ぼんやりしているうちに、陶器の破片が手首をかすめ、たちまち血があふれ出した。直哉の目に、「またか」と言わんばかりの苛立ちがよぎった。しばらく私を見ていたかと思うと、突然大股で近づいてきて、無表情のまま私を浴槽へ放り込んだ。冷水が全身に染み込んだ瞬間、直哉が何をするつもりなのかに気づき、私は慌てて身をよじった。「直哉!私、妊……んっ!」「黙れ」言葉は乱暴に喉の奥で押し潰された。直哉は私の手首を頭上で押さえつけ、憎しみに満ちた目でじっと見下ろした。「俺に抱かれたくて、薬まで盛ったんだろ?これだけしても、まだ満足できないのか?」信じられずに固まった私の胸に、あまりにも馬鹿げているという思いがこみ上げた。どこからそんな力が出たのか、自分でも分からない。直哉を振りほどくと、手当たり次第に物をつかみ、我を忘れて投げつけた。「出ていって!今すぐ出ていって!」直哉はよけようともせず、まるで慣れ切っているかのように、無感情なまま受け止めていた。私が暴れ終えると、額から流れる血を手で拭い、何の未練も見せずに冷ややかに身を引いた。「お前が隠し撮りした動画は、データを復元してある。マスコミに渡すなり、広告にして街じゅうにばらまくなり、好きにしろ。ずっと俺をつけ回して手に入れ、脅しに使おうとしていた資料も、机の上のUSBメモリに入っている。どう使おうと勝手だ」私がこれで引き下がるはずがないと分かっているからこそ、私にできる報復の手段を、自ら一つずつ差し出したのだ。少なくとも、それなら自分で引き受けられるから。直哉は私を恐れていた。その事実をはっきり悟った途端、私は涙をこぼしながら笑った。「直哉、それならどうして、私と離婚しないの?」ドアへ向かっていた直哉の足が止まった。馬鹿げたことを聞くなとでもいうように答えた。「お前が応じるとでも?紗月。この先一生、お前につきまとわれる運命なら、もう受け入れてる」胸に残っていた最後の希望が、その瞬間、完全に砕け散った。「だから頼む。莉奈には手を出すな」その言葉と同時にドアが激しく閉まり、私はいつまでも我に返れなかった。直哉の口から「頼む」という言葉を聞いたのは、これで三度目だった。最初は、18歳のとき。直哉は本家の仏間で三日三晩、背筋を伸ばしたま
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