出張から帰宅し、ドアを開けると、晃範がリビングのソファで杏紗と楽しそうに笑い合っていた。玄関はしんと静まりかえっている。いつもならモカが真っ先に駆け寄ってきて、足元にごろんと寝転がり、甘えてくるところなのに。「モカ……?」ようやくソファからこちらを振り向いた晃範が言った。「一週間ぶりに帰ってきて、猫しか目に入らないのかよ。客が来てるの、見えないわけ?モカは杏紗に懐かないから、ケージに入れてある」スーツケースをその場に置き、キャットタワーのそばのケージへ急ぐ。モカはぐったりとうずくまり、私の手のひらにそっと頭をこすりつけて、か細く鳴いた。しゃがみ込んだまま、ケージの隅に置かれたフードボウルに目をやる。中にもう一粒、ブドウが見えた。「モカはいい子だよ。理由もなく誰かに怒ったりしない。──その誰かに、よっぽど悪意がないかぎりは」フードボウルを取り出し、中身のキャットフードごとブドウをゴミ箱に捨てる。ボウルの縁を握る手に力が入る。杏紗がはっと息を呑んだ。その視線が、迷うように晃範へと向かう。それを受け止めた晃範が、すかさず眉をひそめて口を開く。「絵里華、こんな些細なことでいつまでもぐちぐち言うのかよ。杏紗はちょっとふざけただけだ。モカがブドウに慣れておけば、将来誤って口にしなくて済むだろ。モカのためを思ってやってくれたんだ。俺だってモカの面倒を見てるんだぞ。この俺がモカに悪いことをするとでも?」私は振り返らずにキッチンへ向かう。冷蔵庫を開け、モカのごはんを用意しようとして──手が止まった。冷蔵室にあった、母が送ってくれた梅干しの瓶が消えている。代わりに冷えているのが、ブドウを使ったらしい手作りケーキだった。ゴミ箱を見下ろすと、やっぱりそこに捨てられていた。瓶は割れ、大粒の梅がガラスの破片に埋もれている。つい一週間前、父から電話があったのを思い出した。「絵里華、今年も庭の梅がよく実ってな。母さんがお前のために、今年も梅干しを漬けたんだ。お前、小さい頃から梅干しが好きだったろ?種があると食べにくいからって、母さん、一粒ずつ種を取って、はちみつ漬けにしたんだ。仕事が忙しくても、飯はきちんと食べろよ。炊きたてのごはんに、母さんの梅干しがあれば、それだけで十分だって、お前、昔はおかわりしてただろ」あんなに手間
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