All Chapters of あなたの夫を買います。離婚してください: Chapter 11 - Chapter 12

12 Chapters

11話

 10月15日、律子から入金の連絡が来た。 買収が成立し、高井側から、律子の事務所が管理する私のための口座へ5億円が直接送られていた。啓介へ渡す代金から、離婚の合意どおりに支払われたのだった。 私は送られてきた明細を開いた。 「これで、5億円の支払いは完了です」 「ありがとうございます」 電話を切ってからも、しばらく画面を見ていた。数字の桁を数え直した。これだけのお金が入ったことを、すぐには自分の暮らしと結びつけられなかった。 夕飯の時間になると、ひよりはいつもの椅子に座った。 「ママ、食べないの?」 「食べるよ」 私はスマートフォンを伏せ、向かいに座った。ひよりは手を合わせ、椀を持ち上げた。 啓介がいた頃と同じ木のテーブルだった。娘はいつもどおり夕飯を食べていた。今日、入金があったと教えても、科学館のあの日が別の日になるわけではなかった。 桁の多い数字を気にしていたのは、私だけだった。 自宅の名義の手続きも済ませた。空いた書斎には、私の作業机を置いた。ひよりが学校から帰ってくると、どこまで終わったの、と入口からのぞくようになった。 科学館でのことがあって、親子交流はいったん2か月休むことにした。 冬になっても、ひよりの気持ちは揺れていた。学校から持ち帰ったプリントを見ながら、パパにも見せたかったと言う日があった。 「また、会いたい?」 私が聞くと、ひよりは紙を見たまま、うなずいた。 「でも、またお仕事って言うかもしれない」
last updateLast Updated : 2026-09-15
Read more

12話

4月の朝、ひよりは椀に残ったわかめを箸で集めていた。小学4年生になって、1週間がたっていた。 「そろそろ出ないと、遅れるよ」 「あとひと口」 「わかめは逃げないから」 「学校は逃げる」 そんなことを言いながら、ひよりは最後まで味噌汁を飲んだ。椀を流しへ運び、ランドセルを背負った。 「今日、家族カード返ってくる」 3年生の授業で作ったものではなかった。新しい担任が、【わたしが帰りたい場所】という題で書かせたカードだった。 「見せてくれる?」 「考えとく」 私はうなずき、玄関まで一緒に行った。 「いってらっしゃい」 「いってきます」 エレベーターの扉が閉まるまで見送り、それから食卓を片づけた。 書斎の窓際には、私の作業机があった。灰色の保存箱は、鍵のかかる棚に収めていた。7冊のノートはスキャンしても、原本を会社に預けてはいなかった。 机の上には、介護する家族へ聞き取りをしたシートが広がっていた。 誰が何を担当するか。それだけでなく、すぐには返事ができない日も書き込める冊子を作っていた。私は答えを読み返しながら、図解の横に入れる文章を整えた。 まだ書き終わっていない箇所に印をつけ、続いて見積書を開いた。原稿と図解、修正の回数、使える範囲。依頼されている仕事と食い違いがないか、順に確かめた。 最後に、自分の名前を入れた。 高井生活デザインとの打合せへ出かける前に、紙をまとめた。机の外に
last updateLast Updated : 2026-09-16
Read more
PREV
12
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status