉しい。「だって、子供の頃から大好きな女優さんと、こんなに長い時間過ごせるんですから。ファンとしてはもう、死んでもいいくらい幸せですよ」「ふふ、それを言うなら、私もですよ」「え?」 壮介は目を丸くする。「私、正直言うと、化粧好きじゃなかったんですよね。敏感肌で、すぐに荒れちゃうから……。化粧で荒れて、それを化粧で隠して、また荒れてって……。皮膚科で相談しても、化粧は極力しないようにって言われて……。けど、仕事上そういうわけにもいかないでしょ? でも、電車でflocon de neigeの広告を見て、試してみたら肌トラブルから解放されて、それからすっかりflocon de neigeのファンなんですよ」「嬉しいです……! こんな軌跡があるだなんて……! っと、ヒカリさんはお仕事なんでしたっけね。どうぞ、好きなものを選んでください」 
last updateLast Updated : 2026-08-10
Read more

15話

 文面からして、ヒカリは酔った勢いで、壮介にすべて話してしまったようだ。羞恥心が込み上げてくるが、それ以上の勇気が沸いてくる。「そうね、あの人達は幸せになれない」 言葉にすると、気持ちが軽くなり、本当にそうなるような気がした。 清々しい気持ちで現場に入り、スタッフや共演者に挨拶をする。もちろん、蒼斗にも。「おはようございます」「あぁ、おはよう」 蒼斗はにこやかに挨拶をするヒカリを怪訝そうに見る。(私があなたを見て、気まずい顔でもすると思ったの? 御生憎様、もうあなたのことなんて、好きじゃないから) 心の中で言うと、他の共演者の元へ行き、挨拶をする。 全員が揃い、どのシーンを撮影するか確認をすると、撮影が始まる。今回撮影するのは、ヒカリが演じる梨花という女性が、蒼斗演じるセイヤに捨てられるシーンだ。 ドラマのあらすじはこうだ。資産家の息子であるセイヤは、同じ学校に通うミズキと交際をする。幸せだったふたりだが、セイヤの両親がふたりを別れさせ、梨花と婚約させる。ミズキのことが諦められないセイヤは、3年で父の資産を超える額を稼げたらミズキと結婚すると言い、父親はセイヤにそんなことができるわけがないと承諾。 梨花も資産家の娘で、小さい頃にセイヤと遊んだりしていたが、引っ越してからはセイヤと会ってなかった。梨花はいじめられていたところをセイヤに助けてもらった過去があって、セイヤのことをずっと想っていた。 ふたりは喫茶店のセットに入り、席に座る。「3,2,1,アクション」 監督の声で演技を始める。「セイヤさん、話って?」 梨花は将来への期待を隠して喫茶店に来たが、セイヤの顔を見て察し、表情を曇らせる。「もう少しで親父の資産を越えられるんだ。だから、別れてくれ」「そんな! どうして!? なんであの子にこだわるの!? あの子は一般人で、私達とは価値観が違うじゃない!」 重苦しい空気で別れを告げられ、取り乱す。「黙れ、もう決めたんだ。それに俺は、お前を愛してない」「私の気持ちは!? 私はずっと前からセイヤさんのことが……!」 ここで蒼斗が演じるセイヤは空のグラスを握って、水を掛ける仕草をする。「きゃっ!?」「お前のそういうところ、本当に無理! いいか!? たとえお前と結婚しても、俺はお前を愛することはないんだ! そんな結婚の何が楽しい!
last updateLast Updated : 2026-08-13
Read more

