聖月暦六〇〇〇年八月七日。その日はカルミアがこの世に生を受けて一年の記念日だった。外では蝉が鳴き、容赦ない日照りで滝のように汗が流れていく。夏木立は炎陽に晒され、黒々とした影を地面に刻んでいる。洗濯日和だとリコリスは庭の物干し竿に干したシーツをぱんぱんと叩いた。月日は流れ、カルミアはよちよち歩きができるようになっていた。ベッドルームを歩き回ってみたり、ダイニングで仕事をしているヒースのもとに行ってみたりと忙しなく歩き回っている。 「あ」 が、よく転(こ)け、よく泣く。今もダイニングにいるヒースの元へ行こうとして、部屋の敷居に蹴躓いて転んだ。うわああああん、とカルミアの鳴き声が部屋の中を抜け、夏風に乗って蒼穹へと響く。 「大丈夫か、カルミア。痛かったな」 ヒースは作業の手を止めて立ち上がると、泣き喚くカルミアを抱き上げる。慣れたふうにヒースはカルミアをあやしながら、怪我の有無を確認していく。特にどこかを痛めている様子はない。ただ単に転んだことに驚いただけのようだ。 「どうしたの、カルミア。また転んだの?」 洗濯物が山のように積まれた籐の籠を抱え、リコリスが勝手口から家の中へ入ってきた。彼女はその場に籠を置くと、ヒースの腕の中にいる愛娘の頭を撫でた。 「そういえば、カルミアももうだいぶ髪が伸びたね。そろそろ結べるんじゃないかな」 リコリスはベッドルームへ戻るとベッドサイドテーブルの中を漁る。前にマルシェで買った焼き菓子のラッピングに使われていたリボンが可愛らしくて、捨てるには忍びなく取っておいた覚えがある。 あった、と 目的のものを引っ張り出すと、リコリスはダイニングへと取って返す。リコリスは自分と同じ色の愛娘の細くて柔らかい髪をそっと束ねると、淡いピンク色のリボンを結んでやった。カルミアは何をされたのかわからなくてきょとんとしていたが、リコリスが手鏡を持ってきて見せてやると、きゃっきゃと笑った。 「小さくても女の子なんだなあ」 ヒースは腕の中の我が子を覗き込みながら感心する。隣のジョルジーニには息子がいるが、幼いうちから剣の玩具に興味を示していたと言っていた。男女でこうも違うものか。 今日はカルミアの誕生日だ。せっかくなら、カルミアの喜ぶものを贈ってやりたい。それならリボンはうってつけだと自分の思いつきにヒースは内心で鼻を高く
Última actualización : 2026-08-20 Leer más