四月だというのに、その日の雨は妙に冷たかった。朝から降り続いていた細い雨が教室の窓を白く曇らせ、二時間目が始まる少し前になっても制服の肩を濡らした生徒たちが「寒い」「髪終わった」「今日体育あるんだけど」と騒いでいる中、担任の佐伯先生が見慣れない男子生徒を連れて教室へ入ってきた。「はいはい、一回静かにしろ。聞いてると思うけど、今日からこのクラスに転校生が入る」その一言で、教室の空気が変わった。転校生。しかも男子。女子たちがわかりやすく背筋を伸ばし、男子たちは男子たちで「イケメンだったら面倒だな」などと勝手なことを言いながら前を見る。私もシャープペンシルを置いて、何となく顔を上げた。そして。――あ。と思った。別に、悪い意味ではない。ただ、教室のあちこちから上がった期待の空気が、ものすごい勢いでしぼんでいくのがわかっただけだ。「篠宮蓮です」転校生は低い声でそう言って、軽く頭を下げた。ぼさっと伸びた黒髪が目元にかかり、その奥には分厚い黒縁眼鏡、肌も少し荒れて見えるし、眉毛も妙に太い。背はかなり高いのに猫背だからか格好よく見えず、制服もサイズが合っていないのか肩回りがどこか野暮ったかった。少なくとも、少女漫画に出てくるような「教室中が息を呑むイケメン転校生」ではない。隣の席の美咲が、私にだけ聞こえる声で囁いた。「期待した私の二十秒返して」「勝手に期待しただけじゃない」「だって転校生よ? しかも四月の途中って、何かあると思うじゃん」「何かって?」「海外から帰ってきた財閥の息子とか、人気俳優がお忍びで通うことになったとか」「少女漫画の読みすぎ」「紗季は夢がないなあ」「朝から数学の小テストがある日に夢なんか持てないよ」小声でやり取りしているうちに、先生が座席表を見ながら教室を見回した。嫌な予感がした。なぜなら、私の右隣だけが空席だったからだ。「篠宮、お前は高梨の隣な。高梨、悪いけど教科書なんかまだ全部揃ってないから、しばらく見せてやってくれ」「はい」反射的に返事をした直後、美咲が口元を隠して笑った。「よろしく、世話係」「先生、そういう言い方してないから」私が睨むと、美咲は楽しそうに肩をすくめた。転校生――篠宮君は、周囲から向けられる好奇の視線を気にしているのかいないのか、無表情のまま私の隣へ歩いてきた。近くで
Última actualización : 2026-08-16 Leer más