All Chapters of 冴えない転校生を放っておけなかっただけなのに、正体は世界的財閥の御曹司でした: Chapter 21 - Chapter 30

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第20話 「その写真、他の男に見せたくない」冴えない転校生の嫉妬は隠せません

 文化祭まであと十七日となった日の放課後、二年三組の教室では、レトロ喫茶で使う衣装の最終確認が始まっていた。九条家内部で情報を流している可能性がある人物の名前まで浮上した翌日だというのに、美咲はそんな事情とはまるで無縁の勢いで私の机へ白いブラウスと葡萄色のロングスカートを置き、「はい紗季、今日は逃げないでね。実行委員なんだから、自分で着て動きにくくないか確認するところまで仕事だから」と言い切った。「待ってよ。私は撮影する側でいいでしょう。莉奈のほうがこういう衣装似合うし、美咲だっているんだから、わざわざ私が着なくてもよくない?」「その理屈、昨日のうちに却下したでしょう。莉奈はもう試着済み、私はサイズが違う、それに紗季は実行委員だから当日の動線まで確認しなきゃ駄目。あと、個人的には篠宮君の反応も見たい」「最後の理由が一番大きいよね?」「否定はしない」 悪びれもせず笑う美咲を睨んでいると、教室の後ろから莉奈までやって来て、「ちなみに男子側は篠宮君がモデルだからね。相沢は部活のミーティングあるし、衣装のサイズもちょうどよさそうだから」と、黒いベストを指先で揺らした。 その言葉につられて振り返ると、篠宮君は昨日自分で縫ったベストを手にしたまま、裾のあたりを真剣な顔で見つめていた。右側がほんの少しだけ上がっていて、本人はそれがどうしても気になるらしい。「高梨、やっぱりここだけ縫い直してもいい? 三ミリくらいずれてる」
last updateLast Updated : 2026-09-01
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第21話 「好きな人に食べさせてもらうのは、普通ですか?」御曹司は距離感をまだ知りません

 翌朝、私は母から預かった小さな白い箱を崩さないように両手で抱えながら教室へ入った。いつもの席へ向かうと、隣に座っていた篠宮君は教科書から顔を上げるなり、私より先に箱へ視線を向けた。「高梨、その箱は昨日送ってくれた柚子のタルト?」「朝一番に聞くことがそれなの? 普通は先に『おはよう』でしょう」「あ……おはよう、高梨。それで、その箱は柚子のタルト?」「結局聞くんじゃん」 笑いながら机の上へ箱を置く。中に入っているのは、先日九条本邸を訪れた時に征一郎さんから母への手土産としてもらった柚子を使い、昨夜母が試作した小さなタルトだった。柚子の皮を混ぜ込んだアーモンドクリームに薄く煮た果肉を重ね、表面にはほんの少し蜂蜜を塗ってあるらしい。「一個だけ持ってきたけど、今は駄目だよ。お昼まで家庭科準備室の冷蔵庫に入れておくから」「昼休みまであと三時間四十分くらいか」「数えないでよ。そんなに楽しみにしてたの?」「昨日から楽しみにしてた。高梨の家で作ったものだから」 いつものように何でもない顔で言う。
last updateLast Updated : 2026-09-02
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第23話 九条家で「普通」を望んだ男は、恋人を奪われて家を去りました

 文化祭まであと十五日となった朝、私は駅から学校へ向かう坂道を歩きながら、昨日の放課後に篠宮君と交わした約束を思い出していた。 接客練習で「ご注文は?」と聞いただけなのに、真顔で「高梨と二人で過ごす時間を一つ」と注文され、冗談として突っぱねておけばよかったものを、私は最後には「文化祭の準備が早く終わった日なら、少しくらい」と答えてしまった。美咲からは遠くから「それもうデートじゃない?」と笑われたけれど、私は違うと否定したし、篠宮君にもデートだとは一言も言っていない。 言っていないのだから、デートではない。 そういうことにしておきたい。 ところが教室へ入ると、篠宮君はすでに登校していて、私が鞄を置くのを待っていたように振り向いた。「おはよう、高梨。今日の文化祭準備は何時に終わる予定?」「おはよう。……朝一番に聞くことがそれ?」「昨日、高梨が準備が早く終わった日に二人で過ごしてもいいと言ったから、条件を確認しておきたい」「条件って言い方すると、何か契約みたいで嫌なんだけど」「じゃあ約束?」「それも妙に重いなあ。普通に、時間があっ
last updateLast Updated : 2026-09-04
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第27話 「二人きりの時だけ、紗季と呼んでもいい?」恋人になった彼の最初のお願い

