翌朝、教室のドアを開けた瞬間に真っ先に目へ入ったのは、昨日までなら何の疑問もなく「篠宮君」だと思っていた、ぼさぼさした黒髪と分厚い黒縁眼鏡の男子だった。窓際から二列目、私の隣の席で教科書を開いている姿は、転校してきた初日から何も変わっていないし、制服の着方も、少し猫背に見える座り方も、青いシャープペンシルを右手で回そうとしてうまく回せず落としそうになるところまで同じなのに、昨日の夕方、特殊メイクを全部落として私の前に現れた九条蓮司の顔を知ってしまった今となっては、そのすべてが別物に見えてしまう。太く見える眉の下には、本当はもっとすっきりした目元がある。荒れて見える肌の一部は人工皮膚とメイクで作られていて、黒縁眼鏡には度すら入っていない。ぼさぼさの髪だって、本人の髪ではなくウィッグ。それどころか、猫背まで意識して作っている。知ってしまった。全部。少なくとも、外見については。「……おはよう」私はできるだけいつも通りの声で言ったつもりだった。篠宮君が顔を上げる。「おはよう、高梨」声は同じ。それだけで少し安心する自分と、安心してしまうこと自体に腹が立つ自分が同時にいた。「昨日は眠れたか?」「その質問、誰のせいで眠れなかったと思ってるの?」「俺だと思う」「即答できるなら聞かないでよ」「すま――」途中で止まる。私は思わず彼を見る。「何?」「謝るのは禁止だった」覚えていたらしい。「そういうところだけ律儀だね」「では、何と言えばいい?」「別に何も言わなくていいよ。私も
Última atualização : 2026-08-23 Ler mais