All Chapters of 鮮紅令嬢は人生を謳歌したい~波乱万丈な人生に異国の皇帝を添えて~: Chapter 1 - Chapter 10

13 Chapters

第1話 婚約破棄

 「ルイーズ•エキャルラット、本日をもって貴様との婚約を破棄する」 栄誉あるリュミエール王国学園の卒業パーティー。 絢爛とした広間、色とりどりのドレスを纏った令嬢たち。この国の栄華を集めたような空間であった。 賑わいを見せていたパーティーは、その主役とも言えるリュミエール王国の第二王子であるヴィクトルの一言で、その場は時が止まったような静寂に沈む。 ヴィクトルはその端正で美しい顔立ちをひどく歪めている。怒りを噛みしめ、外に出さないよう耐えるように。  王子の怒号に驚いた者たちは、王子を一瞥してから彼の指さす方を向く。 彼の怒りの矛先は今はまだ彼の婚約者であるエキャルラット侯爵の娘、ルイーズだ。 ギャラリーにいたのはルイーズを嘲笑う者、または憐れむ者。しかし、その中には彼女を憂う者はいなかった。 お世辞にも綺麗に結われているとは言い難い金髪の三つ編みに、丸眼鏡。その身に纏っているのはバラのように上品で華やかな赤色をしているドレス。 一見おとなしそうな見た目でもその背筋はスラリと堂々と伸ばしている。 そのひどくアンバランスでこの場に相応しくない装いに、ヴィクトルはさらに青筋を立てる。 その渦中にいる彼女はと言うと苛立ちを見せるのでもなく、泣き出すわけでもなく、冷静だった。 例えとんちんかんな服装を着ていてもその姿勢はひどく優雅で気品がある。 「おい、ルイーズ。貴様何か言ったらどうなんだ?『社畜令嬢』と呼ばれるお前は俺の指示がなければ何もできないのか。」 怒りに震えるヴィクトルを横目にルイーズは扇子を盾に1つため息をつく。 怒りに震えるヴィクトルを見て何も思わない自分自身か、このような場で婚約破棄を宣言することの意味が分かっていないヴィクトルにたいする失望なのかは彼女自身にしか分からない。 婚約破棄を宣言する王子、それに対して何も思わない令嬢。  本来はめでたいはずの卒業パーティーが異様な空気に呑まれていく。 「はぁ……、了解いたしました。それなら後日、王家でしっかりと話し合いましょう。今日はせっかくのパーティーなのです。私たちのせいで白けてしまってはいけませんでしょう?」 芯のある声が沈黙のなかをスッと通り抜けていく。鳥のようにか細くなく、かと言って獣のような下品な声でもない。 ルイーズは微笑みを浮かべながら一礼をしてこの場を去
last updateLast Updated : 2026-08-12
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第2話 黙ったままでは終われない。

