銀行から届いたメッセージを開くと、画面にはその金額が表示されていた。16億円。振込人は義父・神谷宗一郎(かみや そういちろう)だった。間を置かず、宗一郎からメッセージが届く。【つらい思いをさせたな。だが、神谷家の血を引く子だから、外に置いておくわけにもいかないんだ】私は携帯を胸元に伏せ、天井の青白い照明をぼんやりと見つめた。まだ麻酔が完全には抜けていなくて、下腹部にはぽっかりと穴が開いたような、何か大切なものをえぐり取られたような空虚さだけが残っている。隣から、また赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。とても元気な声だった。続いて聞こえてきたのは、男の笑い声。聞き間違えるはずもない……駿介の声。交際して4年、結婚して2年。耳元で何度も聞いてきたあの笑い声が、今はたった一枚の壁の向こうから聞こえてくる。なのに、まるで別世界の出来事のように感じてしまう。廊下では看護師たちが話していた。声を潜めているつもりなのだろうが、静かな病室には嫌でも届いてくる。「423号室の患者さん、かわいそう……大量出血で運ばれてきたのに、旦那さん、隣で愛人の出産に付き添ってるんだって」もう一人の看護師も声を潜める。「神谷家の人らしいよ。ほら、あの神谷グループの……旦那さん、ずっと前から不倫してるみたいだけど、奥さんの方の家族が離婚を許してくれないんだって」「なんで?」「お金でしょ。あれだけの家に娘が嫁いだら、そう簡単には手放せないじゃない?」訂正する気力もなかったし、そもそも、訂正する気にもなれない。駿介の不倫に初めて気づいたのは、ワイシャツの襟についた口紅が原因だった。私はそのシャツを手に、寝室の前で仕事の接待に出ている彼の帰りを待った。午前2時、酒の臭いをまとって帰宅した駿介は、私が持っているシャツを見ると一瞬だけ動きを止め、それから笑った。「それがどうした?付き合いの席でたまたまついただけだ」私は言い返した。「襟の内側についてるのに?どんな付き合いなら、そんなところに口紅がつくの?」駿介は面倒そうに手を振った。「お前が信じないなら、それでもいい」その夜、私たちは寝室で激しく言い争った。苛立ち任せにベッドサイドのランプを床へ叩きつけた駿介。砕けた硝子が、床一面に飛び散った。裸足の私はその真ん中に立ったまま、駿介を見
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