押し殺した吐息が自分の唇からかすかに漏れるのを、彼は聞き逃さなかっただろうか? 男の肩へ回した腕に自然と力が入り、重なった身体の熱が、澪の中に入ってきた暖かいものを、より強く意識させる。 すぐ耳元の呼吸が、胸の近くで鳴る鼓動が、今夜だけはいつもと違っていた。 触れられるたび、皮膚より先に奥が熱を帯び、沈んでいく。「澪。」 耳元で名前を呼ばれ、澪はゆっくりと目を開いた。 男は彼女を見ていた。 求めている熱だけではなく、少し心配そうな色を携えながら、頬にかかった黒髪を指で払う。「無理、してないか?」 澪は一瞬答えすら忘れたが、すぐに首を横に振った。「……大丈夫ですよ。」 微笑んだはずなのに、うまく笑えない。 彼の手の温もりが、まだ頬に残っている。 その熱のなかへと全てを預けるたび、形にならない淡いものが、澪の内側に静かに押し寄せてくる。 分かる。 言葉にせずとも伝わる想い。 澪だからこそ理解できてしまう、その温もりの意味。……とくん、とくん。 澪の深いところ、その誰にも触れられない場所で、それが今また、温かく、優しく脈打った。 こんな想いをしたのは、もういつぶりだろうか。 夜の闇は深く、それでいて、何よりも愛おしかった。
Last Updated : 2026-08-12 Read more