耳の奥で、激しい耳鳴りがはじけ、顔から一気に血の気が引いた。花嫁の肩に刻まれた、見覚えのあるムクゲの花のタトゥーから、目を離せなかった。あれは、親友の夏菜が恋に傷ついていた頃、私がいくら止めても聞かず、左肩に入れたものだ。どれほど尋ねても、夏菜は自分の心をかき乱していた男の名を明かそうとしなかった。覚えているのは、あのとき泣きながらこう言ったことだけだ。「何か1つでも、つかんでいたかったの。依織には何もかもある。手に入らない人を愛する痛みなんて、わからないよ」そして今、ようやく意味を知った。夏菜が手に入れられずにいた相手は、槙人だったのだ。足元がぐらりと揺れた。全身から力が抜け、私は膝から崩れ落ちかけた。この3年、私の心が崩れるたび、夏菜はすぐにメッセージを返して慰めてくれた。それでも、会おうとはしなかった。遠方への長期出張で忙しく、身動きが取れないのだとばかり思っていた。まさか、彼女こそが3年前、私と向き合うくらいなら、自ら顔を傷つけることを選んだ女だったなんて。心配そうな店員の視線を振り切り、私はよろめきながら式場へ駆けた。車を降りた途端、槙人の友人、青木圭吾(あおき けいご)の声が聞こえた。「依織にバレてもいいのか?」槙人は少し黙ってから、低く答えた。「夏菜の顔は依織のせいで傷ついた。だから俺が夏菜と結婚して償う。それが一番いい。依織のほうは……これからも、みんなでうまく隠してくれ」圭吾は槙人の肩を軽く叩いた。「もちろんだ。あのとき依織があそこまで追い詰めなければ、夏菜だって依織をこれ以上刺激しないために、自分の顔まで傷つける必要はなかったんだ。結局、やりすぎたのは依織のほうだよ」私が生活を支援してきた学生、小野寺梨乃(おのでら りの)も、迷いなく口を挟んだ。「ご安心ください、御影先生。私たちがちゃんと話を合わせます。しばらくは奥様と、心置きなく新婚旅行を楽しんできてください」そう言うなり、梨乃は慣れた手つきでスマートフォンを取り出し、私にメッセージを送った。【依織さん、御影先生は数日間、研修医の臨床指導で病院に泊まり込むそうです。安心してください。先生のことは私が見ています。よそ見1つさせず、まっすぐ帰っていただきますから】こらえきれなくなった涙が
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