文化祭まであと十七日となった日の放課後、二年三組の教室では、レトロ喫茶で使う衣装の最終確認が始まっていた。九条家内部で情報を流している可能性がある人物の名前まで浮上した翌日だというのに、美咲はそんな事情とはまるで無縁の勢いで私の机へ白いブラウスと葡萄色のロングスカートを置き、「はい紗季、今日は逃げないでね。実行委員なんだから、自分で着て動きにくくないか確認するところまで仕事だから」と言い切った。「待ってよ。私は撮影する側でいいでしょう。莉奈のほうがこういう衣装似合うし、美咲だっているんだから、わざわざ私が着なくてもよくない?」「その理屈、昨日のうちに却下したでしょう。莉奈はもう試着済み、私はサイズが違う、それに紗季は実行委員だから当日の動線まで確認しなきゃ駄目。あと、個人的には篠宮君の反応も見たい」「最後の理由が一番大きいよね?」「否定はしない」 悪びれもせず笑う美咲を睨んでいると、教室の後ろから莉奈までやって来て、「ちなみに男子側は篠宮君がモデルだからね。相沢は部活のミーティングあるし、衣装のサイズもちょうどよさそうだから」と、黒いベストを指先で揺らした。 その言葉につられて振り返ると、篠宮君は昨日自分で縫ったベストを手にしたまま、裾のあたりを真剣な顔で見つめていた。右側がほんの少しだけ上がっていて、本人はそれがどうしても気になるらしい。「高梨、やっぱりここだけ縫い直してもいい? 三ミリくらいずれてる」
Última atualização : 2026-09-01 Ler mais