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第3話

Author: ことづて
私だと気づいた瞬間、槙人の顔色が変わった。反射的にこちらへ1歩踏み出し、唇をわずかに動かした。

けれど、最後まで言葉にはならなかった。

私は唇をかすかに歪め、夏菜へ目を向けた。

「夏菜も、悪いのは私だと思ってる?」

夏菜は青ざめ、ウェディングドレスの裾を強く握った。

私は、夏菜が着ているウェディングドレスを見つめた。それは、私もデザインに携わったものだった。

自分が式でそれをまとう姿を、数えきれないほど思い描いてきた。

夏菜に祝われ、見守られながら、槙人の花嫁になる自分を。

けれど今、そのドレスを着ているのは私ではない。槙人の花嫁になったのも、私ではなかった。

「依織、ごめん。私、ただ……」

夏菜は目に涙を浮かべ、どうしていいかわからない様子で弁解しようとした。

「ただ、何?親友の婚約者を奪わずにはいられなかったって?

恥知らずにもほどがある!」

押し込めていた怒りも、悔しさも、一気に噴き出した。我に返ったときには、私の手が彼女の頬を打っていた。

夏菜の体がびくりと震え、顔にわずかに残っていた血の気まで引いた。

槙人は即座に駆け寄り、彼女を背にかばって怒鳴った。

「依織!何を言ってるんだ!」

だが夏菜は槙人を勢いよく押しのけた。「依織を怒鳴らないで!」

震えながら私の手を取ろうとする。その声は、こらえきれない涙に震えている。

「私が悪いの、依織。叩きたいなら叩いて。絶対にやり返さないから」

その指が触れた瞬間、吐き気がまた込み上げた。私は反射的に、もう一度手を振り上げた。

「触らないで!」

夏菜は、私が手を振り払った勢いで体勢を崩し、数歩よろめいた末、その場に尻もちをついた。

とっさに腹部を押さえ、苦痛に顔をゆがめた。

私が反応する間もなく、強い力で押しのけられた。

「依織!正気か!?自分が母親になれないからって、夏菜にまで同じ苦しみを味わわせるつもりか!

おまえを刺激しないために、夏菜は自分の顔を傷つけてまで3年も耐えた。おまえに夏菜を責める資格なんてない!」

槙人は理性を失ったように怒鳴った。その目には、むき出しの嫌悪しかなかった。そして夏菜を抱き上げると、一度も振り返らず足早に去っていった。

圭吾も、怒りを隠そうとしなかった。

「夏菜は妊娠してるんだぞ!もし腹の子に何かあったら、槙人は一生おまえを許さない!」

梨乃が向ける視線にも、あからさまな失望がにじんでいた。

「依織さん、いくら何でもひどすぎます」

私はその場に座り込み、槙人を追って去っていく彼らの背中を呆然と見送った。

体中から、何もかも抜き取られたようだった。

彼らは、忘れているらしい。私も5年前、槙人の子を身ごもっていたことを。

立ち上げたばかりの夏菜の事業を軌道に乗せるため、私は展示会のモデル役を引き受け、彼女と医療機器会社を何社も回った。

行く先々の接待で、冷えた酒を1杯、また1杯と飲み続けた。

その頃、私の中には、まだ誰にも気づかれていない命が宿っていた。

自分でもまだ存在に気づいていなかったその子を、私はそこで失った。

あのときの槙人は、苦しみのあまり我を失った。

夏菜を壁際へ追い詰め、わざとだったのかと声を荒らげた。

流産したばかりの弱った体で、それでも私は槙人を引き離した。夏菜に当たらないでと、必死に頼んだ。

最後には私をきつく抱きしめ、私たちにはまた子どもができると、槙人は涙声で何度も繰り返した。

首筋に落ちた彼の涙は、焼けつくほど熱かった。

それなのに今、彼は一度も振り返らない。

体の芯まで冷え、震えが止まらなかった。もう持ちこたえられず、私はその場に崩れ落ちた。

目を覚ますと、槙人がベッドのそばにいた。私の虚ろな目に気づき、彼は一瞬ためらった。

「担当医から、しばらく安静にするよう言われた」

白湯と薬を差し出し、私に飲ませようとした。

私は彼を見つめたまま、そっと手を上げた。熱い湯がすべて彼の手の甲へこぼれ、たちまち赤みが広がった。

槙人は眉を寄せたが、声も上げずに耐えた。だが私が起き上がって出ていこうとすると、手首をつかんだ。

「依織、怒りは全部俺にぶつければいい。でも今は、ここから出るな」

その手は、私の手首をきつくつかんだまま離そうとしなかった。

何かを知られるのを恐れているような、張りつめた顔だった。

そのとき、階下のリビングから陶器の砕ける音が響いた。

直後、聞き覚えのある怒号が上がった。

胸の奥がきゅっと縮んだ。私は槙人の手を振りほどき、階下へ駆けた。

そして、リビングの光景を目にした瞬間、全身から血の気が引いた。

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