16話

 ヒカリは一旦楽屋に戻り、髪を乾かしたり化粧を直したりする。現場ではヒカリ演じる梨花がいないシーンの撮影をしている頃だろう。監督は最低でも2時間はかかると言っていた。「これでよし」 ヒカリは鏡を見ておかしなところがないか確認すると、壮介にメールを送る。『海原さんのおかげで、蒼斗さんを気にせず撮影できました。なにからなにまで、ありがとうございます』 壮介は社長だ。きっとすぐに返信は来ないと思っていたが、5分もしないうちに壮介から返信が届く。『それを聞いて安心しました。撮影、頑張ってください』 壮介からのメールを見て温かい気持ちになっていると、金田が入ってきた。「ヒカリさん、これを」 封蝋がされた立派な封筒が手渡される。その封筒には見覚えがあった。「あぁ、また?」 それは大御所が気まぐれで開くパーティーの招待状だった。大御所が人脈をフル活用し、芸能人だけではなく、様々な企業のお偉いさんを呼ぶ。時には政治家が来ることもある。 表向きは人々の交流を発展させ、皆の人脈を広げることと言うが、どうせ自分の人脈自慢をしたいだけだ。 にぎやかな場が苦手なヒカリとしては断りたいが、断ったらあとが怖いから、仕事がない時は仕方なく参加している。「来月の14日ですって。その日に仕事入ってたりしない?」「残念ながら、空いてます」「そう……」 がっかりしながら招待状をしまうと、鏡を見て最終チェックをしてから現場に戻り、撮影をする。 撮影が終わって楽屋で帰る準備をしていると、誰かがドアをノックした。「香坂蒼斗です」 その声と名前に身震いする。舞花と気が合うということは、蒼斗もまともな性格ではない。きっと、ハンカチを使わなかった仕返しをしに来たに違いない。「わ、香坂さんだ! どうぞ」 何も知らない金田は、嬉しそうに彼を楽屋に入れる。金田はミーハーなところがあって困る。「ヒカリさん、今日もお疲れ様。マネージャーさん、ちょっと大事な話があるから、ふたりにさせてくれる?」「はい、わっかりました!」 金田は蒼斗と目が合ったのがよっぽど嬉しいのか、にこにこしながら出ていく。金田が出てドアが閉まると、人の良さそうな笑顔は消え、冷たい目でヒカリを見下ろす。「お前、何調子に乗ってんだよ」「乗ってないけど」「乗ってんだろ。ヘラヘラしやがってよ。俺が差し出したハン
last updateLast Updated : 2026-08-13
Read more

17話

 数日後、ヒカリの元にflocon de neigeのCMの絵コンテと台本が届いた。魔法をテーマにしているだけあって、CGを使う場面が多い。 以前はうまく想像できずに苦労したが、今ではCGがついたらどうなるかを想像することも出来、どんな仕上がりになるのか楽しみになるまでに余裕ができた。 撮影当日、現場に行くと壮介と荻原もいた。「ヒカリさん、改めて、オファーを引き受けてくれてありがとうございます」「こちらこそ、ありがとうございます。いただいた化粧品も、オフの日に使ってるんですけど、本当に魔法みたいで楽しいです」「そうですか。それを聞けて嬉しいです。今日も頑張ってください」 ヒカリが簡単に感想を伝えると、壮介は笑顔を浮かべた。「はい、ありがとうございます」 監督と打ち合わせが終わると、撮影が始まる。「3、2、1……!」 監督が手で合図をすると、ヒカリは演技をする。まずは唇を指先でなぞる。それからカメラが寄り、目を閉じてまぶたをなぞる。「カット! 流石だね」 監督は上機嫌でヒカリを褒める。「1発OKなんて、すごいです」「そんな、絵コンテが分かりやすかったからですよ」 壮介にも褒められ、いつものくせでつい謙遜してしまう。不思議と、監督に褒められた時より、壮介に褒められたほうが嬉しい。 その後の撮影や録音も順調に終わり、撮影は予定よりはやく終了した。「お疲れさまでした。完成が楽しみです」「ふふ、私も、どんな魔法がかかるか楽しみです」「そうだ、ヒカリさんはこのパーティに招待されてたりしませんか?」 そう言って壮介は、カバンから招待状を出す。それはヒカリが行きたくないと思っていた、大御所主催のパーティの招待状だった。「はい、招待されてます」 ヒカリが答えると、壮介は目を輝かせる。「本当ですか!? よかった……。って、参加は自由でしたよね。ヒカリさんは参加しますか?」「はい、その予定です」「では、パーティ会場でお会いしましょう。本当は食事にお誘いしたいんですけど、今回も僕のワガママでここに来たので……」 壮介は残念そうに言いながら、横目で荻原を見る。荻原はなにか察したのか、壮介を睨みつける。「社長、お時間です」「はいはい、今行きますよ。それじゃ、パーティで。もし気が向いたら、ご連絡ください。では」 壮介は一礼して立ち去る。
last updateLast Updated : 2026-08-13
Read more