「ああ、うるさいうるさいぞルイーズ。貴様は俺を怒らせるようなことしか言わない。おい、誰かこいつをつまみ出せ! こんなやつ国外追放にしてやる!」 ついに本格的に癇癪を起こしたヴィクトルは越えてはならない一線を越えてしまった。 国外追放、それは王国の中にある刑罰の中でも最も重い罰。それを一人の癇癪ごときで下そうとしているのだ。 会場はさらに緊張が高まり、ピリついた空気が広がる。みなが息をひそめる中、ルイーズは変わらず堂々と前に出た。「ヴィクトル殿下、ご自分がどんな発言をしているのかよく分かっているのですか?」  眉間にしわを寄せながらその笑みは崩さないルイーズ。しかし、彼女の問う声は低く、そこには確かに怒りが込められている。「なぜ俺がそのようなことを考える必要がある。全く、本当に姉弟揃って口うるさいところはそっくりだな。あぁ、弟も追放するか。あいつも目障りだからな」 その時、確かにルイーズの中で何かが切れる音がした。 会場のざわめきはさらに高まりをみせる。ヴィクトルの横暴さに眉を潜めるものがほとんどだが、一部だけ顔を青くする。 一部は気づいているのだ。ルイーズの様子が明確に変化していることに。 ミシミシとルイーズの持つ扇子が音を立てて今にも割れそうになっている。 それに気づかぬ者は表立って感情の変化を見せないルイーズを冷酷だと思い、近くにいる者とひそやかに非難する。「本当にあなたはいつまでもおんぶにだっこで子供みたいなお方ですこと」 兵士たちの手がルイーズの身柄を拘束しようと伸ばされる。しかし、その腕はついぞ届くことはない。「これはいったいどう言うことだ、ヴィクトル」 威厳のある低い声でそう問いかけるのはこの国の国王である。 さすがのヴィクトルも国王を前にして横柄に言葉を発することはない。「そ、それはルイーズが……」「ほう、この騒ぎルイーズ嬢も関係しているのか。お前に聞くよりも彼女に聞く方がよさそうだ」 先程の態度はどこに言ったのか小動物のように縮こまるヴィクトルはうまく言葉を紡げない。 物言えぬ息子を無視してルイーズに振り替える。国王はルイーズの様子に一つため息をつく。ルイーズは笑みは浮かべているものの内側に宿る怒りを隠しきれていないのだ。 「ルイーズ嬢、主でよければ私にこの騒ぎの全容を報告せよ」「御意にございます。この
last updateLast Updated : 2026-08-12
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第3話 求婚してきたのは異国の皇帝!?

≪ルイーズ視点≫   や、やってしまった。どうしよう、もう取り返しがつかないよ。 いつか自分でもやらかしてしまうかと思っていたけど、ついにヴィクトルの顔を殴ってしまうとは。 しかも、綺麗な顔面ストレートを決めるだなんて。二発決めちゃったよ、どうしよう。 このパーティーが始まる前の書類仕事による疲労ですべてを投げ出したいと思っていた私に予想できただろうか、いや、できない。「ひ、ば、化け物」 「王子をあんなに容赦なく殴るなんて。何をしていたらできるんだろうな。」 当たり前のことかもしれないけど、周囲から刺さる視線がとても痛い。恐怖する者が多くを占めているけど、令嬢の何人かは眉をひそめているわね。「暴力に走って下品ですこと。私たちには到底できない真似ですわね」 「やはり、エキャルラットの者たちはみな野蛮なのね」 彼女たちの視線の意味はよく分かる。上位貴族とはいえ、一介の貴族令嬢がどんな理由であれ王子を殴ったもの。不快なものを見るような視線を向けたくもなるわ。 でも、私は私のした選択を別に後悔していない。それどころかむしろ、考えうる中で一番ましだった結果だと思える。 あの時、ジョセフが――私の弟が理不尽な理由で、国外追放だなんて過分な処分を下されるのはどうしても耐えられなかった。 タイミングよく国王陛下がいらっしゃらなかったら、多分もっと過激な手段を用いてしまっていたのだろう。 そして、本当に国外追放あるいは極刑に処されてしまうだろう。 そう考えるだけで本当に寒気がする。私の人生を棒に振るのは構わないけど、家族の人生まで棒に振るのは嫌だ。「お、お前父上がいくら許可したからと言って無礼だぞ!やはり、お前のような奴はこの国にはおけない。え、衛兵、この女をつまみ出せ」 「し、しかし、ヴィクトル殿下……」 衛兵が私に震えながら近づこうとするが、彼らの動きはのろまでキレがない。故に避けることなど、私にとって造作もないのだ。そもそも、ほとんどの衛兵たちは棒立ちのままだし。「な、なぜ動かぬのだ。こののろまどもが……!」  「殿下、今ここにいる人間の中で一番偉いのはあなたではなくてよ。その人間が沈黙を保っているのだというのに、衛兵がろくに動けるわけないでしょ?」 その証拠にほら、小刻みに震えながらも頷く衛兵が何人もいるでしょう?  国王もため息
last updateLast Updated : 2026-08-18
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第4話 馬車の中での対話

