Masuk複雑な芸能一家に産まれたヒカリは、いつも実父、継母、腹違いの妹に嫌がらせをされ続けていた。 そんなヒカリにも、愛してくれる人が見つかり、いよいよ結婚することに。 だが、ヒカリが少し席を外した隙に、妹の舞花が勝手にウエディングドレスを着てしまい、婚約者の蒼斗も舞花と結婚すると言い出してしまう……。 愛する婚約者を奪われたヒカリに、化粧品のCMの仕事が舞い込む。 化粧品会社の壮介と出逢い、ヒカリの人生が少しずつ変化していく
Lihat lebih banyak「ノンアル!? わ、私、ノンアルで、よ、酔って……!?」 ヒカリは思わず目を丸くして壮介を見る。彼が嘘をついているようには見えない。「最初の2杯はアルコール入でしたし、プラシーボ効果っていうんですか? お酒だと思って飲んだら酔うことがあるそうですよ」「そ、そうなんですね……」 そう言われても、恥ずかしいものは恥ずかしい。たった2杯のカクテルと、ノンアルコールカクテルで記憶がなくなるくらい酔うだなんて、黒歴史確定だ。「あの、私なんか言ってましたか?」「色々言ってましたね。とりあえず、ごはんにしません? お仕事あるんでしょう?」 壮介は電気ポットでしじみ汁にお湯を入れながら言う。「そうだ、撮影……!」 時計を見ると7時半前。この時間に目が覚めているのは、ヒカリにとって奇跡だ。「何食べますか? サラダも一応買ってありますけど。あ、それとも女優さんはコンビニのごはんなんて食べませんかね?」「いえ、食べますよ。ありがとうございます。そうだ、お金……」 バッグから財布を出そうとすると、壮介が制止した。「気にしないでください」「でも……。バーもホテルも払ってないですし……」「僕としては、憧れのヒカリさんと一緒にお酒を飲めただけで幸せですし、一緒に朝食食べれるんですから、むしろ払い足りないくらいですよ」「払い足りないって……」 壮介の発言に苦笑する。くすぐったいが、ファンの熱量を直接感じることができるのは嬉しい。「だって、子供の頃から大好きな女優さんと、こんなに長い時間過ごせるんですから。ファンとしてはもう、死んでもいいくらい幸せですよ」「ふふ、それを言うなら、私もですよ」「え?」 壮介は目を丸くする。「私、正直言うと、化粧好きじゃなかったんですよね。敏感肌で、すぐに荒れちゃうから……。化粧で荒れて、それを化粧で隠して、また荒れてって……。皮膚科で相談しても、化粧は極力しないようにって言われて……。けど、仕事上そういうわけにもいかないでしょ? でも、電車でflocon de neigeの広告を見て、試してみたら肌トラブルから解放されて、それからすっかりflocon de neigeのファンなんですよ」「嬉しいです……! こんな軌跡があるだなんて……! っと、ヒカリさんはお仕事なんでしたっけね。どうぞ、好きなものを選んでください」
朝7時、スマホのけたたましいアラームで目が覚める。「うぅ……」 ヒカリは音のする方へ手を伸ばし、アラームを切ると布団をかぶる。 寝起きはあまりいいとは言えない。今日の撮影も、10時過ぎに現場入りすればいいので、家から出るのは余裕を持って9時前だ。常人ならもう少し寝ても余裕ができるが、アラームを3回は聞かないと起きられないヒカリは、2分刻みでアラームをセットしている。「起きないの?」「んー……」「起きなってば。撮影あるんですよね?」「さつ、えい……。撮影!」 撮影という言葉で飛び起きた。「起こしてくれてありがとう、って、ええっ!?」 自分を起こしたのは、海原壮介だった。彼は昨日と同じ服を着て、ヒカリの顔を覗き込んでいる。「な、な……。これは、いったい……」 ヒカリは必死に記憶を手繰り寄せる。昨晩彼と偶然会い、一緒に飲んだことまでは覚えている。「昨日酔いつぶれてたから送ろうと思ったんですけど、ヒカリさんの住所知らなかったので、ホテルに連れてきました」「ほ、ホテ……!?」 彼は自分のファンだと言っていた。それに男女でホテルといったら、そういう想像をしてしまうもので……。(私、まさか酔った勢いで海原さんと!?)「あ、安心してください! 僕がしたことと言えば、靴を脱がせたことと、メイク落としくらいで、その、えっちなこととか、全然してないので! それに僕、隣の部屋で寝てたので……!」 壮介は赤くなっていくヒカリを見て、慌てて言う。「そ、そうなんですね、なんか、色々ごめんなさい」 今度は別の意味で赤くなる頬を抑えながら、曖昧に微笑む。「いえ……。あ、朝ごはん、一応コンビニで買ってあるんですけど、何がいいですか? 適当に色々買ってみたんですけど。あ、オレンジジュースとしじみ汁は念の為飲んでくださいね。二日酔いしてないといいんですけど」 壮介は大きなコンビニ袋を出しながら言う。「なにからなにまで、ありがとうございます……」「いえいえ、シャワーでも浴びてきたらどうですか? 目が覚めると思いますよ」「はい、そうします」 室内を見回すと、かなり広い。1番近くのドアを開けると、もうひとつ部屋がある。きっと壮介はこちらで寝たのだろう。 脱衣所で鏡を見ると、肌の調子は思ったよりいい。メイク落としだけでなく、保湿もしてくれたのかもしれない。