18話

 ヒカリは写真とチャットに目を通すと、「了解」と送った。「ばっかみたい」 スマホを放り投げて吐き捨てるように言う。 今の家族の思い出なんて、消してしまいたいものしかない。いつもヒカリだけが仲間外れ。自分達でヒカリを爪弾きにしておきながら、合成写真や撮影用のグループトークまで用意して、仲良し家族を演じろというのだから滑稽だ。 彼らは指示をするのも面倒なのか、もうひとつ家族用のグループトークを作り、ヒカリの名前でアカウントを作り、楽しい家族のグループトークを繰り広げているのだ。まだ子供たちのおままごとの方が見ていられるほどにハリボテの家族。世間はこんなものを羨ましがっていると思うと、笑えてくる。 翌日、楽屋の前で3人と鉢合う。今日はこの3人と同じ楽屋だ。うんざりする。「おはよう、舞花。父さんも母さんも、元気?」「おはよ、お姉ちゃん」「ヒカリも家にいればいいのに」「そうだよ。家族で離れ離れなんて寂しいじゃないか」「もう、ふたりとも子離れしてよ」 軽い茶番をしてから楽屋に入ると、結花から紙束を手渡される。「頭に叩き込みなさい」 バラエティ番組にも、台本はある。といっても、ドラマのようにかっちりしたものではなく、流れが書いてあるだけ。彼らはその台本に合わせ、別に台本を用意している。仲良し家族を見せつけるための、空虚な台本を。 ヒカリが楽屋の隅で台本を読んでる間、彼らはスマホを見たり、おしゃべりをしたりと、思い思いに過ごす。 スタッフが声をかけに来ると、また仲良し家族を演じて一緒に移動する。 スタジオに入ると、ヒカリにとって空虚な時間が始まる。面白くもない話に笑い、コメントし、偽りの家族の思い出を話す。実に馬鹿らしい。これに勝る無駄な時間などあるだろうか?「舞花ちゃん、聞きましたよ。ご結婚されたとか」 司会の芸人がニヤリと笑いながら言うと、舞花は恥ずかしそうに肯定し、スタジオが沸き上がる。「はい、蒼斗くんと結婚しました。毎日が幸せです♡」「いいですねー。ヒカリちゃんは焦ったりしない? 妹に先越されたりして」「いえ、焦ってません」「いい人いるの?」 いい人と言われ、壮介のことを思い浮かべる。(違うわ、そんなんじゃない)「まさか! いませんよ。今は仕事が恋人ですから」「さすがお姉ちゃん、真面目だねー」「真面目過ぎて心配なんです
last updateLast Updated : 2026-08-13
Read more