 なぜ、今私は馬車に揺られているのだろうか……。 しかも、先ほど求婚してきたフリーギドゥム皇帝、イヴァンの馬車だ。  彼に求婚されてからしばらくの記憶がない。 しばらくと言っても、ここ一時間か二時間ぐらいのことだけど。 何か変なこと、起こっていないよね? 「緊張でもしているのか?何、そう縮こまる必要はない。俺の隣にでも来るか?」「いいです。ただでさえ、馬車に乗せてもらっているのだから。そこまで甘えることはできません」「そうか……」って捨てられた子犬のように肩を落としているがそんなに悲しかったのか? 彼が自分自身の馬車なんだから、自由に過ごすのはよくわかる。 でも、私は乗せてもらっている立場なんだからそんな失礼なことできるわけない。 そもそも、異国の皇帝と馬車に揺られているという異常な状況で安らぐことなどできるわけがない。 ましてや、『冷血皇帝』と恐れられる男の馬車なのだ。 何か粗相があったとしたら、今度こそ私の人生は終了するだろう。「わ、分かりましたわ。少しはしたないですが、足を伸ばしてもいいですか?」「あぁ、別に作法とかを俺は気にせぬ。古臭い慣習などあったって無駄だからな」  窓の外を懐かしむように見つめながら、そう零す彼はとても冷酷には見えない。 本当に彼は『血も涙もない冷酷さ』を持つとされる男なのだろうか?「俺をそんなに熱烈に見つめてどうした?」 き、気づかれていた。 ただ何となく目の前の彼が気になってしまったから、見ていただけだけど。しかも、熱烈だなんて。 私、そんなに彼を真剣に見ていたの? そんな不毛なことを考えながら恐る恐る足を伸ばす。 足が向かい側に座る彼の横に当たらないのか不安だったけど、全然大丈夫みたいね。 今日はヒールを履きっぱなしだったし、少し足が疲れたからもう少し伸ばそう。「そういえば、レディはエキャルラット家の
last updateLast Updated : 2026-08-19
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第5話 渇望、それは人生を謳歌すること

「はぁ、渇望ね……」 部屋の中に戻り、ろくに着替えもしないまま、ベッドの上で寝そべりながらイヴァンに言われたことを思いだす。 渇望とはいっても、色々な種類があるわよね? 好きな人に愛されたいとか、お金持ちになりたいだとか。 でもきっと彼が言いたいことはそういうことじゃないし、私自身もそうとは思わない。 現にヴィクトルに婚約破棄された今も、悲しいという負の感情よりも『これからどうしよう』と言った戸惑いの方が強い。「姉さん、帰ってきているのか? いるなら返事をしてくれ」 ドアをノックする音で思考の海から急激に意識が現実へと引き戻される。「入ってもいいわよ。……あら、ジョセフ。あなたまだ顔赤いじゃない。熱は下がっているみたいだけど」 とっ散らかった部屋を適度に整頓してドアを開けるとそこには弟であるジョセフが立っていた。 彼の頬は赤く、熱にでも浮かされているのか心なしかぼんやりとしている。 こんな状態で私の部屋にまで来たのか。歩いてくるのだけでも辛かっただろうに。 とりあえず、部屋の中にある椅子に座らせる。 ドアの前にいた時よりも表情は険しいものではなくなっている。「ジョセフ……」「もう、大丈夫だ。それよりも姉さん、ごめん。俺、あのバカ王子止められなかった。婚約破棄なんて姉さんの顔に泥を塗るような真似をするほど愚かだなんて」 風邪を引いて今日のパーティーを欠席したジョセフにも情報は行っていたのか、がっくしと言わんばかりに頭を下げる。  元から真面目過ぎるというか、マメな性格ゆえに情報を重くとらえてしまうことが多い。 しかし、今の狼狽具合は凄まじいものだと思う。 やっぱり風邪を引いてしまっているのが余計にそうさせてしまっている。 多分生半可なことを言っても絶対に引き下がらないからな。 こういう手段を使うのはあまりよくないけど仕方がない。「顔をあげなさい、ジョセフ。あなたがあの男に関して謝る必要はない。謝るならこっちの方よ。――だって、私殿下のことをぶん殴ってしまったもの」 淡々と彼に告げると、天を仰ぎ見るようにため息をつく。  本当はこんな励ましの中で、言うつもりは全くなかった。  でも、仕方がないのだ。 きっとあのまま曖昧な態度でジョセフに何か言っても顔をあげることはない。 頑固なジョセフのことだ。 このままでは
last updateLast Updated : 2026-08-20
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第6話 予期せぬ夜の来訪者 1