「元気ないですね、どうしたんですか?」「明日、仕事で会いたくない人がいて……」 ぽつりと言うと、カシスソーダを飲み干した。思い出しただけで悲しくなって、飲んで忘れたくなった。酒に強くないせいか、はやくも頬が熱くなってくる。「もう1杯……」「分かりました」 壮介はタブレット端末を操作する。お通しのナッツをつまんでいると、カシスソーダが運ばれてきた。それも一気に飲み干す。「飲み過ぎですよ。顔赤いですし、お酒、得意ではないんじゃないですか?」「そう、ですけど……。飲まないと、やってられないといいますか……」「僕でよかったら、話してください。口外しません」「うぅ、海原さん……」 酒で涙腺がもろくなり、涙が溢れてくる。「わた、私、幸せの四葉家族なんて言われてますけど、本当は家族とうまくいってなくて……。特に舞花のこと、本当は昔から嫌いで」「どうして嫌いなんですか?」「だってぇ! 私のもの、ぜーんぶ取るんです……! お菓子も、おもちゃも、彼氏も、ぜーんぶ」 酔いが回ってきた。ダメだと分かっているのに、涙と言葉が止まらない。「私、婚約者いたんです。今度こそ幸せになれると思ったら、結婚式当日に、舞花に、舞花に取られて……! しかも、明日、その元婚約者とドラマの撮影で会うんですよ……。私がその人の恋人で、尽くして尽くしてひたすら尽くすのに、捨てられる役で、もう、現実とほぼ一緒じゃないですか。なんで私ばっかりこんな……。う、うぅ……」「よしよし、大変でしたね」 壮介はヒカリの隣に移動し、頭を撫でてくれる。今のヒカリには、ちょっとした優しさも、涙の元になってしまう。「う、うぅ……! 海原さん……。もう1杯」「分かりました」 それからしばらく飲んでいた。何杯飲んだか覚えていないくらいに。「もう帰りましょう」「うぅ……」 1時間もすると、ヒカリは泣き疲れてうとうとしていた。酔いも回り、意識が朦朧としている。「仕方ないお姫様だ」 壮介はスマホを操作したあと、タブレット端末でクレジットカード決済を選択する。しばらくすると支払い用の端末を持った従業員が入ってくる。「すいません、タクシー呼んだので、ここで待たせてもらっていいですか?」「はい、構いませんよ」「ありがとうございます」 10分もすると、壮介のスマホにタクシーが来たと通知が来る。
浮かれていると、メールを知らせる通知音が鳴った。件名には「荻原です」と書いてある。「あ、荻原さんだ。どうしたんだろ?」 メールを開くと、『先ほど差し上げたものはすべて未発表ですので、SNSに載せたり、口外したりしないでください』と書かれていた。ヒカリは『了解です』と返信する。「どんなメールでした?」「未発表だから誰にも知られるなって」「そうでしたか。時々いますからね、浮かれてSNSとかにあげちゃう人……」 金田の言うように、口外するなと言われているのに、SNSに上げて炎上してしまう芸能人が極稀にいる。もちろんヒカリはそんなことしたこともなければ、する気もないが。 ふたりで一緒に化粧品を見ていると、ドアがノックされる。金田と顔を見合わせてから返事をすると、スタッフが飲み物を持ってきた。「こちら、ノンアルコールカクテルです。お連れ様がお支払いを済ませましたので、どうぞごゆっくり」「至れり尽くせりね」「そうですね」 乾杯してからカクテルを飲む。もう蒼斗と舞花のことなど、頭から抜け落ちていた。 3日後、オフ最終日。ヒカリは友人と食事を済ませ、梅雨特有の湿った風に吹かれていた。「どうしようかな……」 女性芸能人がひとりで歩いていたら、節度のないマスコミや、違法薬物の売人に付け回されるかもしれない。ついこの前、免許取り立てのモデルが夜に運転をしていたら、マスコミが車で尾行して騒ぎになったばかりだ。 幸い、ヒカリはまだ遭遇したことないが、夜にひとりで歩いていたら、違法薬物の売人に声をかけられたと、先輩女優が言っていた。 それらを考えるとはやく帰ったほうがいいのだろうが、なんとなく、まだ帰りたくなかった。「ヒカリさん?」 名前を呼ばれ、振り返る。声をかけてきたのは海原壮介だった。「海原社長、こんばんは」「社長なんてやめてくださいよ。もしかして、おひとりですか?」「はい、そうです。友達とごはん食べてたんですけど、まだ帰りたくなくて……」「よかったら、一緒に飲みませんか? 人目が気になるなら、個室もありますよ」 壮介はお猪口を傾ける仕草をしながら言う。「でしたら、個室で」「分かりました、行きましょうか」 連れられたのはジャズが流れるバー。壮介が個室希望だと言うと、個室に案内された。「何飲みますか? このバーは、メニューにないカク