「かしこまりました、星崎様。ルンディアでのウェディングフォト撮影を、ソロウェディングの撮影に変更するということでよろしいですね?そちらの件、事前に婚約者様にお知らせする必要はございますか?」撮影スタジオのスタッフが、恐る恐る尋ねてきた。私はパソコン画面の撮影プランを静かに見つめた。「必要ありません」電話を切ると、パソコンの画面が暗くなった。私は、航と5年間一緒に住んだこのマンションを見渡した。100平方メートルの部屋は、かつて私たちが思い描く未来で満たされていた。しかし今、ソファにあった無地のクッションは、晴香が「可愛い」と言ったぬいぐるみに変わっている。ローテーブルのドリップ用コーヒーポットは、晴香が「便利」と言ったカプセル式メーカーに変わっている。玄関の靴箱のそばにさえ、晴香専用のピンクのウサギ柄スリッパが1足増えた。私は洗面所に行き、顔を洗おうとした。大理石のカウンターの上に、開封済みの高級香水が堂々と置かれている。香りは、晴香が一番好きなブルーベルだ。その横には、ラインストーンのリボンがついたヘアゴムが転がっている。私はそのヘアゴムをじっと見つめた。見覚えがある。それは晴香のものだ。スマホが振動し、航からボイスメッセージが届いた。【結衣、忘年会の後、みんなに囃し立てられて、晴香をビザ申請センターに連れてきたんだ】続いて、写真が1枚送られてきた。写真の中では、晴香がパスポートを手に持ち、申請窓口のカメラに向かって満面の笑みを浮かべていた。【彼女、海外に行くのが初めてで、何も分からないんだ。申請書の書き方すら知らないから、俺が手伝ってやってる。近くに美味しい寿司屋があるんだけど、お前も一緒にどう?】私は画面を見つめながら、手足から血の気が引いていくのを感じた。先月、私は1人でビザの申請に行った。窓口で煩雑な書類に頭を抱え、彼に助けを求めて電話をした。彼の電話の向こうはとても騒がしかった。「結衣、自分で係員に聞いてくれ。晴香の業務レポートが間違ってたから、俺がデータの照合を手伝ってやらなきゃいけないんだ」私は1人で分厚い書類を抱え、係員の急かすような視線の中で30分も立ち尽くした。それなのに今、彼は自分のアシスタントに、手取り足取りルンディア行き
Read more