 そう胸を張っても、一つ重要な問題があることを思いだす。 他にも問題は山積みだけど、彼とどうこうするうえで重要な問題だ。 私、ルイーズ・エキャルラット、上流とは言え一介の貴族令嬢。 彼、イヴァン・キリーロヴィッチ・ヴォルコフ、私にとって異国の皇帝。  そう簡単に連絡が取れるわけないし、連絡手段が分からない。『また、会いましょう』って言っていたから、会う意思があるのはよく分かる。 でも、どこに行けば会えるって言うんだ。「エキャルラット嬢、今お時間はございますか?」  どこか聞き覚えのある声が窓の外から聞こえるような……。気のせいよね? でも、確かに窓のガラスはノックするリズムと同じタイミングで揺れているから、外に誰かいるのは間違いない。 まさか敵襲?!……なわけないよね。もしそうだったとしたら、片腹痛いわ。 敵陣にノックするなんてどれだけ余裕なの?ってツッコみたくなる。 でも、煽り目的だってこともあり得るから、警戒しておくに越したことないか。「あら、あなたはヴォルコフ閣下の馬車に乗っていた……」「覚えていらっしゃったのですか?それに今はこのような鳥の姿でも分かるのですね。」 「今日会ったばかりではないですか。そんな簡単に人のことを忘れることはありませんよ。確か、あなたはルカさんでしたか?」 恐る恐る窓を開けると、そこには夜と同化しそうなほど黒いカラスが一羽。 そのくちばしから出る声は間抜けた鳴き声ではなく、成人男性の落ち着いた声そのものだ。 「あっておりますよ。私のことを見つめてどうかなさいましたか?」 憑いているって感じはしないし、なにか特別な種の鳥には見えない。 と言うことは……「変化魔法《トランス》ですよね?精度が高くて羨ましいと思って。」「ありがとうございます。おっしゃる通り、変化魔法《トランス》で
last updateLast Updated : 2026-08-21
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第7話 予期せぬ夜の来訪者 2

 あぁ、本当に馬鹿な人たち。ここが何家の家か存じ上げていないのかしら? 王妃は随分と箱入りに育てられていたみたいだけど、ここまで馬鹿だとは思わなかった。いっそ、憐みも感じてくるわ。 「み~つけた♪ 隠れられると思ったら大間違いですよ?」「な、どうしてここに?! さっきまで、自室にいたはずじゃないのか!」 私が庭の茂みからひょいッと顔を出すと、お化けでも見たような顔で逃げ出そうとする衛兵たち。本当に耐え性がないわね。 あなたたちいつも魔物と戦っているのでしょう? 貴族の小娘を見ただけで泣くなんて軟弱すぎる。 そんなに泣くほど私が怖かったのだろうか? 逃げ出したものの中には――お漏らしをした者もいる。 ちょっとやめてよ、不法侵入しておいて人の庭先を汚すだなんて。「で、でも、無防備な姿で一人、のこのこと出てきたのは俺たちにとって好都合だ!」「あぁ、そうだな。なんて言ったって相手は一人だ。どうにでもなる。」 随分と舐められたものね。彼らは知らないのかしら? 私が卒業パーティーで王子に顔面ストレートを決めたこと。 そして、私が『社畜令嬢』以外にも二つ名を持っていること。 まぁ、生まれたての小鹿みたいにプルプルと震えているところを見る限り知らないわけじゃなさそうだけど。「王妃の可愛い可愛い兵隊さん。悪いことは言いません。早急にこの屋敷から出ていくことをお勧めします。皆さんが今やっていることは不法侵入ですよ~」 私はできるだけ殺気を抑えながら、子を諭すよう彼らに穏やかに告げる。 これで去ってくれるのが一番いいのだけれど。「へ、なんでお前の言うことを聞かねばならないんだ」「そうだ、傲慢なことを言っているみたいだが、俺たちにお前は手を出せないはずだ!」 やっぱり、こう言ってもダメだったみたい。 なんとなく予想で来ていたから、残念だなんて思わないけど。 さっきまでびくびく震えていた癖に、今はもうふんぞり返る余裕まで出てきている
last updateLast Updated : 2026-08-22
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第8話 私の幸せは私が決める