 文化祭まであと十一日となった朝、私は昨日より少しだけ軽い気持ちで教室へ向かっていた。文化祭アカウントへ私と篠宮君が手をつないで歩く写真を送られたことは今でも腹が立つし、誰かが放課後の私たちを見張っていたかもしれないと思えば怖くないはずがない。それでも昨夜、母へ「怖くなったけれど、篠宮君と付き合ったことを後悔しているわけではない」と口にしたことで、自分の中にあった迷いの一つには区切りをつけられた気がしていた。 教室へ入ると、篠宮君はすでに窓際の席へ座っていた。いつもの黒縁眼鏡とぼさぼさの髪、特殊メイクで作った冴えない顔は昨日までとまったく変わらないのに、私には彼がかなり機嫌よく私を待っていたことがわかる。付き合う前は、美咲たちから「篠宮君は紗季を見る時だけわかりやすい」と言われても半信半疑だったけれど、今なら少し納得できた。「おはよう、高梨。今日は昨日より三分早いね」「おはよう。朝から人の登校時間を記録しないでよ。まさか私が来るまで時計を見てたの?」「見てた。昨日から恋人になった高梨が教室へ入ってくるのを待っていたから、いつもより時間が気になった」「そういうことを朝一番から普通の声で言わないで。付き合ったことは美咲と莉奈には知られたけど、クラス全員へ発表したわけじゃないんだから」「付き合っていること自体を隠したいわけではないんだよね?」「隠したいというより、わざわざ言いふらしたくないだけ。篠宮君の正体を隠してい
last updateLast Updated : 2026-09-08
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第28話 「両方を選ぶ答えは認めない」なんて、勝手に決めないでください

 文化祭まであと十日となった朝、私はいつもの時間に家を出て駅へ向かっていたのだけれど、改札が見え始めたところで黒崎さんから電話がかかってきた。黒崎さん本人から登校前に連絡が来ること自体が珍しいので、画面に表示された名前を見ただけで嫌な予感がしたが、通話を始めるなり「今朝、九条グループ本社へ蓮司様宛ての封筒が匿名で届けられました」と告げられ、その中に青凪高校の文化祭で使われる教室配置図が入っていたと聞いた瞬間、眠気は完全に消えた。「配置図って、うちのクラスだけじゃなくて文化祭全体のですか?」『いえ、二年三組が使用する教室周辺を中心に切り取られたものです。ただし、それ以上に問題なのは同封されていた文書です。蓮司様へ、文化祭当日に九条家の後継者として生きるのか、それとも高梨様を選ぶのか、どちらかを選択するよう要求する内容でした』「……どうして私と九条家が同じ選択肢に並べられてるんですか。私、篠宮君に九条家を辞めてほしいなんて一度も言ったことありませんけど」『存じております。文面にはさらに「両方を選ぶという答えは認めません」と明記されています』 その言葉を聞いた途端、怖さより先に腹が立った。昨日まで篠宮君と話していたことが、そのまま最悪の形で現実になったように思えたからだ。「それ、ものすごく勝手じゃないですか。付き合って三日しか経ってない高校生に、恋人か世界的企業の後継者か選べって言うだけでも十分おかしいのに、どうして会ったこともない人から答え方まで指定されなきゃいけないんです
last updateLast Updated : 2026-09-09
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第29話 婚約者候補だった彼女から「文化祭へ行ってもいい?」と聞かれました

 文化祭まであと九日となった朝、私は目覚まし時計が鳴るより少し早く目を覚ました。九条家の問題が片づいたからではなく、むしろ昨日より一つ厄介な材料が増えているのだけれど、それでも最近の私は、何かが起こるたびに一晩中眠れなくなるほど追いつめられることは少なくなっていた。怖いことは怖いし、知らない誰かに自分たちの生活を覗かれている気持ち悪さだって消えていないが、それとは別に学校へ行けば美咲たちがいて、文化祭の準備があり、隣の席には篠宮君がいるという日常も続いている。その両方が自分の生活なのだと、少しずつ受け入れられるようになってきたのかもしれない。 朝食を食べながらスマートフォンを確認すると、西園寺綾乃さんから昨夜遅くに届いたメッセージが一件残っていた。『突然ごめんなさい。青凪高校の文化祭へ伺っても構わないかしら。もちろん、紗季さんや蓮司さんに迷惑がかかるようなら遠慮します。それと、美玲さんから少しだけ聞いたのだけれど、お二人がお付き合いを始めたというのは本当でしょうか。もし本当なら、お祝いを申し上げてもよいのか迷っています』 朝から読むには少し重たい文章だった。「何でお祝いを言っていいかまで許可を取るんだろう……」 思わず呟くと、向かいでコーヒーを飲んでいた母が顔を上げた。「誰から?」「西園寺さん。前に話した、篠宮君の婚約者候補だった人」
last updateLast Updated : 2026-09-10
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