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第3話

Author: ドウドウ
結局、私は救急車で病院へ緊急搬送された。

妊娠4か月では、薬を飲んだだけで中絶できるはずもなかった。そこへ、さっきの直哉との激しい争いが重なった。

突然の大出血だった。

担架で救命処置室へ運ばれる途中、莉奈を抱えて病院に駆け込んできた直哉とすれ違った。

まくり上げられた袖から、腕を埋め尽くす無数の傷痕がのぞいていた。

一瞬、感慨めいたものが胸をよぎった。

あの頃、産後うつになった私に二度と自分を傷つけさせまいと、直哉は私の何十倍もの傷をその身体に刻んだ。

当時の直哉の愛は、私以上に狂っていた。

その後、直哉が立て続けに7度も浮気すると、私は自分を傷つけ、泣き崩れ、取り乱し、ありとあらゆる手を使った。

だが直哉は、そのたびにもっと残酷で常軌を逸した方法で自分を傷つけ、私を折れさせた。

私たちは、自分を賭け金にして相手と駆け引きをする、病的で極端な似た者同士のギャンブラーだった。

なのに、今回はどうして今までと違うのだろう。

答えが出ないうちに、直哉は莉奈を抱えたまま医師の前へ駆け寄った。

「先生!早く助けてくれ!腹を痛がってるんだ。すぐに診てくれ!」

医師は焦った様子で直哉を押しのけた。

「どいてください!少しお腹が張っているだけでしょう、邪魔をしないでください!高梨社長が今、命に関わる状態なのが分からないんですか!」

直哉は医師の視線を追ってこちらを見た。

私だと気づいた瞬間、明らかに身体をこわばらせた。

次の瞬間、直哉は私の手首を乱暴につかんだ。燃えるようなその目は、私の身体に穴を開けそうなほど激しい怒りに満ちていた。

「紗月、今度はこんな手で俺を屈服させるつもりか?まず莉奈の写真をばらまいて、こんな状態にまで追い込んだ。緊急事態になれば、いちばん近いお前の病院へ駆け込むしかない。そこまで計算したうえで、最後は仮病を使い、堂々と莉奈の治療を遅らせるつもりだったのか?」

直哉は歯を食いしばり、無理やり笑みを浮かべた。

「よくもそこまで周到に仕組んだな」

ただでさえ大量の血を失っていたところを強く引かれ、目の前が何度も暗くなった。

医師は顔色を変えた。

「仮病なんかじゃありません!大出血したのは、妊……」

その言葉は、直哉が勢いよく床に膝をついた音にかき消された。

「これで満足か?今度こそ莉奈を診てもらえるのか?」

私は呆然と直哉を見つめた。

目の前にいる男は、たとえ天が崩れ落ちても決して膝を屈しなかった記憶の中の直哉とは、まるで別人だった。

私が何も言わずにいると、直哉はしばらく黙ったあと、勢いよく額を床に打ちつけた。

鈍い音が響き、顔を上げたときには、額から血がにじんでいた。

「これなら、どうだ?」

今にもあふれ出しそうなほどの憎しみと嫌悪を宿した目を見た瞬間、ようやく分かった。

直哉は私を追い詰めているのだ。

私の直哉への気持ちに賭け、自分を切り札にして、これまで何度も繰り返してきたように私と駆け引きをしていた。

ただし、今度は別の女のために。

胸が詰まり、息ができなかった。

血を失いすぎたせいなのか、胸が痛むせいなのかも分からなかった。

「分かった……分かったから……」

直哉の声が震えた。

次の瞬間、何の前触れもなくポケットから折り畳みナイフを取り出し、逆手に持つと自分の胸へ突き刺した。

血がたちまち服に広がった。

直哉は低くうめき、懇願するような、絶望に満ちた声で訴えた。

「紗月、俺の負けだ。俺に何をしてもいい。命だって好きにしていいから……」

全身から一気に血の気が引き、私は目を閉じた。

「直哉。もし今日の私が仮病じゃなくて、本当に死にかけていたら、どうするの?」

直哉は一瞬固まったが、すぐに答えた。

「俺も一緒に死ぬ」

それが本心であることは、私にも分かっていた。

だからこそ、いっそう虚しかった。

私は苦しげに口元をわずかにゆがめ、医師へ目を向けた。

「先に莉奈を診てあげてください」

私は、この病院の経営権を一手に握っていた。

よほど追い詰められていなければ、直哉が危険を冒して莉奈をここへ連れてくるはずがなかった。

私の言葉を聞いた直哉は明らかに息をのみ、すぐに安堵した。

涙が床へ落ちた。

立ち上がると、直哉はかすれた声で私に言った。

「ありがとう」

聞き慣れない言葉だった。

今の直哉が、私の知っている直哉とはまるで別人に見えるのと同じように。

意識が途切れる直前、莉奈が直哉の肩越しに半分だけ顔をのぞかせ、こちらへ向かって口元をわずかにつり上げるのが見えた。

挑発と得意げな笑み。

勝者だけが見せる余裕だった。

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