「私が不幸になると言うのは一体どういうことですか?」 イヴァンの部下であるルカにそう告げられて、一番最初に気になったのがそこだ。 婚約破棄される不名誉なお前は相応しくないとか、小国の女が我ら帝国に合うわけがないとか。 そう言う観点から『求婚を受けないでください』と言うのはよく分かる。 でも、彼はそうとは言っていない。「皇帝陛下が『冷血皇帝』と恐れられていることを知っていますよね?」「それは勿論、一貴族として世界の情勢を把握していて当然ですわ。もしかして、関係あるのですか?」「はい、その通りです。しかし、その一端に過ぎないと言いますか……。」]  そう言うと彼は気まずそうに私から視線を逸らす。その様は少し気恥ずかしそうだ。まるで、思春期の男性が魅惑的な女性を見て恥ずかしがるような。 なんとなく『冷血皇帝の奥方と言う色眼鏡で見られる』という理由だと思っていた。 でも、あの様子じゃそうではなさそう。 私が想像しているよりももっと内密な理由なのかしら?「あの方はすごくモテるのです。特にいわゆる背伸びしがちなあなたぐらいのお嬢様方に。」 なるほど、そういうことね。理解したわ。 皇帝陛下はすごく顔が美しい。透き通るような白い肌、雪のように眩い白銀の髪、氷のような青い瞳。   ――神の手で作られた彫刻と称されるほどだ。 つまり、今すごーく恥ずかしそうにしている彼はこう言いたいのか。 『あの方がほかの女性に目移りして、あなたのことを蔑ろにしてしまうのかもしれない』とか、『ほかの女性があなたに嫉妬して、あなたを不用意に傷つけるかもしれない』と。「フフ、実にばかばかしい戯言を吐かれるのですね。」「た、戯言などでは……。」 私のことをガラス細工のように儚いと思っているの? 伊達に私は|ヴィクトル《ぼんくら王子》の婚約者をやっていたわけじゃないのよ。 しかも、息子にはちょーぜつに甘い王妃付きのね。「い
last updateLast Updated : 2026-08-26
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第9話 真夜中の対談、別名:怪物たちの顔合わせ ≪ルカ視点≫