19話

 大御所の人脈自慢パーティ当日。少し遅めに会場についたヒカリは、壁の花を決め込んでいた。人との交流があまり好きではないのだ。それでも、挨拶はしないといけない。今は挨拶前に会場内を見回し、順番を決めながら、心の準備をしている。「お姉ちゃん、こんなところにいたの?」 舞花がにこやかに近寄り、耳元に口を寄せる。「地味過ぎて気づかなかった」 いつもそうだ。人前でも、ヒカリにだけ聞こえるように暴言を吐く。まだ幼稚園児の方が、精神年齢が高いように思える。 両親と蒼斗も来て、ヒカリを見て嘲笑う。周囲を見回すも、隅の方だからか人がいない。「アンタも呼ばれてたのね。相変わらずシケた顔。不幸が移りそう」 結花はヒカリのつま先からてっぺんまで見てから、鼻で笑う。(そう思うなら来なければいいのに) 言い返したところで、ひどい目に遭うのは分かっている。ヒカリはただ、黙って時間が過ぎるのを待つ。「ダンマリかよ。なっさけねー。だから誰にも選ばれないんじゃねーの」 蒼斗の言葉に彼らはゲラゲラ笑う。「男漁りに来たのかしら?」「お前じゃ誰も選ばないだろ」「あぁ、いた」 そんな声が聞こえたのと同時に、肩を抱かれる。驚いて見上げると、壮介だった。「ご家族の団らんを邪魔してすいません」「どちら様?」 拓也は怪訝そうに壮介を見る。「ご挨拶が遅れました。僕はヒカリさんと交際をさせていただいている、海原壮介と申します。flocon de neigeの社長をしています」 壮介は4人に名刺を渡す。名刺を受け取った彼らは、一瞬顔をしかめるも、笑顔を浮かべた。「まだ若い会社ですので、今回初めて呼ばれたんですよ。いやぁ、ヒカリさんのご家族にお会いできてよかった」 壮介の柔らかな笑顔に、4人は笑顔が剥落し、気まずそうな顔をする。「交際してる人がいるなんて知らなかったわ」「お姉ちゃん水くさーい。言ってくれたらいいのに」「言う機会なくて」 ヒカリは曖昧に微笑む。そもそも壮介とは交際していないし、したとしても彼らに言うことは絶対にない。「ヒカリさんとふたりになってもいいですか?」「え? えぇ、どうぞ」「行こうか」 ヒカリの肩を抱いたまま、壮介は彼らから離れる。バルコニーに出ると、肩から壮介の手が離れる。「はぁ、緊張した……」 壮介は胸を撫で下ろすと、申し訳無さそうに
last updateLast Updated : 2026-08-13
Read more

20話

「そうですか、よかった」 安堵すると壮介が笑う。「海原さん?」「ヒカリさんはお優しいですね。だから惹かれるんだろうな」「え?」 惹かれるという言葉に、思わず胸がときめく。「さっき、咄嗟に恋人だって嘘をついてしまいましたけど、本当にしませんか」「それって……」 ヒカリは無意識で胸に手を添える。蒼斗と恋愛ごっこをしていた時とは比べ物にならないほど、ドキドキしている。 壮介は真顔で向き直り、決心を固めるために息を吸う。「ヒカリさん。僕は女優としてではなく、ひとりの女性として、あなたが好きです。まだお互いのことよく知りませんし、すぐに交際なんて考えなくてもかまいません。ですから、友人から始めてみませんか?」 壮介の白い肌が、林檎のように赤く染まっていく。「はい、是非」 ドラマの中では数え切れないほどの恋をしてきたが、現実での恋は数える程度だ。ヒカリは友人としてではなく、恋人として受け入れるつもりだったが、緊張してそれしか言えなかった。(たぶん、友人としてって思われたかも……)「断られなくてよかった……。ヒカリさんは挨拶は済みましたか?」 どう切り出そうか悩んでいると、壮介が聞いてきた。「いえ、まだです」「でしたら、挨拶が終わったら、ふたりで中庭でお話しませんか? お互いのことを知るために」 ヒカリはちらりと外を見る。梅雨時にしては珍しく、晴天だ。外でお茶をするのにいい天気ではあるが、相手が壮介だとそうも言ってられない。「外に行って大丈夫なんですか?」「え?」「その、間違ってたらすいません。海原さんって、アルビノですよね? アルビノって、あまり日光が得意ではないと思って」 ヒカリは恐る恐る聞いてみる。もし壮介の髪がオシャレのためで、肌の白さもただの生まれつきだったら、失礼になってしまうだろう。「ふふ、お優しいですね。確かに僕はアルビノで、日光は苦手です。ですが、ここには東屋があるそうですから」 東屋なら、陽の光を遮ってくれるだろう。それに、何も1日中外にいるつもりではない。1時間程度なら、きっと問題もないし、何かあったら本人が言うはずだ。「そういうことでしたら、是非」「先に東屋に行ってますね」「分かりました。けど、日差しなどがつらくなったら、無理しないで室内で待っていてください」「その時は連絡しますね」「はい。では
last updateLast Updated : 2026-08-13
Read more
PREV
12345
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status