「黒瀬君、川村さんがまだグラウンドで日にさらされたままだけど、本当に放っておいていいのか?」大学一年生を対象に、夏休み中に行われる宿泊型の夏季研修だった。責任問題になることを恐れた担当教員の吉岡先生は、研修運営会社から派遣されたコーチの遼介を不安そうに見た。遼介はペットボトルの蓋を開けながら、気にも留めずに答えた。「放っておけばいい。俺が普段から甘やかしてきたせいで、すっかりわがままになったんです。ハーフマラソンを走っても息一つ乱さないようなやつが、30分くらい姿勢を崩さず立っていたところで、どうにかなるわけがないでしょう」そう言って、里穂の口元へ水を差し出した。「ゆっくり飲め。むせるぞ」里穂はマットにもたれ、弱々しく目を潤ませた。「黒瀬コーチ、碧さん、私に怒ってるんでしょうか?やっぱり、夏季研修の参加免除許可書は返したほうがいいですよね。私、まだ頑張れますから」遼介はわずかに眉をひそめたが、その声はますます優しくなった。「返す必要なんてない。あれはもともと、お前みたいに子どもの頃から身体が弱い学生のためのものだ。碧は丈夫なんだから、少しくらい日に当たったほうが、甘ったれたところも直る」私は宙に浮かびながら、その光景を静かに見つめていた。ふとグラウンドへ目を向けると、そこには私の遺体が横たわっていた。通りかかった野良猫が私の手の匂いを嗅ぎ、驚いたように逃げていった。動物でさえ、それがもう命のない身体だと分かっていた。けれど、5年間付き合ってきた恋人には分からなかった。遼介は、私が死んだふりをして気を引こうとしているとさえ思っていた。眼下では、女子学生たちが集まってひそひそ話していた。「碧って、ほんと面倒くさいよね。黒瀬コーチは規則どおりに対応しただけなのに」「そうそう。里穂はあんなに顔色が悪いのに、どうしても免除許可書を取り返そうとしてたんでしょ」「さっき倒れたときも、すごくわざとらしかった。どう見ても演技だよ」それを聞いた吉岡先生も、同意するように頷いた。「最近の学生は、恋人がいるからといって、何をしても許されると思っている。研修を遊び半分に考えて、大学を自分の家と勘違いしているんだ」吉岡先生は遼介のそばへ行き、その肩を軽く叩いた。「黒瀬君、今回の対応は間違っていなかったよ
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