 お、おっかなかった~、あのご令嬢! 誰だよ、『社畜令嬢』であんまり目立たないって言った奴!とんでもねー肝っ玉令嬢じゃないか。 俺の名前はルカ。 フリーギドゥム帝国現皇帝であるイヴァン様に仕える忠実な僕だ。 本来なら、皇帝陛下に仕えられるほどの身分ではないし、近づくことも許されないだろう。 だけど、『変化魔法《トランス》』の腕を買われて、側近として仕えている。 先ほどまで、エキャルラット家に訪問していた。ただ偵察していたんじゃない。ちゃんと理由がある。 ――『社畜令嬢』と呼ばれて、蔑まれているルイーズ嬢。噂通りなら気が弱そうで容量が悪そうなご令嬢。 そんな彼女に『冷血皇帝』であるイヴァン様の奥方が務まるとは思えなかったからだ。  「まさかあの『鮮紅令嬢』が彼女だなんて誰も思わないだろ」 鮮紅令嬢――通称、リュミエール王国にいると言われる戦闘の天才。イヴァン様がずっと想い続けている存在。 それが一体誰のことを指して、本当に存在するのか、何もわかっていなかった。 俺も戦争で様々な国を訪れて、戦った兵士たちに口々に言われるそれが虚構であるとしか思わなかったんだ。 だからこそ、卒業パーティーで国王が彼女を『鮮紅令嬢』と呼んだ時は本当に衝撃で思わず体が固まった。 そして、その後ヴィクトル――あのぼんくらを殴ったときには、もう乾いた笑いしか出なかったね。  「確かにあの立ち振る舞いは普通の令嬢ではないわな」 彼女が歩くとき足音が全くしないのだ。 たとえいきなり求婚されて思考がショートしていても、豪奢なドレスを着飾っていても。どんな時でもだ。 そんな諜報にでも使うような技術、普通なら持っていないしできない。「まあ、今帝国にいるどの令嬢がイヴァン様の妃になるぐらいなら、彼女が妃になった方がいいなぁ。変な真似はしなさそうだし」 おっかない人だったけど、人への敬意を忘れないところは彼女の美徳だと思う。そう言うところがイヴァン様の心の柔いところに刺さったのだろう。 ぜひとも、彼女の前では年若な乙女みたいな対応をするイヴァン様には頑張ってほしい。*「イヴァン様、ただいま戻りました。……あの、一体何が起こっているんですか?」「ん? あぁ、我々がこれからの交渉で優位に立つための切り札をと思ったが、効果がありすぎたな」  
last updateLast Updated : 2026-08-27
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第10話 両親の帰宅と、決意の告白

「お帰りなさいませ、お父さまお母さま」「父上、母上、よくぞ戻られました」 あの卒業パーティーから一夜明け、父と母が3年ぶりに我が家に帰宅した。 昨日、就寝する前にいきなり『伝達魔法《トランスミッション》』が飛んできたときには椅子から横転した。 真夜中だというのに大きな音を出してしまって、ジョセフにはびっくりさせちゃったかな。「ただいま戻ったぞ!! かわいい我が子たち、元気に過ごしていたか~」「ちょっと、あなた。汗まみれの状態でジョセフにくっつかないの」「大丈夫ですよ、母上。ただ、ちょっと、抱きしめる力が強くて、苦しぃ」 うん、ぎゅ~っていう可愛らしい音じゃなくて、関節とかが締まっていそうなギュギュって明らかになっちゃいけない音がしているからね。 ジョセフが筋肉質だからいいものの、そうじゃなかったら間違いなく彼が爆散していそうだ。 自分の子供が好きなのはいいけど、もう少し自分の力の強さを理解してくれ。「お父さま、そのままだとジョセフが息できなくなってしまいます。もう少し手心を」「そうだな、すまんすまん。ジョセフ大丈夫か?久しぶりに会えたのが嬉しすぎて思い切り抱きしめてしまった」 ハハハと快活に笑う父は3年前我が家から出立したときよりも、少しだけ隈が濃くなった。 3年間、父と母は国境に駐屯している兵士たちの底上げ訓練を行っていた。 最初は二人とも私たちの成長を見守りたいからと言って断っていた。 しかし、王命と言われてしまえば従わざるを得ない。 なかなか連絡を取ることができなくなるほどの激務。知ることもままならない我が子の様子。 自分の子供をかなり溺愛している二人にとってこの3年間は辛いものだったと思う。 「フフフ、またこういう光景が見れてお母さま、嬉しいわぁ。あのメギつ……コホンコホン。王妃様から婚約を打診されたときは二度と見られないことを覚悟したもの」 「そうですね。私も思っていませんでした。……ただ、お母さま。ごめんなさい」 「どうして謝る必要があるの? ……もしかして、例のことかしら?」 どう見ても、お母さまが怒っているからです。 いつものようにニコニコと微笑みかけているけど、目の奥が笑っていない。 そうだよね。怒られるに決まっている。 どれだけダメな奴でも一国の王子であるヴィクトルに婚約破棄されてしまったもの。
last updateLast Updated : 2026-08-28
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